1.7 廃墟化した実家に帰ってみたら...

 無情にも帰国の日がやってきてしまった。とりあえずカナメの実家以外に身を寄せる場所はない。ということで実家に着いたが、いきなりのトラップに見舞われる。

 まず、水道から水が出ない(汗)。お風呂どころかトイレが使えない。

 大きなスーツケースをゴロゴロと引いて、手元にあるいくつかの鍵の中から遠い記憶を頼りに鍵を探し当てて、ようやく玄関を開けて中に入り、窓を開けて空気の入れ替えをした。たしかに古いけれども、十余年前に一度大掛かりな断捨離(解体業者さんにお願いしてトラック二台分を一気に廃棄したことが.....)をしたおかげで、一見すると問題なく住めそうだと少し安堵したところだった。

水が出ないって.....orz

 カナメはすぐに、いつもお世話になっている工務店のミズキさんに連絡をとった。とりあえずミズキさんはすぐに来てくださったのだが、即日直るようなものではないということだけは分かった。その修理の手配をお願いして、とりあえず緊急で近くのホテルに一泊することになった。

 久しぶりにミズキさんに会えたカナメは、昔を懐かしむように色々な話をしていたが、「ちなみに、ここをリノベーションするとしたら、いくらくらいかかりますかね?」という言葉を投げかけた。私は内心ギョッとしたが、カナメの言う「ちなみに」という言葉が、まぁ本気じゃないけど、ちょっとおまけで聞いてみようか、というニュアンスを含む言葉に思えたので、あまり過剰反応しないでおこうと自分を言い聞かせていた。っていうか、リノベするといくらかかるかというのは、興味がないわけではない。話のタネとしても面白いし。聞いて損でもないし。

その後、ミズキさんとカナメは、何やら具体的な例を出して、そのコストがどれくらいかかるのかという話をしていたが、私の方はというと、「なるほど、そのくらいかかるのかぁ」と脳内ではぼーっと聞いていたように思う。

とにかくだ。私たちは今日実家に帰ってきた。そして、なんとなくイヤな予感が的中したかの様に、前途多難な一日目がスタートした。

 とは言っても、何年も使ってなかった家に帰り、即日住めるようになるとは私だって思ってなかったので、まぁこれは想定内ではあった。

 翌日に水は出るようになったが、今度はお湯が出ず、数日後にお湯は出るようになったが、屋上に設置していた洗濯機への給水はできず。そんなこんなで数週間を要してしまった。この間、私たちは別の滞在先を確保するしかなく、その滞在先と実家の間を行ったり来たりしつつ、廃墟と化した実家を、少しずつ片付けていくことになった。

 当初の予定の「どこに住むか問題」を考える以前に、実家を片付けないといけないんだなぁ、と私は漫然と理解した。

カナメがぽつりと言った。

「ずっと気になってたんだよね。実家をこのまま放置しておいてもいけないって。海外にいて、親のことも全く考えずに、まぁ子供のこともあるからオレも余裕なかったんだけど。こうやって家に帰ってくると考えざるを得ないよね。これで良かったのかなって。親のことも実家のことも全然考えずに来て、良かったのかなって。だから、せめて実家をキチンと整理しないと、オレ、これからの人生をスタートできない気がするねん。」

 彼の言っている言葉の意味はわかるけど、私としては釈然としない気がしていた。実家の整理をするのは大賛成。テナントも入らない廃墟と化した不動産を、このまま放置しておいて良いわけがない。キレイに片付けをしておけば、また新たなテナントさんが入ってくれるかもしれないしね。

でもさ。

それが終わったら東京に住むんだよね?


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?