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【読書記録】私の家では何も起こらない(恩田陸)

【あらすじ】
小さな丘に佇む古い洋館。この家でひっそりと暮らす女主人の許に、本物の幽霊屋敷を探しているという男が訪れた。男は館に残された、かつての住人たちの痕跡を辿り始める。キッチンで殺し合った姉妹、子どもを攫って主人に食べさせた料理女、動かない少女の傍らで自殺した殺人鬼の美少年ー。家に刻印された記憶が重なりあい、新たな物語が動き出す。驚愕のラストまで読む者を翻弄する、恐怖と叙情のクロニクル。(あらすじより)

【感想(ネタバレあり)】

もうタイトルから不穏でゾクゾクする!何も起こらない家ではわざわざ何も起こらないなんて言わないからね!

丘の家の1軒のお家、周囲からは幽霊屋敷と言われている家に纏わるちょっと背中がひんやりするような短編集。舞台は欧米のどこかかな?州という単語も出てきたしアメリカかも。小さな洋館を想像しながら読んだ。

「私の家では何も起こらない」は幽霊屋敷に住んでいる作家と訪問者の話。自分の家はただの古い住み心地のいい家だという冷静な家主と比較して訪問者は段々様子がおかしくなっていき、遂には自分の殺人の罪まで告白をして家を去る。

男が去ったあと家主は考える。生者の世界は恐ろしい。どんな悲惨なこともどんな狂気も生者たちのもの。それに比べて死者たちは過去に生き、レースのカーテンの陰や階段の下の暗がりにひっそりと佇むだけ。だから私の家では決して何も起こらない、と。

つまり幽霊の存在を認識していて、それと共存してるってことだよね?それを裏付けるように作家はいるはずのない二階の窓に佇む女と目配せをして、日常に戻っていく。やはりこの家にはなにかあるに違いないと思わせる1話目。

「私は風の音に耳を澄ます」は猟奇的な感じだけど、ちょっとオチが想像できるパターン。スウィニートッド的なね。まさか語り手がもう死んでるとは思わなかったけど。雰囲気はかなりいい。御屋敷に目と足が不自由な主人と、その主人のために主人好みの料理を準備する女料理人。貯蔵庫にはたくさんのジャムやピクルスなどの保存食。消える町の子。あとはもうわかるよね…?みたいな。

「我々は失敗しつつある」は1番難しくてわからなかった。我々の目的は幽霊屋敷で幽霊になることなのかな?

1回目(話の中で1回目なだけで本当はn回目?)と2回目で、話しかけてきた女の特徴は同じだし、今度こそは成功させましょう、って言ってるから我々っていうのはパブで話しかけてきた男女3人のことでその目的は幽霊になることでいい気がするけど主人公のポジションがわからない。

2回目のバブでの会話のとき、主人公は1回目のパブでの会話を忘れてそうだったから、主人公に明確な目的があるとは思いにくいけど、ストーリーは主人公目線で進むから、我々は失敗しつつあったと思ってるのは主人公な気もするし…それとも集合意識的ななにか…?

主人公が昔幽霊屋敷で姉妹の幽霊を見たときに黒髪で黒い髭の大きな木彫人形が倒れていたのも気になる。この人形、パブで声をかけてきた男の特徴と一緒なんだよね。しかも主人公は重くて面倒だけどこの木彫の人形を持って帰らなければと思っている。なぜ…?

後の「素敵なあなた」で、幽霊屋敷が空き家の間に誰かが忍び込んで奇妙な等身大の木彫りの男の人形や女の人形がいくつも放置してあったっていうエピソードが出てくるんだけど、それってこのエピソードのことだよね?ということは最終的にみんな木彫の人形になっちゃったってこと?

「あたしたちは互いの影を踏む」はそれまでのエピソードで散々話題になってたキッチンで殺し合った姉妹の話。2人は違う幻影?幽霊を見てお互いを切りつけ合ってしまう。1人は白い布を宛てて窒息死させた父のこと、もう1人はキッチンの地下貯蔵庫から出てこようとする子どもたち。幼い頃した影踏みのように2人の勝負はつかない、そしてそのまま2人とも、、、

「俺と彼らと彼女たち」は唯一コメディーチック。見えてないようで、実は全部見えてる大工の親子。幽霊を説得して家の修理をするんだけど、話が通じるどころか家の悪いところまで教えてくれちゃうから笑える。嫌な不動産屋の男を幽霊たちと懲らしめるのも見物。最後の、悪さをするのは生きてる人間だけだろ?死んでる人間なんざ、可愛いもんさが、第1話の作家を想起させる。

平和な話のようで、薄っすら背筋が寒くなるのが最後の「私の家へようこそ」。今度は明るい作家が住んでいて知り合いに家を紹介してるんだけど、住むことで確実に幽霊の影響を受けていて、自分の記憶か幽霊の記憶か怪しいものがちらほら。

行動も影響受けてそうだし、本当に子ども攫ってパイつくってる可能性ある。原稿書き上げて家じゅう掃除したって言ってるけど、無意識に攫ったこどもの痕跡を消してるのでは…?主語が段々作家個人から、幽霊屋敷に住んでいる幽霊たち全員に変わっていてひゃーっとなった。

家ってそれまで住んでいた記憶が蓄積されてるよね。幽霊が誰かの記憶の蓄積なのであれば、忌まわしい事件が起きていなくても、誰の家も幽霊屋敷なのかも。

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