1.1 アーリーリタイアメント

 カナメは過去に何度も会社を辞めると宣言している。

 数年前には辞表を提出するスケジュールまで綿密に計画をしていて、そのため当時高校生だった末っ子の転校先を本気で探していた。アプリケーション(出願)の書類を先方に送り、最終的な面談を経ることを条件にほぼ受け入れていただけるところまで段取りが進んでいた。

 結果的にその時は会社に残ることになって、家族内では「会社辞める辞める詐欺」という名前で記憶される事件となってしまうほどだった。
 今回も過去によくある辞める辞める詐欺の可能性があるため、私としては退職後のことを具体的に考えるよりも、あと数年現状維持の可能性があるということで、自分の今後のキャリアについて色々と考えて行動していたので、本当に会社に退職の意思を伝えたと聞いた時にも、まだ半信半疑であった。

 それが実感を持って感じられたのは、退職に伴い社宅扱いであった某アパートから転出するために、引越業者さんの見積もりを受けた頃だったと思う。引越するというより、とうとう日本に帰国するのだなと思うとかなり嬉しかったという事実は、私自身を少し狼狽させた。なぜなら、海外生活が本当に刺激に満ちて面白く気に入っていたから、日本への完全帰国が決まったら、私はきっと相当落ち込むんじゃないかとと予想していたからだ。

でもさー!!!

 その時に滞在していたのは、韓国のソウルで、某大統領が就任して以来、韓国人の間でも言論統制でもされてる?っていくらい過去のどの時代よりも不穏な空気が漂っていたのよー!!マジで大きく何かが動こうとしているのを感じていたし、韓国への韓方ツーリズム情報サイトを準備していた私が強く強く「韓国から手を引くか」と決断するほどに事態は静かに動いているのを感じていたのだ(この件については、別途詳しく書いてみたいが…)。

 その上、PM2.5が年々ひどくなっているにも関わらず、その対策が全く講じられる様子がなく、来年も、そしてその翌年も、さらに空気が悪くなるのが決定的であったことが、少なくない海外暮らしへの未練を断ち切らせてくれたのだ。

 個人的にはこの時のカナメの判断は、会社員生活にピリオドを打つということと同時に、私たちファミリーの韓国撤退を決意した瞬間であったとも言える。

 そう。とうとう日本に完全帰国する日が来たのだ。

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