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現世界グルメ『有終の美』


 美食について考える。料理には基本的に2つの種類がある。丼料理に代表される、一皿で完結する料理と、フルコースや懐石料理のように多彩な皿を並べる料理だ。
 このどちらが好きなのか、どちらが偉いのか。そんな事はどうでもいい。どちらにも良さがあり、どちらも素晴らしい。
 ラーメン、オムライス、親子丼、カツ丼、カレー、焼きそばやオムライス、スパゲッティなどが前者の一皿で完結する料理。
 英国式、仏蘭西式、露西亜式などのフルコース、そして、日本の懐石料理など。こちらが後者。
 無論、その中間も存在する。わかりやすく言えば、日本の「定食」などはその中間に位置すると言えるだろう。
 フランス料理のドゥ・プラ(2皿の意味。基本的に前菜とメイン)などもそれに該当する。
 また、それとは方向性の違う、中華の満漢全席などもあり、一概に言えるものではない。
 日本の弁当なども、分類が難しい所だ。
 しかし、これらの様々な料理スタイルの中で、多くの料理に共通する事がある。

 それがデザート、甘味だ。
 デセール、ドルチェ、菓子、甘味。言葉は違えども基本は「最後を飾る甘味」である。
 そう。中には「お口直し」の氷菓子として、グラニテやソルベが用意される事もあるし、料理の中にはしっかりと甘い味で付けのものがあったりもする。しかし、甘い物は基本的に最後。
 一皿で完結する料理であれ、甘い物は別腹なんて言うぐらいに、食後のデザートは別格の扱いなのである。
 しかし、言及したいのはデザートの話ではない。
 最後のデザートが存在するなら、それはやはり料理には「順序」が存在すると言う事に他ならないのである。
 確かに、文化や個人差はあるだろう。しかし、メイン料理にサラダを持ってくる人は少ない。
 食前酒からハードリカーを口にする人間も少ないだろう。食を楽しむ、と言う点では、どんな順番で何を食ったってかまやしない。好きなように食え。
 しかし、美食となるとそうではなくなる。コース料理の順番は誰が決めた? 食事がいきなりメイン料理から始まらないのは何故か。寿司ネタに注文する順番があるのは何故か。そしてそれは正しいのか。
 美食とは、その追求にこそあるのではないか。
 とは言っても、個人の好みが大きくわかれる食事に、哲学めいた話で小難しく味付けする必要もない。
 話が広がりすぎても収集がつかない。だからこそ、今回は「有終の美」こと、「締めの料理」について話していこうと思う。

 「締めの〇〇を食いに行こうぜ!」と言うのは飲屋街の深夜から明け方にかけて、実によく交わされる言葉である。
 体感としては圧倒的に「ラーメン」が多い。
 実際、既に飲み食いしているのに、それでも締めの料理を欲するのは、主に深酒が原因で満腹中枢が狂っている事が原因のひとつだ。
 しかも、飲屋街にはラーメン屋が多数存在している。そして、アルコールは利尿作用があり、過剰に塩分を排出してしまうため、塩っ気の強いラーメンが好まれる、と言う訳だ。なるほど理に適っている。
 アルコールで鈍った舌にもわかりやすい、油と塩。納得の理由だが、それならば蕎麦でも、うどんでもいいのではないか。
 なぜラーメンなのか。答えは単純である。深夜にはラーメン屋しか開いていないからだ。
 存在しない訳ではないが、数が少ない。うどん屋も蕎麦屋も存在しているし、大体は客で満席になっている。つまり、需要はあるがラーメン以外の供給が足りていないだけなのだ。
 単純な話、飲屋街で24Hの牛丼屋があれば、大体は席が埋まる。始発までの時間をそこで潰す目的もあるだろうが、要するに飲んだ後は満腹中枢が馬鹿になっていたり、塩分不足で何かを食べたくなる。
 一晩の宴における「締めの料理」ってのはそう言ったものも含まれるのだ。
 では、締めの料理にこそ相応しい料理とは何か。
 本当にそれはラーメンなのだろうか。それを分析してみたい。
 前述したが、好みもあるとは言え、ラーメンに人気が集中するのは「安定した供給がある」からに過ぎず、「価格」や「塩分」「味の濃さ」 そして「満腹度」という条件を満たしている事が大きい。
 特に、「満腹度」の点は、「腹が減っているような気がしていたが、いざ食べ始めたら食えなかった」という酔っ払いならではの厄介な問題を、「麺だけ食べてスープを残せばいい」という形でクリア出来るのも利点なのだろう。
 筆者はスープを残すのが嫌だと言うか、他の客がスープを残している姿を見るのも嫌なので、その点でもラーメン店は避けがちである。
 なお、この条件ならうどん屋や蕎麦屋も同様に見えるが、深夜営業のうどん屋や蕎麦屋が少ないだけでなく、「考えるのも面倒だからラーメン屋でいいや」という酔客が少ないので、わずかながら客層が上品に感じられる。
 特に、ラーメン屋→うどん屋→蕎麦屋の順に客の品性が上がるようだ。確かに蕎麦屋は少々値段も上がりがちなので、それが客の質を上げている部分はあると言えるが、それではラーメンより安いことの多いうどん屋の客室が良い事の説明にはならない。
 結局、どうやら世間的にチェーン店の牛丼屋やラーメン店を下に見て「舐めている」客が多いって事で、酔うとその本音が垣間見えているだけなのではないだろうか。
 店側から反撃を食らいそうな場所には近寄らない、と言うのが答えのような気がしてならない。

 少し話が脱線しているようなので戻すと、酒の後の「締めの料理」にはいくつか派閥があるようで、「ラーメン派」「うどん派」「蕎麦派」という麺類一大派閥。そして、各種丼の米派閥。更には「たこ焼き」や「お好み焼き」と言ったソース派閥もある。
 そして、話の導入にもなったアイスクリーム、ケーキなどのデザート派だ。

 この中で、不足する塩分、更に「濃い味」をターゲットにすると、ソース派閥が正解となる。
 排出された塩分を補いつつ、アルコールで馬鹿になった舌でも感じる味。それが「ソース味」だ。
 この点においては安心と安定のソース派。しかし、水分不足を補うには再びビールを飲まねばならない。そして、酔っ払い的に、焼けるのを待っている時間が耐えられない、と言った問題もある。

 この点、丼はいい。牛丼なら早くて安くて安定の味。しかも、天丼などを除けば水分が多く、なんと言っても米を食うという安心感がある。
 しかし、ガッツリとした味付けと言うには乏しく、酔った身にも優しくサラリと食える訳でもない。
 平均点は高いが、特化して良いところも見当たらないのがウィークポイントか。

 そうなると蕎麦やうどんが相当に高得点を取れる。しかし、しっかりした蕎麦屋ほど深夜には開いていないし、ざるそばや盛り蕎麦は締めには向かない。
 ただし、蕎麦屋のみをすればわかるが、蕎麦を味わい、酒を楽しみ、つまみを食い、かやくご飯で腹を満たすと、締めは「蕎麦湯」になる。
 つまり、蕎麦屋は一軒で完結できるように完成されている訳だ。

 うどん屋はと言うと少し違う。しっかりと麺を味わうコシのあるうどん店は、基本的に深夜営業していない。深夜でも開いているうどん屋は主に「かけうどん」で麺も柔め。要するに、しっかりと濃い味付けとは対極の、酒で疲れた胃にも優しい、さらりとしたうどんが提供される事が多い。
 たかだか飲屋街の料理と笑う勿れ。やはり食文化は求められている形になっていくと言う事なのだ。

 そして、前述した中には書いていない派閥がもうひとつある。

 出汁派だ。
 つまり、炭水化物などを摂るのではなく、さらりと飲める点に重きを置き、塩分を欲するなら味噌汁を。二日酔いに備えるなら貝汁を。
 こういった派閥もあるが、基本的に若者には人気がない。肉体が衰えた中年以降に優しい料理である。

 さて。他にも幾らかの料理はあるだろうが、美食を求める者として、「締めに最も相応しい料理とは何か」 以上の考察から、1つの答えを出したいと思う。
 酒を飲んだ後に最も相応しい「締めの料理」 それは、

 お茶漬け。

 値段も高くなく、味も安定。提供時間も早く、水分と塩分も補給でき、さらりと米まで食えてしまう。
 更には、味のわからない酔っ払いにはワサビを。
 足りない塩分には梅干しを。
 二日酔いを考慮するなら出汁漬けを。

 締めの究極の料理。それはお茶漬け・出汁漬けではないか。そう考えるに至ったのである。
 ところで、この記事を書くにあたり、数人とディスカッションしていた訳だが、この時は「この酒にはどんな締めがいいか」また「この料理ならどんな締めがいいか」という議論が飛び交った次第だ。
 前述の「蕎麦の締めは何か」などもそこで発された話題である。
 なお、何故かやたらとカルヴァドス推しの人物がいて、


 「カルヴァドスを飲んでたら、何が締めに相応しいですか!?」


 という質問が飛び出した。


 (´・Д・)」 キミは単に、

 カルヴァドスって言いたいだけ

 ちゃうんか?


 とは思ったし、ハードリカー(カルヴァドスはリンゴの蒸留酒。だいたい40%ぐらいの強いアルコール)を飲んでたら、もうその酒が締めだろ、とか、締めの飯の後に飲み足りなくて飲む酒だろ、とか、カマンベールチーズでも齧ってなさい、とか思わなくもないが、

 美食を求める者として真摯にお答えいたしますと、カルヴァドスに合う締めとしては、


 (´・Д・)」 満たされるまで、
 アップルパイを齧りなさい。


 ※ この記事はすべて無料で読めますが、締めの料理が何派でも、投げ銭(¥100)をお願いします。
 なお、この先には「この記事を書いてて思ったこと」しか書かれてません。


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(´・Д・)」 文字を書いて生きていく事が、子供の頃からの夢でした。 コロナの影響で自分の店を失う事になり、妙な形で、今更になって文字を飯の種の足しにするとは思いませんでしたが、応援よろしくお願いします。