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【ショートショート】         映画と車が紡ぐ世界 chapter16

タイタニック  フォルクスワーゲン シロッコ 2011年式
Titanic ~ VW Scirocco 2011 ~

コンプレインがクレームに変わるのは 全体の4%
あとの96%は氷山のように 
人の心という 大海原に埋もれているらしい
このことに気付かない施設は 
顧客満足度が低いというレッテルを張られ やがて沈没していく

僕とカノジョの間にも 
大きな氷山があった
しかし 僕はそれを認識できなかった 
カノジョは 出ていった・・・

タイタニックとジャック・ドーソン(Leonardo DiCaprio)のように 
僕は 深い海に沈んだ
4月15日(タイタニック沈没の日)よりも二月早い 
梅の花が咲く頃のことだった

2年分の思い出が詰まっているはずの部屋に
カノジョの存在を示すものは 何も残っていない・・・
二人が大好きだった
カーペンターズの歌声を流し続けたBOSE101も 貝のように沈黙している

Sheeeeeeeeeeeeeeeeeeeeen 

無音の音が響く部屋に 耐えられなくなった僕は
毎晩・・・
毎晩・・・
シロッコを駆って街を流離った

サハラ砂漠から地中海を越えて 
イタリアに到達する熱い南風”シロッコ”に
氷山を溶かしてほしいと願った

シロッコ 2008

桃の花が ほのかに香り始めたころ 
隣家から 
ピアノの旋律が流れてくるのに気が付いた

”春よ 来い”・・・のようだった

曲は 一小節毎に止まり 
ミスタッチも連発だったが
僕にとっては 
無音の苦行を和らげる 魔法の旋律だった

ピアニストは 
隣の家の ピンクの頬をした6年生の女の子
毎日聴こえてくる演奏は 
少しづつ 上手になっているのに 
ピアノを かじったことのある僕は 
次第に 
女の子の成長に 歯がゆさを感じるようになった

「そこはもっとテンポよく! 
 ここはピアノを意識して! あっ! そこはフォルテでしょう・・・」

独りつぶやきながら 
ふと窓を見ると 
都会の冷たい夜景の前に 
眉間に皺を寄せた 醜い自分がいた・・・
と その時・・・

~♪~!!

♪辻井伸行 / 「春よ、来い」♪

僕の感性を超えた 気持ち良い旋律が聴こえてきた 

「僕は 何様なんだ・・・ 
 いつだって 自分を押し付けてばかりじゃないか・・・
 あの子の方が よっぽど 素晴らしい・・・」

カノジョが出ていった あの日・・・
泣けなかった僕の瞳に
オアシスが戻った

桜が舞い散る季節を迎え 
”春よ 来い”が完成した 

その日・・・
僕は カノジョの携帯にメッセージを送った
「もう一度・・・ 君のことを知りたい 
 もっと君の話を聴きたい」

~♪~!!

シロッコ(南風)とともに
カノジョからの着信を知らせる Top of the Worldが流れた

♪Top Of The World / CARPENTERS♪




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