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映画と車が紡ぐ世界chapter78

アポロ13 ~ シボレー コルベットスティングレイC3型 1970年式 ~
Apollo 13 ~ Chevrolet Corvette stingray C3 1969 ~

1970年式 コンバチブル
黒赤のコルベットスティングレイは 
鉄くずと タイヤの山に挟まれた スクラップの渓谷から 
ザラリと僕を見つめていた
彼女と視線が重なりあった瞬間
小学生時代の僕が 前頭葉を突き破り 目の前に飛び出して一言・・・

 ”あの娘は 君を待っているよ”

 Kira Kira !

アイアンバンパーが 僕に ウインク

随所に傷やへこみがあるボディだったが
エンジンを含む内装は 時を感じさせない
さすがに
走行メーターは 384,400km(月までの距離)を超えていたが 
キーを回すと 一発起動!
ダッシュボードには 
直線的な傷の配列で ~lucky girl~ と刻まれている 

遠い昔 この車のハンドルを握った人のぬくもりが
コポリ コポリと 湧き出して 僕のハートと同期した
これが 僕がこの娘を手に入れた理由

~lucky girl~とのドライブは
僕を 穏やかな気分にしてくれた
ただ・・・ 刻まれた文字のように ラッキーなことは訪れなかった

と言うより むしろ・・・

コルベットの代金を支払った夜 
友人から希少価値のベアブリックがオークションに出たという連絡が入った
二度と手に入らない逸品だったが 
全て 彼女につぎ込んだ僕には どうしようもなかった

初ドライブは 父を誘った
アメ車好きの父は大いにはしゃいでいたが 
背の低いシートから立ち上がろうとしたとき ぎっくり腰を起こした

lucky girlがやってきて 半年が経ったころ 
エンジンオイルが漏れて  
駐車場の前を通った 自転車に乗った少年を転倒させた

そして今日
やっとのことで デートにまでこぎつけた カノジョとのドライブ! 
しかし・・・
コイツは 嫉妬でもしたかのように 
エンストして動かない
カノジョとのドライブは 延期になった

空が赤く染まるころ 
再び キーを回すと 一発始動!

「ホントに お前はlucky girlだよ・・・」

我儘な彼女を駆って
椿ラインのパーキングにいた僕は
トワイライトの空に浮かぶMt.Fujiと まん丸のお月さまを交互に眺めながら
改めて コルベットを眺めた

コイツを手放した 
前の所有者は どんな末路を迎えたのか・・・

グラマラスなボディが 
獲物を狙う ハナカマキリの如く 妖艶に見えた 

少し背筋に寒さを感じた僕は 
運転席に戻ると 車載テレビをつけた

7インチの画面いっぱいに 月が映し出された 
53年前の今日(4月11日)
アポロ13号が爆発事故をおこした日らしい
 
月面着陸に至らなかった不遇の13号と 
ジム・ラヴェル(Tom Hanks)艦長の物語が僕の頭をよぎった

しかし・・・
あの大宇宙の中で爆発事故をおこしながら 
乗組員たちを無事に生還させたアポロ13号は 
幸運の女神だったのかもしれない・・・そんなことを想った瞬間

僕は 運転席を出ると 改めて彼女を 見つめた

そういえば・・・
あのベアブリック 実は両足が折れた欠陥品だったと 友人から後日談が届いていた

ぎっくり腰で入院した父は
胃がんを早期発見することができた

駐車場のオイル事件では 
もし 少年が転んでなければ 
目の前で発生した 暴走車の事故に巻き込まれた可能性が強かったらしい

お前は・・・

♪ Elton John - Your Song ♪

そのとき 携帯電話が鳴った 

「ごめんね・・・実は熱がひどくて 出かけられる状態じゃなかったの
 Ken-Kun・・・ 私の具合を察してくれたんでしょう?」

うれしい誤解だった・・・ 

「また 誘ってね その時はお弁当作るから・・・ 約束よ!」

僕の愛車は・・・
月までの距離を走破している コルベットスティングレイ ~lucky girl~

ナンバープレート『・ ・ 1 3』 は 今日も 優しく輝いている

~Apollo13の事故前日1970.4.1 Elton John - Your Songが発売されました~ 


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