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映画「ボブ・マーリーOne Love」が公開されたので、およそ一年ほど前に読んだ『七つの殺人に関する簡潔な記録』小説感想文を再紹介。ボブ・マーリー暗殺未遂事件をひとつの軸に、ジャマイカとそれを取り巻く世界の暗部を描く超ヘビー級の小説。ジャマイカ出身作家作品として初のブッカー賞受賞。
小説自体が700ページ二段組、定価7000円とかのとんでもないシロモノで、読むのにまるまるひと月かかったので、感想文も力が入って長くなっちゃったためか、書いた直後はこのnote、あんまり読まれなかったのである。 が、今日、感想文を読み返してみるに、ボブ・マーリー暗殺未遂事件前後のジャマイカ社会の基礎知識まとめ、それを取り巻くアメリカとの関係などなどのわりと良いまとめになっているように思われたので、再紹介してみました。
『ふたつの人生』 ウィリアム・トレヴァー(著),栩木伸明 (訳) 中篇ふたつを一冊の本にまとめたもの。最高の短篇小説家による中篇は、果たして最高か?いやあんまり面白かったので感想文書いたら盛大ネタバレになってしまいました。
ふたつの人生 (ウィリアム・トレヴァー・コレクション) 単行本 – 2017/10/25 ウィリアム・トレヴァー (著), 栩木伸明 (翻訳) Amazon内容紹介 本の帯 裏から ウィリアム・トレヴァー・コレクション(全五巻)の紹介文 ここから僕の感想 というわけで、「世界最高の短篇作家の、その中篇小説」って、どうよ。この前読んだ短篇集『ラスト・ストーリーズ』はほんとによかったから。 この本に収められたふたつの中篇、印象・性格が全然違う二篇でした。 先
『ラスト・ストーリーズ』ウィリアム・トレヴァー (著),栩木伸明 (翻訳) 著者が2016年に88歳でなくなるまでの最後の10年間に書かれた10篇の短篇。それがいやもう全然老人ぽくない。ただただ完璧な作品たち。短篇なのにいつまでも終わらない(終わりたくないではない、終わらないのである)極上の読書体験でした。
ラスト・ストーリーズ 単行本 – 2020/8/9 ウィリアム・トレヴァー (著), 栩木伸明 (翻訳) Amazon内容紹介 本の帯 表 本の帯 裏から、僕の大好きなアイルランドの小説家ジョン・バンヴィルの言葉 それに対し、本書解説の最後に引用されている、イギリスの小説家、ジュリアン・バーンズの言葉 ここから僕の感想 短篇の名手と言われる本はそれなりの数、読んできたと思うのだが、その中でも明らかに最高最上の一冊でした。うまいを超えた、各篇を読み終えた瞬間、茫然とす
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「高校3年間を通して「羅生門」しか読まなくていいのか…灘中学の国語科教師が懸念する"文学離れのマズさ"」という記事を読んで考えた。文学、ことに小説を読むということは、どういう意味を持つのか。国語の学校教育で、どの程度の位置づけであるべきか。
昨日、ヤフーニュースを見ていたら、元記事はプレジデント・オンラインだが、こういう見出しの記事があった。 「高校3年間を通して「羅生門」しか読まなくていいのか…灘中学の国語科教師が懸念する"文学離れのマズさ"」 灘中学・高校李の井上志音先生に、教育情報サイト「リセマム」編集長加藤紀子氏がインタビューした記事。 論旨に完全同意なわけではない。のだが、昨日から、この記事に触発されて、「文学、ことに小説を読むことの意味。それを国語教育の中で扱うことの意味」について、い
『世界と僕のあいだに』タナハシ・コーツ (著), 池田年穂 (翻訳) アメリカの国の根幹にある病理を、息子への手紙という形で、強く訴えかけた本。同じ著者の小説を読みあぐねて、手に取った。こちらのほうが分かりやすかった。
『世界と僕のあいだに』 タナハシ・コーツ (著), Ta-Nehisi Coates (著), 池田 年穂 (翻訳) Amazon内容紹介ここから僕の感想 直前、感想文を書いた、同じ著者の小説『ウォーター・ダンサー』が、あまりに読み進まなかったために、ちょっと目先を変えようと、前に買って、ちょっとだけ読んで積読状態にあった本書を手に取り直してみた。というのが読んだ経緯。 そうしたらば、今回は、こちらはすいすい読めた。『ウォーター・ダンサー』の読みにくさは、おそらくは
『ウォーターダンサー』タナハシ・コーツ(著)上岡伸雄(翻訳) なんでこんなに僕の心の中に抵抗感があり読み進むのがつらかったのだろう。その理由を考えた。ほぼ脱線だらけの感想文。
『ウォーターダンサー』 (新潮クレスト・ブックス) 2021/9/28 タナハシ・コーツ (著), Ta-Nehisi Coates (著), 上岡 伸雄 (翻訳) https://amzn.to/4aQv4ub Amazon内容紹介ここから僕の感想 正直「あんまり好きじゃあないなあ、読みにくいなあ」と思いながら読んでいたのである。なかなか進まなかった。アメリカの奴隷制を批判的に描く小説、というのはこれまでも何冊か読んできたのだが。その中には大好きな小説もあれば、読みに
『アナロジア AIの次に来るもの』 ジョージ・ダイソン(著)服部桂(監修)橋本大也(翻訳) 著者の個人史・家族史語りがそのまま「オッペンハイマー」や「三体」からIT革命につながるびっくり本でした。でもアナログの話は??でした。
『アナロジア AIの次に来るもの』 2023/5/20ジョージ・ダイソン (著), George Dyson (著), 服部 桂 (監修), 橋本 大也 (翻訳) Amazon内容紹介 ここから僕の感想 僕にデヴィッド・グレーバーを教えてくれた広告業界きっての教養人、月村さんがFacebook投稿で紹介していた本。「かなり変わった本だけれど、原さんがどう読むか感想を聞きたい」というような形で薦められた本である。月村さんは僕より一回りくらい若いと思う。 本当に変わった内
将棋の名人戦七番勝負第一戦、藤井聡太名人対豊島將之九段。ひさびさに炸裂した藤井名人の神の一手。それをAbeme解説、佐藤康光九段・元将棋連盟会長・SMAAAASH級の会心の解説。さすが怪鳥。
将棋の名人戦七番勝負第一戦、藤井聡太名人対豊島將之九段。 いや新年度早々、すさまじいドラマチックな名局。 ひさびさに炸裂した、藤井名人の神の一手。(ここのところの藤井名人、強すぎていつの間にか寄りきって勝っていることが多くて、劇的な神の一手、というのが無かった気がする。というか、神の一手誕生には解説やリアクション聞き手の方の絶妙の貢献もないと、私のような初級者視聴者には「神の一手」として認識されにくいのである。そういうドラマからしばらくご無沙汰だったのである。)それをA
『オリヴィエ・ベカイユの死/呪われた家~ゾラ傑作短篇集』~ (光文社古典新訳文庫) 自然主義の自然は、ほんとは「自然科学」のことで、ゾラの場合特に「遺伝学」にもとづいて、生物学的に決定されちゃう人間を描くものなんだそうだ。知らなかったな。
オリヴィエ・ベカイユの死/呪われた家~ゾラ傑作短篇集~ (光文社古典新訳文庫) Kindle版ゾラ (著), 國分 俊宏 (翻訳) Amazon内容紹介本を読んだ経緯 ゾラについては「ゾラ=居酒屋=自然主義」くらいの受験用文学史知識しかなくて、全く読んだこともなかったし、興味も無かったのである。 話は大脱線するが、僕にとって「ゾラ」といえば、20年前くらいのサッカー、ロンドンの強豪チェルシーにいた背の小さいイタリア人の名手のことだし(当時はイタリアセリエAが世界一のリ
『死の講義』橋爪 大三郎 (著) 宗教について死について「中学生にも分かるように」しかし根源的網羅的に知識を整理しつつ、「自分の死」についてどう考えたらいいのか「自分で決める」ためのガイドをしてくれるものすごい本でした。国民的必読書だぞ。
『死の講義』 2020/9/30 橋爪 大三郎 (著) Amazon内容紹介Amazonにはいろんな人の推薦文もあるけど、僕もそう思ったのだけ引用する。 この人、本の帯では〈語彙が消失するほどよかった。〉とも書いているが、同感である。 ここから僕の感想 というか読んだきっかけというのが。先日、さとなおくん (佐藤 尚之くん 広告業界関係じゃない読者の方に紹介すると、 『ファンベース』などコミュニケーション論で有名なコミュニケーション・ディレクターで、そのほかにも若い頃か
『【改訂完全版】アウシュヴィッツは終わらない これが人間か』 (朝日選書) プリーモ・レーヴィ (著)ふ 「アウシュヴィッツは終わらない」という副題は、つまり、どういうことなのかについて考えた。
【改訂完全版】アウシュヴィッツは終わらない 『これが人間か』 (朝日選書) 2017/10/10プリーモ・レーヴィ (著) Amazon内容紹介ここから僕の感想 先日感想を書いたレーヴィの短編集『周期律』は、強制収容所体験についてはごく一部だった。今回読んだのは、収容所体験そのものを書いた、レーヴィの代表作、出世作である。 以前、いろいろなnoteで繰り返し書いてきたが、基本的に僕はホロコーストものの本や映画が基本的に苦手である。究極の絶対悪が存在するときに、それと対
「光る君へ (12) 思いの果て」について「純文学は性的表現の最後の砦」視点から感想文を書いてみる。なぜか村上春樹『ノルウェイの森』と、トルコのノーベル賞作家オルハン・パムクについて論じています。
小説はまだ書く準備は整わないが、とりあえず、性的なことを「お下劣」とか「不適切」とか言うのはやめることにする。そうではない。性的表現に真正面から取り組むのが純文学の大切な役割なのである。その点で今季の大河ドラマ『光る君へ』と、TBS金曜ドラマ『不適切にもほどがある』は実に純文学的な傑作ドラマなのである。 僕の性的表現に関するスタンスを「純文学は性的表現の最後の砦」と呼ぶことにした。という決意表明文でもある。 とはいえ、真面目ばかりが純文学ではないのである。性欲の前に