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【ニキビ防衛戦線】超みみっちい解毒の話。

鼻にニキビが出来た。
出来たな、と気付いてから既に4日が経過しているが、日に日に赤く成長し、奥の方に白く膿まで見えてきた。なかなかの大物である。

思春期を過ぎたらニキビじゃなくて吹き出物と呼ぶとか、大人ニキビと呼ぶとか、そんな話を聞いたことがあるような気もするが、よく分からんので私は全部、顔に出来たものはニキビ、体に出来たら吹き出物と呼んでいる。
思春期などダブルスコアを超える勢いで通り過ぎたアラフォーだって、出来るものは出来るのである。多分女性ホルモンか何かが余計なことをしでかしているのだと思うが、私は大体必ず毎月のようにニキビができる。頭皮や生え際に出来ることが一番多く、次いで鼻の中に出来ることが多いので普段は目立たないのだが、今回は鼻の外側なので非常に目立つ。多分鼻のあたりを触ってしまう癖があるのが原因だろうという自覚はある。

が。それでもマスクをしてしまえば見えないし、そもそも私は専業主婦だし、大して人目を気にするタイプでもないので、本来そこまで気にする必要はないのだ。
なのにどうも「見える所にニキビができる」にうっすらとした怖さがあるのは、主に母の責任である。

私の母は、ニキビを潰すのが大好きなのだ。

母は自分のニキビは必ず潰す派で、それだけでなく昔飼っていた犬の粉瘤から、父に出来る吹き出物も全て、家の中で発見されたあらゆる出来物という出来物は全て母が潰していた。
私もだいぶやられていたが、「ニキビは綺麗に潰すのが一番早く治る」と言って力任せに爪を使い、あるいはマチ針やピンセットまで持ち出して血が出るまでニキビを撲滅しようとする母に流石に辟易し、思春期以降は「自分でやるから!!」と言い張って、ギリギリ自治を守り抜いていた。本当はニキビは潰さない方が良い、と薄々知ってはいたものの、治りの遅いニキビを放置しておくことで母に目を付けられ、母の手によって確実に外傷になるまで潰されるぐらいなら、自分でやった方が大分マシだったのだ。

私のニキビ問題は主に思春期以降に発生していたこともあり、母から逃げることが可能だった。なので他の毒母エピソードに比べれば全然笑って済ませられるレベルの話ではあるのだが、そういうわけでニキビはずっと私にとって、母に発見されたくない・隠さねばならない事項に入っていた。
そして同時に母の「潰した方が早い教」に染まっていたこともあって、私は長年、ニキビが熟成してくると潰してしまっていた。「ニキビを潰さない場合、どのぐらい早く治るのか」を一度も体験したことがないので全く知らないまま、何となく放っておくのは良くないことなような気がしてしまっていたのである。

だが、千里の道も一歩から。解毒を目指す身としては、こういった些細な問題も見過ごさずに立ち向かうべきである。
全世界標準であるはずの「ニキビは潰してはいけない」鉄則の方を優先し、ニキビを潰さずに完治まで見守る――という行動こそが、今私が選ぶべき道だろう。

そんなわけで、私は今回鼻のてっぺん付近に出来たこの立派なニキビを、潰さずに治るまで見守ると決意した。手持ちの軟膏で効かないようなら、新しくニキビ薬を購入するなどの手段は検討する価値があるし、悪化度合いによっては皮膚科の受診も視野に入れるべきかもしれない。
だが、このニキビは何としても潰さずに治す。私の中の常識を塗り替えるべき時なのである。

――という感じで心理的厳戒態勢に入った状態で台所に向かうと、案の定というべきか、母がいた。

「あれ?そこどうしたの?鼻のとこ」

「あー、ニキビが出来た」

いちいち言わんでも見りゃ分かるだろ、うるせぇな。

反抗期真っ盛りの中学生男子のようなコメントをしたくなったが、流石にアラフォーとして大人げなさすぎるので、純粋な事実の供述に留める。と同時にナチュラルに触ってこようとする母の指を、半歩後退して躱す。
流石にアラフォーになった娘のニキビを、しかも下剋上イベント後の「いい人モード」になっている母が、いきなり昔のように潰しに来るとまでは思わない――が、イマイチ信用しきれないのが毒に染まった親子関係というものである。
息子が「どうしたぽよー?」とツンツンしてくるのは許容できるのに、母に対しては許容できないというのは、完全に過去実績というか、信用問題というか、好感度というか、とにかくそういう話だと思う。母の過去の行いが悪いのであって、私は全く悪くない。たぶん。

「ふーん」

と、私の拒否が届いたのか関係ないのか定かでないが、母は興味なさげな返事をすると、すぐさま自分が茹でていたトウモロコシの入手経路と、それをくれた○○さんとのやり取りについて、猛然と話し始めた。死ぬほどどうでも良いので、こちらも「ふーん」と流しつつ、くれるつもりがあるらしいトウモロコシだけは受け取っておいて(息子の大好物なのである)、そそくさと最低限の用事を済ませて台所を後にする。

OK、私のニキビの命は守られた。

いかに母の説得を受けようと、このニキビは決して潰さないつもりだし、まして母の手で潰させる気は毛頭ない――が、それでも危機を脱したことに安堵する。鏡を見ると赤く腫れていて、指で撫でると地味に痛い。うーん、潰したい。潰して治るかどうかはともかく、潰せば今よりマシになるような気がしてしまう。
いや、ダメだ。
だがこのニキビが自発的に消えるその日まで、私は強い意志と忍耐力でニキビの命を守り抜き、超ミクロな解毒を達成するのだ!

そう改めて自分に宣言し、ひとまず軟膏を塗っておく。うんうん、これが全世界的に正しいニキビの対処法のはずである。
と、何気なく触った額の上、生え際のあたりに、昨日まではなかったはずの突起を確認した。
押すと痛い。間違いない、ニキビの伏兵が、ここにもいた……!!

ミクロでもマクロでも、最終的に解毒における敵となるのは、自分自身の意思なようである。
生え際のニキビにも軟膏を塗りながら、早くも潰したい衝動に駆られながら、私はとりあえず明日あたり、薬局でクレアラシルでも買ってこようと決意を新たにしたのであった。

『ニキビを潰さずに治す』解毒、超みみっちいですが頑張ります。

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