見出し画像

カマ・セ・イヌーの恐るべき策略

 光の戦士ウェーべライト・アイレスバロウは、世界を救った英雄として讃えられている。
 だが彼女を恨む者もいた。
 この日、悪人達が廃屋に集まっていた。
 彼らは皆出自や立場が異なる。

「野郎ども、今日は集まってくれて嬉しいぜ!」

 彼らを集めたのはカマ・セ・イヌーというミコッテの男だ。

「ここにいる連中は、あの光の戦士にひどい目にあわされた! アイツを許しちゃおけねえ! そうだろ!?」

 そうだ、そうだと悪人達が叫ぶ。
  
「私は気に食わない同僚を異端審問しようとしただけなのに、あのメイドのせいでイシュガルドを追放された。!」
「私は、世界中に麻薬を広める夢を潰された。うぅぅぅぅ」
「よそ者を100人ぽっち精霊様の生贄にしょうとしただけで、私は犯罪者扱いだ」
「俺の転売は、欲しがってる人に欲しいものを届ける正義の転売なのに、ちくしょう!」
 
 他の者達も、自分が光の戦士にいかに虐げられたのかを語る。
 やがて全員の話を聞いたカマ・セが立つ。

「世間じゃあ光の戦士は世界を救った英雄だとか言われてるが、あの女は俺達を救うどころか虐げた! 復讐だ! そうじゃなきゃ世の中の帳尻が合わないだろ!」

 復讐だ! 復讐だ! と悪人達は連呼する。

「そこでだ、今日は俺達にとって頼りになる助っ人を呼んだ。おい、来てくれ!」

 現れたのはアウラのメイドだった。

「どーも! ウェンディ・アイレスバロウです」

 彼女が名乗ったアイレスバロウの名に悪人達はどよめいた。
 その名前が事実ならば、ウェンディは光の戦士の身内だ。

「こいつはアイレスバロウ家の人間だが、俺達の味方だ。安心しろ!」

 光の戦士の身内をこちら側に寝返らせた。カマ・セの恐るべき策略力(ちから)に悪人達は畏怖と尊敬の念を向けた。
 
「そうそう。私もね、みんなのことすごく可愛そうだと思うよ。なんとかしてあげたい。そこで耳寄りの情報を持ってきたわ」

 何人かが興味深そうな眼差しをウェンディに向けた。

「実はね、アイレスバロウ家にはウェーべライトがこれまでの冒険で集めた財宝が保管されてるの」

 悪人達はざわつく。
 光の戦士はもはや世界一の冒険者だ。それが集めた財宝となれば、青天井の高値で売れるし、もしかしたら強力な力にもなるかもしれない。
 
「やっぱり、財宝ってのは溜め込んでるのはもったいないと思うわ。こういうのは社会に還元しないと。だから私がみんなをアイレスバロウの本家に案内してあげるわ。もちろん、私も取り分をもらうけどね」

 ウェンディは親指を人差し指で輪っかを作る。

「お前はアイレスバロウ家を裏切るのか?」
「当たり前でしょ。だってお金より大事なものなんてないでしょう?」

 悪人達の中で特に金にがめつい者達がしみじみとうなずいた。
 
「というわけで、アイレスバロウ家に攻め込むぞ!」
『おおおお!!』

 悪人達の雄叫びは、廃屋をびりびりと揺らすほどだった。

 アイレスバロウ家の所在地は部外者には一切知られていない秘密の場所にある。
 しばしばここにアイレスバロウの本家があると噂が出てくるが、しかしそのどれもが真実ではなかった。

「と、言うわけでここがアイレスバロウの本家よ」

 ウェンディが案内したのは外地ラノシアに隠れるように建っている屋敷だった。
 夜明けの直前で、空が僅かに白んでいる。
 屋敷の住民はまだ眠っているのか静かだった。

「よし、行くぞ!」
『おお!』
「頑張ってねー」

 意気揚々と攻め込む悪人達に、ウェンディは手をひらひらと振りながら声援を送った。
 カマ・セを先頭に悪人達が玄関を蹴破って屋敷内に殺到する。
 金目のものは全て奪い、男は殺し、女は犯す。どす黒い欲望に飢えた悪人達は獲物を探して屋敷を駆けずり回った。
 悪人達は何組かに分かれた。

 カマ・セは光の戦士の財宝を探したが、割と結構やみくもに探していた。
 すでに成功を確信していたカマ・セは、なんか、こう、その場の流れとかでいけるだろと思っていたのだ。
 カマ・セ達は廊下を右へ左へと曲がる。
 外から見た時は普通の屋敷だったが、内部の間取りは異様に入り組んでいた。
 どう考えても、住民の利便性を考えていない。

「おい、この屋敷の間取り、なんか変」

 仲間のエレゼンが何かを言いかけたその時、彼の足元の床がぱっかりと開いた。

「うあああああ!!!」

 エレゼンは奈落のそこへと消えた。

「な、何だ!? どうなってる」

 カマ・セは動揺した。

『あ、あー、もしもし悪人の皆様方、聞こえますか?』

 どこからともなく女の声がする。

「その声は、ウェーべライト!」

 声は天井にあるリンクパール内蔵スピーカーからだった。

『ようこそお越しくださいました。しかし、申し訳ありませんが、ここはアイレスバロウの本家ではありません。ここは当家自慢の悪人ぶっ殺しハウスでございます』
『悪人ぶっ殺しハウス!?!?!?!?!?!』 

 予想外の言葉に、カマ・セ達は驚愕した。

「じょ、冗談じゃねえ!」

 ルガディンの男が冷や汗をかきながら言った。

「こんなところにいられっか! 俺は逃げるぞ!」

 ルガディンは窓から出ようとしたが、シャッターが殺人的速度で降りてきた。

『実は、ガーロンド・アイアンワークス様に悪人ぶっ殺しハウスをリフォームしていただきました。皆様はリフォーム後の最初のお客様です。それではウェンディ、お客様におもてなしを』
「はーい、姉さん」

 いつの間にかいウェンディがいた。

「どうも、本日、お客様達をおもてなしするウェンディ・アイレスバロウと申します」

 ウェンディは礼儀正しくも威圧的なカーテシーを繰り出した。

「お前、俺達のためにアイレスバロウ家を裏切ったんじゃないのか?」
「は?」

 カマ・セの言葉に、ウェンディは殺意混じりの低い声で言った。

「私がアイレスバロウ家を、ましてやウェーべライト姉さんを裏切るわけないでしょう。あなた達をここに誘い込むために裏切り者のふりをしただけよ」
「ふざけやがって!」

 カマ・セが腰の剣を抜いて斬りかかろうとした時、ウェンディが何かを投擲した。

「うお!」

 カマ・セはとっさに立ち止まる。足元には十字型の武器が刺さっていた。
 それを見た、ララフェルの女が悲鳴のような声を上げる。

「そ、それは、もしかして手裏剣!?」
「ふぅん、物知りね」
「じゃ、じゃああなたは……もしかして」
「そう。忍者よ」
「いやああああああ!!」

 ララフェルはその場で失禁して気絶した。
 彼女はかつて東方で犯罪を行おうとした時、忍者に殺されかかった経験がある。
 その時の不可逆性忍者トラウマを想起させられ、一時的な心神喪失状態に陥ったのだ。
 カマ・セ達はララフェルの恐慌ぶりを見て、忍者が油断ならぬ相手だと悟る。
だが……
 
「いくら忍者だからと言って、こっちの方が頭数はある!」

 カマ・セが叫ぶ。その言葉が、仲間達に闘志を与えた。

「本当に、馬鹿な連中ね」

 ウェンディは軽蔑の眼差しを向ける。

「悪漢、死すべし」

 ウェンディが二本の忍者刀を抜いた。

「みんな、行くぞ!」
『おう!』

 仲間達がウェンディに突進していくのと同時に、カマ・セは反対方向へ走り出した。

「あばよ! せいぜい囮になってくれよ!」

 敵の罠にハマった以上、もはや勝ち目はない。ちょっとでも不利になったら頑張らずに逃げる。それがカマ・セ流の生存術だ。もっとも、その生存術が彼を卑しい悪党に貶めたのだが。
 カマ・セは出口を探して走り出す。
 その時、足の裏にかすかな違和感を抱いた。
 跳躍したのはそれとほぼ同時だ。
 落とし穴の罠が起動する。だが、カマ・セは無事回避できた。

「勘がいいね」

 ガンブレードを持つミコッテの執事がいた。

「お、お前は!?」
「僕はウィリアム・アイレスバロウ。ウェーべライト姉さんの弟分さ」

 ウィリアムはそれが輝かしい名誉であるかのように言った。
 カマ・セはウィリアムもまた先程のウェンディに匹敵する実力者だと悟る。彼には小動物的危機察知能力が備わっており、特に自分より強い相手には敏感だった。

「あ、いたいた」

 背後から聞こえた女の声に、カマ・セの心臓は縮み上がった。
 ウェンディがもう追いついた。いくら忍者だからと言っても、あの人数を瞬殺したとカマ・セは信じられなかった。

「まったく、馬鹿な男ね。せっかく姉さんが命だけは見逃してあげたのに。そう思わない? ウィリアム」
「まったくだねウェンディ。だからさっさと始末しちゃおう」

 ウィリアムのガンブレードとウェンディの忍者刀がギラリと光った。

「ち、ちくしょー!」

 カマ・セは破れかぶれになった。
 彼は最初にウェンディを狙った。男より女の方が弱いという低知能判断によるものだ。
 ウェンディが忍者刀を一閃すると、カマ・セの安物の剣は真っ二つに折れた。
 直後、カマ・セは足に衝撃を受けた。
 ウィリアムが背後から足払いを仕掛けたのだ。
 カマ・セは受け身を取れずい背中から倒れる。

「ぐえぇ!」

 カマ・セはすぐ立ち上がろうとするが、顔のすぐ近くにガンブレードの刃が突き立てられる。
 ウィリアムとウェンディが氷のように冷たい眼差しでカマ・セを見る。

「あ、あばばば……」

 恐怖のあまり、カマ・セはついに失神した。

「二人共、そこまでですよ。武器を収めて」

 そう言って現れたのは光の戦士だった。

「姉さんは優しすぎるよ」
「そうよ。そんなだから、こういうやつがつけあがるのに」
 
 弟分と妹分はそう言いながらも、光の戦士の言葉に従う。

「彼らを生け捕りにすれば結構な額の懸賞金が入りますから、それをアイレスバロウ家の運営資金に当てます。この室内戦訓練用の館のリフォーム代もそこそこ費用がかさみましたからね」

 ここを悪人ぶっ殺しハウスといったのは悪人達を驚かすためだった。実際には、エオルゼア各地にあるアイレスバロウ家の施設の一つにすぎない。
 屋敷内に仕掛けられたトラップも、全ては訓練用の非殺傷型だ。

「さて、そろそろグランドカンパニーが悪人達の身柄を引き受けにやってきます。彼を運びますよ」
「わかったよ」
「はーい」

 ウィリアムとウェンディが手早くカマ・セを簀巻きにして、二人で担いで外へと運ぶ。
 すでに他の悪人達は残らず簀巻きにされて、漁港に水揚げされたルリマグロのように並べられていた。
 それから各国のグランドカンパニーがやってきて、それぞれの管轄の悪人達を引き取る。

「ウィリアム、ウェンディ、今日は手伝ってもらってありがとうございます」
「僕達はいつでも姉さんの味方だよ」
「そうそう。助けてほしいことがあったらいつでも言ってね」
「ふふふ、ありがとうございます」

 光の戦士は頼もしい弟分と妹分に微笑んだ。

「そろそろ夕飯の準備をしましょう。先日、ラザハンで覚えた郷土料理を作りますよ」
「わあ、楽しみだな!」
「姉さんが作るんだから絶対美味しいに決まってるわ」

 こうしてアイレスバロウ家を狙う悪人達は一掃されたのであった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?