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夢の記憶

最近、まだ幼かったときによく見ていた夢を思い出している。昨日の詩の森は、その夢に出てくる森である。


森は小さな町のそばにある。

町といっても、そこそこ大きな平屋建ての家が1軒ごとにわりと離れて建てられていて、広いけれど人口はさほど多くないみたいな感じのところである。車が走れるような道はなく、市街地のような区画整理もされていなくて、家々の敷地の間を細い未舗装の道がうねうねとつないでいる。道を歩いていると、生け垣や塀の切れ目に玄関が突然現れたり、そのままどこかの家の庭の中に入ってしまったりする。庭を突っ切って道に戻れることもある。

現実の世界では多分見たことのない町である。私が育った町-碁盤の目状に区画整理されていて、その中に家々が密集している-とも違っている。


森からは小さな川が流れ出ていて、水路のように町の家々を囲っている。水路は道に並んで続いていたり、道から離れてどこかに消えてしまったりもする。


幼い私は、一人でこの町を歩く。天気はわからない。真昼のような明るさはなく、曇っているのか、時間が早い(遅い)のか。


そして、誰にも会うことはない。

家には生活の気配がある。庭に物が散らかっていたりもする。
でも、誰にも会わない。

ただ水が、水路を静かに流れている。


そして私は頻繁に見るこの夢が怖かった。誰もいないはずなのに、友好的ではない誰かの気配と息遣いを感じるから。

その気配は、町の外れにある、うっそうとした大きな木々に囲まれた薄暗い家から出ていて、歩いていると突然現れるその家と、その家の横を歩くことが怖かったのだ。


先日、何十年かぶりにこの夢を見たとき、これは初めてのことだけれど、町のそばにある森を上から俯瞰していた。そして、その森は、生きているかのようにうねうねと動いていた。

それを眺めながら、もうこの町を歩くことはないな、となんとなく感じた。

歩かなくてもよいという選択ができるようになったのかもしれない。本当のところはわからないが。


ところでこの町の夢と、もう一つ、ある男が登場する夢とが、幼い頃に見ていた恐ろしい夢の代表であった。

グレーのスーツとネクタイ姿の男が、コンクリートに囲われた狭くて暗い窓のない部屋にいる夢。男は、スチール机の向こう側に座って、ただ私のことをじっと見ている。ライトの影になった顔ははっきりとしない。

現実の世界で体験したこととはとても思えないのだが、繰り返し繰り返し、この夢を見続けていた。


そのことが理由の一つかもしれないが、現実の私は今でも、気分が乗らない限りスーツを着ないようにしている。