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映画と車が紡ぐ世界chapter135

鳥 アストンマーティン DB2/4 1954年式
The Birds Aston Martin DB2/4 1954


彼が乗っていた車は 
1954製 アストンマーチン DB24 Drophead Coupe MkI

今日のように澄んだ青空の日 彼はオープンカーにして港町を駆った
フルオートの空調に防音抜群の日本車に慣れていた私には
オープンで走ることの楽しみは理解できず
いつも 携帯プレーヤーにサングラスをかけて助手席に座った

無数のウミネコたちに支配された空の下をゆっくり進むと
ラベンダー畑が広がる丘に到着する

kinkinに冷やしたボルビックを
ゴクリと一口飲む彼は
いつも大の字に横たわって 空を旅する はぐれ雲を追った

そんな彼の横で 私は相変わらず携帯プレーヤーを聴いていた

「君は ”僕達急行 A列車で行こう”の小町君みたいだね・・・」

そんなことを言って 彼は笑った
映画のこと以外 なんにも知らない
リアルワールドを遮断して生きている人だった

小学生が 地球の裏側にある小さな街の小道まで 
実際に歩いてきたように見ることができる時代に
情報から ひたすら 逃げ廻っている
そんな彼を懸念して 会うたびに リアルワールドの流行を語った

目を瞑りながら そうか・・・ へぇーと
相槌を打って 彼は私の話を聴いた

私は・・・
彼が熱心になるほど 不安になっていった・・・

ある夏の日 
彼の会社が不当たりをおこした
心配して 彼の会社に向かうと
そこには 無数の債権者が詰掛けていた
入社5年目の彼には 何の責任もなかったと思う
しかし 従業員の個人情報が漏れてしまい
債権者は 社員の自宅まで押し寄せた

「ヒッチコックの 鳥という映画を知っているかい・・・」

彼からの突然の電話だった

「あの 鳥が人を襲う・・・」

「そう・・・ 
 どうやら僕はミッチ・ブレナー(Rod Taylor)になってしまったようだ
 取り立て屋が カラスの群れに見えるよ・・・
 どうやら 僕はこの街にはいられないようだ 君ともお別れだ・・・」

その時・・・
私は 少しだけホッとした
彼を助け続けることに 少し疲れていたのかもしれない
だから 私は 素直に受け入れた
暫くして 
松山ケンイチに似た彼の友人と 偶然街で出会った

そこで つい私は 愚痴をこぼしてしまった

「彼の教育に 疲れてしまったの・・・」

少し考えた後にケンイチ君が言った

「君は勘違いをしているよ・・・
 僕らの中で アイツほどの博識は いない
 いつだったか・・・ アイツこんなことを言っていた

 僕が 物知りなのは 本が好きだから だけど・・・ 
 最新情報は とても心地いい声で 
 正確に 且つ わかりやすく教えてくれる先生がいるんだ
 僕は 先生からレクチャーを受ける時間を
 人生の中で 至高の時間だと思ってるんだ 
 だから 先生以外からの情報は あえて遠ざけてるんだ・・・と」

「えっ・・・」
私の頭の中にある 思い出日記が開かれる・・・
彼と一緒に過ごした記憶が 呼び戻された

~彼は いつもどこか遠くを見ながら 私の話を 聴いていた
 右の口元をきゅっとあげた スマイルで・・・~

ゴールデンウィークが過ぎたころ
私は DB24 に似た オープンカーを手に入れた
そして今 携帯プレーヤーもサングラスも付けずに 
オープンカーで港町を 走り抜けている
カモメたちのオペラや 
海風による四重奏
そして 紫色のラベンダーたちが踊る コーラスライン

なぜ あのとき 
彼が 心から愛した天然のオーケストラを 
一緒に体験しようとしなかったのだろう・・・

♪ 渡辺 真知子・かもめが翔んだ日 ♪

流れる風が 頬を伝う涙を吹き飛ばす
ケンイチ君のメモによれば
彼の住む街は ここから500キロも 離れた場所らしい
免許を取ったばかりの私には 少し厳しい道のりだけど・・・
365日も更新されてない 彼に伝える最新情報は 
空を自由に飛び交う カモメたちと 同じ数になっていた 

なにから 話そうかしら・・・ 

そのとき 一羽の カモメが 私の前を横切った

そうだ・・・
「5月10日から16日まで 愛鳥週間です」 にしよう 


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