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極寒神戸体験記~描いた未来~

10回表に入る。オリックスのマウンドには平野が上がる。
ようやく山本を降ろした!

2死後、広角打法のリードオフマン、青木宣親が2塁打で出塁。
勝ち越しの絶好のチャンスでキャプテン、山田哲人。
フルカウントまで粘る。
「粘る哲人は打つ」とどこかで聞いた格言?を信じる。
二遊間に浅いフライが上がる。おちろ!!!
祈りはむなしく、ショートがキャッチ。3アウト。

10回裏、ピッチャーは田口に交代。打順は2,3,4。先日タイムリーを打たれた吉田正尚に回る嫌な打順だ。さっきから嫌なバッターとしかいってないけど、どのバッターにも打たれる気しかしなかった。

それでも田口、宗をレフトフライ、吉田を3ボールからのスライダー3連投で三振に斬って取る。偉大。

田口のロングリリーフかと思っていたが、なんとここでブルペンから極寒の球場でたった一人かと思われる半袖の男が登場した。マクガフだ。

序盤は中継ぎとして、中盤からは抑えに配置転換されて、夏には星条旗のために、そして秋には燕のために投げまくった男は、今日もまた走ってマウンドへ向かう。

迎えるはラオウ。もちろん打たれたら終わりの場面、最後は痺れるストレートで見逃しを奪って中継ぎの時のようにベンチに戻っていく。

この時点で僕は京都の友達の家に帰る可能性を捨て、三宮のネカフェで夜を明かす決心をした。もうしょんない。

11回の表は能見さんだ。お久しぶりでございます。
能見さんは村上を打ち取って颯爽とベンチへ帰っていた。
後を受けるは比嘉さん。この方も長いなぁ。
ムーチョがヒットを打つったものの、サンタナオスナは打ち取られて0。

11回裏はマクガフ続投らしい。まずはT-岡田を打ち取る。
やっぱり今思うとジョーンズがいなかったのはすごく助かった。代打頓宮を三振に取って2アウト。紅林を見逃し三振。今日めっちゃいいじゃん。

そして試合は本当の最終回、12回へ。

チャンスで塩見につなげば絶対勝てるし、これだけ耐えてればチャンス来るから山崎出塁するだろ!

三振……あれ。

なおみちそろそろ打つんちゃう??

サードゴロ。もう2アウト。

富山先輩からよしだりょーに続投する。念には念入れてくるなぁ。

青木さんは下がってるし、相手の打順を考えても引き分けかな…
山本由伸に負けなかっただけよかったと思う…けれど明日もこの激寒の山に登るの嫌すぎる……

塩見が放った打球は三遊間を抜けていく。出走!
首の皮一枚つながった!
なんとかキャプテンに繋げなべちゃん!

選手が向かうのは明らかになべちゃんではない。守備固めに代打出す?

この仕草、この風格、そう、川端慎吾だ。もう「悲しみなんて笑いとばせ」が脳内に大音量で鳴り響く。ここで使うか高津さん!

ライト前ヒットで1,3塁にしてくれ、と願った。
しかし、追い込まれる。2-2。

なんとか繋げ!!!という思いが通じたのか、吉田の投げた5球目はなぜか後ろに転がっていた。走れ!塩見!二塁を大きく回って止まる。得点圏だ。待ち望んだチャンスが、ついに来た。


最後に思いがけずに巡ってきたチャンスに胸が膨らむ。6球目はファール。
一球ごとの緊張感がものすごい。

7球目だった。

川端の打球はショート後方に上がった。

「落ちる!!!!!!」

確信した。他の選手は知らんけど、川端慎吾のこの打球は落ちる。落ちる。

落ちた!!!塩見は三塁を回っている!!!いけええええええええ!!

ヘッドスライディングでホームに突っ込んだ。

やった!やった!やったぁぁああああああああ!!!

やった!しか頭の中になかった。
たぶん過去の人生でも1本の指に入るくらい興奮していた。やった!今までの人生で身に着けた語彙力が全てはがれて、「やった!」以外の思いが抱けなくなった。さながら運動会の玉入れで勝った小学1年生…いや彼らの方が語彙力があるかもしれん。

ヤクルトベンチが総出で喜んでいる。超喜んでんじゃん。やっば。優勝したみたいだ。するけど。
僕はこぶしを何度も握り締めた。近くの「絶対大丈夫」信徒たちと喜びを分かちあう。

山田が凡退し、少し冷静さを取り戻すとある事実に気づく。

アウト3つとったら優勝じゃん。日本一だ。やば。

今思えば川端は敬遠されるかな?と思った。山田哲人ももちろん文句の付け所がないすごい打者だ。しかし、得点圏川端はルール違反である。来年から野球規則で禁止されなかったのかおかしい。敵に申し訳ないもん。

塩見のヘッスラ、かっこつけたってジョブチューンで言ってたけど、やっぱあれヘッスラなの好判断だったと思う。ベンチの雰囲気にピッタリだった。

なべちゃん慎吾さんに変えちゃったけど誰が守備就く?と思ったらグッチさんだった。なんというか運命的なものを感じずにはいられない。

さて12回裏。宗に回したくねえ、吉田に回ったらやばいし。
7回のスアレス続投あたりからいつだれが投げるかわからん状態になっていたし、石山さんもブルペンにいたから石山さんが行くもんだと思っていた。

結局マクガフがマウンドへ。最後を飾るにふさわしい。頑張れ。

伏見を三球三振。よっしゃあと2人。心の中で「あと2人!」と叫ぶ。

バッター山足、ぶつかったかぁ?無事そうなのはよかった。こっちとしては痛い、やべえ。宗に回っちまう。

は!し!れ!~ こうそくの~ ていこぉ~くかげきだん!
耳について離れないこの曲が再び鳴る。

頼む!頼む!頼む!ひたすらに八百万の神に願った。
追い込んだ。
センターフライに打ち取った。よし。

さあ、後1つ。問題の宗だ。

宗に右中間に打たれる気しかしなかった。
けど、打ち取れば終わりだという事実、さすがに僕にときめかずにはいられなかった。

もうなんか来年のヤクルトがどうなってもいいから(よくない)宗を打ち取ってくれ。頑張れマクガフ。ほんとがんばれ。

初球ストライク。あと2つ。
2球目ボール。

3球目。

あっ!!

宗の打球はぼてぼてと転がりセカンドへ向かう。

山田投げろ―――――!!!!

どう?内野安打じゃない?

アウトだ――――――――――!!!!!!!!!!!!!!

マクガフと荒木が抱き合う。みんなが駆けてくる。

試合開始から5時間、本当に長く、苦しく、胃をすり減らした戦いが幕を閉じた。


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