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【読書記録】恋文の技術(森見登美彦)

【あらすじ】
京都の大学院から、遠く離れた実験所に飛ばされた男が一人。無聊を慰めるべく、文通修行と称して京都に住むかつての仲間たちに手紙を書きまくる。文中で友人の恋の相談に乗り、妹に説教を垂れるが、本当に想いを届けたい相手への手紙は、いつまでも書けずにいるのだった。(あらすじより)

【感想(ネタバレあり)】

大学生の時にハマって読んでいた森見登美彦。へんてこりんで個性的で不思議な世界観にはまって、こんな大学生活送りたいような送りたくないようなと思ってよく読んでいた。

恋文の技術は書簡集形式。基本的に主人公の守田が書く手紙のみで構成されていて、守田の周りで何が起きているかは守田が書く手紙から推察される。

文通相手は友人のマシマロ男小松﨑、先輩の傍若無人なお姉さま大塚緋沙子嬢、見どころのある家庭教師先の少年まみやくん、先輩の偏屈作家森見登美彦、高等遊民になりたい妹薫。

守田に起こった同じ出来事も相手によって書きぶりが違って面白い。同じ研究所の先輩でマンドリンを演奏し謎の精力剤を飲むもじゃもじゃ頭の谷口さんも文中に頻出するため文通相手ではないものの動向が伺い知れるがこちらも面白い。

文通が進むと、返信の内容から、それぞれの文通相手に起こっていることがちょっとずつ繋がっているのがわかる。

出てくるキーワードも森見ワールド全開。小松﨑くんがマリ先生に送ったぷくぷく粽とは一体どんなものなのかしらん?守田が頻繁に食べている天狗ハムはどれほど美味しいものなのか。深夜に食べる猫ラーメンのお味は?そしてここにも出てくるパンツ番長。

第9話では守田の想い人、伊吹さんに送れなかった失敗書簡集となっている。他の人にはあれほどなめらかに筆をすべらせていた(であろう書きぶりだった)のに、伊吹さんへの手紙は良いことを言おうとしたり、卑屈になったり、武人になったり、チャラ男になったり、弁明のためおっぱいを連呼してしまったり。挙げ句は小松﨑くんに影響されたのかラブリーラブリーな詩まで書き上げてしまう。何故そうなる?

第11話では大文字山への招待状の章になっている。これは唯一守田から文通相手への手紙ではなく、守田の文通相手同士が大文字山でのイベントへの招待をし合っている形になっているけど、日付が全て同日で守田が関係者を集めるために、これまでの文通修行の成果を遺憾なく発揮して書いているものと思われる。これがなかなか上手で、守田が小松﨑にネタバレするまでは全てがそうとは気づかなかった。

最終話はようやっと伊吹さんへの手紙。この手紙で今まで複数の手紙の断片的な情報をつなぎ合わせて理解していた出来事が時系列できれいに語られる。
守田の恋心ははっきりと書かれていないけど伊吹さんには伝わるかな?素直な気持ちが書かれていてよい恋文ではなかろうかと思った。恋文を書こうと思わないことが恋文を書くポイントということなので成功なのかも?伊吹さんからお返事が届くといいな。

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