【害悪客】メガネをぶっとばされても本気で接客し続けた結果wwww
こんにちわせりん、わせりんです。
今日は、珍しくポジティブな話をしたいと思います。
私は20歳の頃から30歳になるまで様々な雀荘でスタッフの経験してきました。店舗数で言うと8店舗ほどで働いたことがあります。
その経験の中で私が一番嬉しかったことを書きたいと思います。
起こったことは雀荘での何気ない一コマなんですが私にとっては忘れられない思い出になりました。
前半は比較的普通の展開ですが、後半はとんでもない人物が出てきて怒涛の展開になるので読んでみてください。
◉第一章〜初勤務まで〜
これは9年前のお話。
私はふとしたきっかけで「バカンス」と言う雀荘で働くことになった。
福岡の小さな個人店だ。
大手と個人店の差は今は小さくなったが当時は明らかに違いがあった。特に地方の雀荘は顕著だ。
個人店は良くも悪くもお客とスタッフの距離が近い。よく言えばフレンドリー、悪く言うと身内ノリなのだ。
サービスやマナーなども大手には遠く及ばないが、フレンドリーな空間を好んで訪れるお客は多い。
例に漏れず「バカンス」も個人店の特徴をしっかり兼ね備えた『三人打ち』の雀荘だった。
マナーはアレだが楽しく平和な麻雀が打てる店だった。
たまにとんでもないお客さんが来ることがあるが・・・。
バカンスは私にとって2店舗目に働いた雀荘だった。1店舗目は大手の雀荘で1年ほど働いた。大手らしく接客やシステムがきっちりしており、麻雀を打てる人であれば誰もができるようにマニュアルが組まれていた。
当時20歳だった私は雀荘の業務はそんなものだと思っていたし、「卒なくこなす」のが雀荘での接客での正しい方法だと思っていた。
バカンスでの最初の勤務の日。
カルチャーショックだった。
同じ雀荘でも方針が全く違うんだなと感じた。と同時に、この種の雀荘の経験はもちろん、フレンドリーな接客をしたことが無いため不安な気持ちが湧き出てきた。
不安な気持ちとは裏腹に、この店で私は大きく成長することになる。ある一人のオーナーと一人のとんでもないお客さんとの出会いによって。
◉第二章〜二人のオーナー〜
バカンスには二人のオーナーがいた。石田と神谷の二人だ。
石田はあまりバカンスには姿を表さなかった。お金を出しているだけの存在だ。対して神谷はバカンスでスタッフとして働いており店長兼オーナーのような立場だった。
この神谷店長が私を大きく成長させてくれた一人だ。
雀荘はどこに行っても基本的な業務はあまり変わらない。ドリンクを出したり、おしぼりを出したり、フリーやセットの記帳の仕方を覚えたり。
店によって多少差はあるが、一度雀荘に勤務したことがあれば覚えるのはそこまで難しく無い。
先輩から教わった基本的な業務を覚えるのに長くはかからなかった私は毎日の業務を「卒なくこなしていた」。
先ほど言ったように、神谷店長は普通に勤務している。つまり、常に目を光らせているのだ。
神谷店長はきちんとスタッフには注意したり、叱責したりする厳しい人間だった。
しかし、私には一切の口出しをしなかった。私には「自由にやって」とそれだけしか言わなかった。
新しい雀荘で「自由にやって」と言う言葉は結構重い。人は自由に働くことを求めるが自由になった瞬間に、やることが決まっている仕事を恋しくなるものだ。
私もそうだ。自由にやってと言われても何をやれば良いかわからない。
何も出来ない日々が続いた。
◉第三章〜神谷店長の思い〜
一ヶ月ほどしてバカンスにも慣れてきた頃に親しくなった先輩がいた。
熊野先輩である。同じ時間に働くことが多かったので自然と会話するようになり、熊だけどウマもあったので打ち解けていった。
とある平日、お客さんが一人もいなかったので二人で雑談していた。
学校のこととか、あのお客さんは強い弱いなどのたわいもないことを話した後、気になることがあったので聞いてみた。
わ「失礼かもしれないですが、熊野先輩って神谷さんにめっちゃ怒られるじゃないですか」
熊「ん、まあなあ。あの人厳しい人だからね。」
神谷さんと熊野先輩は10年くらいの付き合いでお互いのことをよく知っている。
わ「ですよね。自分、熊野先輩よりも明らかに仕事できてないのに何も言われないじゃないですか。なんでなんですかね。」
数秒迷うような表情をした後、熊野先輩はゆっくりと口を開いた。
熊「これはあまり言わない方がいいのかもしれないけど。神谷さんはお前のことを『あいつはすごいやつだ。自由にさせた方が絶対に輝く。だから好きにさせた方がいい』って言ってたぞ。何か期待されてるのかもね。」
意外な答えだった。
どちらかと言うと、どうでもいいから何も言われないかと思っていた。逆だったのだ。
私を信じ、私を活かすために何も言わなかったのだ。
この日を境に、私は仕事に対する向きあい方が変わった。そして、このことは今から訪れるとんでもないお客との戦いをする際の支えになった。
よく、雀荘での接客のコツとは?みたいな話がTwitterで話題になる。接客のうまい下手とは。お客さんに気に入られるには。
そんな話ばっかりだ。私は答えなんかないと思う。
もちろん店によっても求められる能力は違うし、もっと言うと人によってめちゃくちゃ違う。
軽快なトークで場を盛り上げるタイプもいれば、淡々と打つタイプもいるし、ぼそっと一言気の利いたことを言うタイプもいる。
寡黙な人が饒舌にはなれないし、逆も然りだ。
ただ、どんなタイプにも必要なのは根本的な人間力だと思う。
お客さんに対して感謝の気持ちを持って、仕事を責任を持ってやろうとすればどんなタイプでも必ずお客さんには気に入られる。
どんなに体裁を取り繕っても、技術を身につけても、お客さんを心の底で舐めている人はどこかで態度に出る。仕事を舐めている人はどこかで態度に出る。
雀荘の仕事は理不尽なことも多い。イライラすることも多い。
そのような時にも、お客さんに対して敬意を持って仕事をきちんと出来るか。そんな人間としての力が大事だと思う。
私は人間力には自信があった。正確にはなんとなく大丈夫だと思っていた気持ちを神谷店長が後押ししてくれた。
神谷店長が信じた私を、私が信じることが一番うまく行くのではないかと思った。
私はバカンスに来るお客さんに、自然に自分が思うように接して行った。
今までは、お客さんに嫌われないように無難に過ごすスタイルを、お客さんに楽しんでもらうように明るく振る舞うようなスタイルに変えた。
変えたは語弊があるかもしれない。どちらかと言うと元々そういう性格なのだ。
ただ素の自分になっていっただけだ。
素の自分がお客さんに敬意を持っていて、仕事に真剣だからお客さんが好きになってくれる。それだけの話だ。
ちなみに、めちゃくちゃ顔がブサイクとかいじられるようになった。実際見たら完全にイケメンなのだが、まあお客さんが楽しければそれでいい笑
半年も経つと、私はブサイクと言われながらも雀荘の顔のような存在になっていた。
私と同卓したいお客さんも増えて行った。
◉第四章〜平野襲来〜
バカンスに勤めて半年が経とうとしていた。
お客さんともスタッフとも仲良く平和な日々が続いていた。
ついに、とんでもないお客が来店する。
平野と言う常に鬼の形相をしている男が来店した。
この男、顔だけじゃなくて雰囲気がヤバイ。記憶は全くないが、平野のあまりの異様さにいらっしゃいませって言えなかったんじゃなかろうか。
刺青をしているわけでもなく、指がないわけでもないのだが、発せられるオーラというか雰囲気が普通の人間ではない。
オーラとかオカルト的なものを信じない人にも平野を見せれば信じると思う。それくらいヤバイ。
厳しい雀荘だとルール説明の段階でお断りをするところもありそうだ。
私は、出禁にするしないの権限を持っていたわけではないのでいつも通りにおしぼりを渡し、飲み物を聞く。
わ「こちらがドリンクのメニューになっております。何かお持ちしましょうか?」
平「オレンジ。」
わ「(可愛いな・・・)かしこまりました。」
飲み物は可愛いが言い方は全く可愛くない。「オレンジジュースください」と言って欲しいわけじゃないが言い方で大体どんなお客さんかはわかる。
オレンジジュースを出した後に、いつも通り新規カードを書いてもらう。
初めて雀荘に行った時に書いたとのある人も多いだろう。雀荘側がお客さんを管理できるように名前や電話番号、麻雀経験などを書くカードだ。
通常は2~3分で書き終わるのだが、平野は違った。10秒もしないうちに書き終わっているようだった。
私が新規カードの回収をしに行くと、そこにはとんでもないことが書いてあった。
予備校講師もびっくりのペケマークが一つだけ記されていた。
正確にはチェックマークと呼ぶらしいが当時の私からすると何かにダメ出しされたような気がしてペケにしか見えなかった。
「この答案のどこが間違いなんでしょうか?」
なんてことは言えるはずもなく丁寧に尋ねた。
わ「えーっと、すみません。お名前はなんとお読みするのでしょうか?」
平「平野って書いてあるだろうが。」
なるほど。これで平野と読むらしい。私の知らない世界はまだまだあるようだ。
わ「すみません、ありがとうございます。」
心にない言葉が口から出た。先ほど人間力とかなんとか言ったが撤回する。今すぐに平野の顔に大きなペケマークをしてあげたいと思った。
私はすぐさま神谷店長の元に駆け寄りとんでもなくヤバそうなお客だから帰した方がいいと提案した。
神谷店長はなぜか決まりが悪そうな表情をして、
神「まあまあ、打たせてみてダメだったらお帰り願おう。案外、いいお客さんかもしれないし。」
と私に告げた。正体はわからないが何か嫌な予感がした。
奇跡は起きない。平野がいいお客さんなんてことは無かった。山に0枚だ。
オーラにぴったりな片手倒牌、強打、引きヅモ、無発声、舌打ちの五倍役満。
バカンスは個人店なのでマナーに関しては非常にゆるゆるだが、平野は度を越えて悪かった。
私は内心ほっとしていた。
(他のお客さんも嫌がってるし、これだったら神谷さんも出禁にできるだろう。)
そう思っていた。
その日、平野は40時間ほど打って帰って行った。雀荘は24時間営業しちゃダメだろ!という野暮なことは一旦心に留めておこう。
40時間も平野が居座るのは地獄ではあるのだが、帰る際に神谷店長が何らかの対処はしてくれるだろうと思っていた。
平野を見送ると共に、平野と一緒にエレベーターに乗り込む神谷店長。
(さすが神谷店長!)
これでまた変わらない平和な毎日が送れると思った。
エレベーターが開く。神谷店長が嬉しそうに戻ってきた。
わ「平野さん何か言ってましたか?」
神「ん?いや特には何も言ってなかったぞ。ちょっと世間話してきた。気に入ったからまた来るって。」
わ「え?また来るんですか?」
神谷店長は何も答えなかった。
◉第五章〜地獄の始まり〜
さらに三ヶ月の月日が流れた。平野は宣言通りに普通に遊びに来る。
相変わらずマナーのマの字も感じさせない。しかも、平野は一度来るとめちゃくちゃ長い。24時間は当たり前。長いと50時間くらい居座ることがある。とても迷惑である。
平野が来店してから40時間を超え、平野にも疲れの色が見え出した時に事件が起きた。
平野が待ちを河に切ってしまい、その牌を慌てて戻してツモと言い出したのだ。某連盟の森山会長がやったアレをもっとひどくした感じである。
その時、私は運悪く同卓していた。
バカンスはマナーに関しては緩い雀荘だ。しかし、それでもダメなことにはダメと一線を引いていた。
例えば、切った牌は戻せないし、先ヅモはダメだし、一度牌に触れたら鳴くことができない。
マナーとルールの境界線は確かに存在していた。
平野がやったことはルール違反である。
お客さんに好かれるには人間力が必要だ。今回で言うとそれは平野を注意することだ。
嫌われないようにお客さんに何も言わない人がたまにいるが、逆だ。この人がいれば楽しみながらも快適に麻雀が打てる。
その安心感を与えなければならない。だからダメなものにはダメと言わなければならない。
相手が誰であっても。
21歳の私は平野に突撃した。
わ「すみません、平野さん。一度切った牌は戻せないのであがりを認めることができません。」
平「はあ?そんなん聞いてないわ。どこかに書いてあんのか。」
平野は大声で怒鳴った。さらに鬼の形相に近くなり顔を真っ赤にしてるので見た目が完全に赤鬼だ。
あまりにそっくりなので桃太郎に電話しようかと思った。
幸いこの日はセットのお客はおらず、平野と私と他のお客さん一人の状況だった。
私は怯まないように頑張った。
わ「ルール表などには記載していません。しかしこの店のルールであることは確かですので従ってください。」
さらに平野は怒りをエスカレートさせた。
平「ルール表に書いてないならそっちの責任だろ。どうしてくれるんや。大体、自分が切ったっていう証拠はあるのか?なんか動画かなんかに撮ってあるのか?」
どこに書いてあるのか?、そんなの聞いてない、証拠はあるのか。
これは、普通ではない人がイチャモンをつける際に使う常套句だ。雀荘のトラブルに巻き込まれたことのある人は一度は聞いたことがあるんじゃなかろうか。
私は、淡々と話し続ける。
わ「私が見ていましたし、裁定に関してはスタッフに従ってもらうようにルール表にも書いています。今回は申し訳ないですが、あがりになりません。」
怒りのあまり平野は卓を蹴り上げてひっくり返し、持っている牌を私に投げつけた。
さっきの赤鬼はイメージだがこの写真はめっちゃ似てる。こんな顔して牌を投げていた。
漫画で見るようにキレイに私の眼鏡が飛んで行った。
怖くないかと聞かれたら嘘になるが、少なくとも怯んではいけないとは思っていた。怯んだ瞬間にそれは仕事としての敗北である。
わ「すみません、何をされようとあがりにはなりません。」
冷静に繰り返す。
ラチが開かないと思ったのか、平野は神谷店長を呼び出して二人でエレベーターで外に出て行った。
その日、平野が帰ってくることはなかった。神谷店長が何とか対処しのだろう。
————この頃だろうか。
神谷が平野にお金を借りている噂を耳にしたのは。
平野はやはり出禁にならなかった。
◉第六章〜茨の道をゆく〜
神谷店長はこと接客や対人間への振る舞いに関してはめちゃくちゃすごい人なのだが、お金関係はだらしない部分がたくさんあった。
レジの管理も適当だし、売り上げも何に使っているかわからない。
店に居る必要がない時はギャンブルをして遊びまわっていると言うことを熊野先輩から聞いたこともあった。
何にせよ、ここまで平野が出禁にならないとなると、神谷店長が平野にお金を借りているのが事実かはわからないが、平野を拒否できない何らかの事情があるのは確かなようだ。
そうなると道は二つに一つだ。
①雀荘を辞めて別の雀荘に行く。
②平野に認められて言うことを聞いてもらう。
私は神谷店長の「自由にやって」と言う言葉を支えに、限界まで頑張ってみようと思い②の険しい道のりを選んだ。
平野に認められる・・・
それが正しいのかは正直わからないが、正しいとしても何をすればいいかはわからない。
ただ確かなことは、力でねじ伏せるしかない。それは暴力でも何でもない接客の力だ。
バカンスのシフトは私は17時~ラストで入っていた。
卓が早く終われば5~6時間で終わることもあるし、ずっと続けば12時間を超えることだってある。
しかし、どんなに長くとも早番が来る午前10時には業務を終えることができる。
私は、神谷店長に平野がいるときは早番が来ても平野の卓が終わるまでずっと打つことを提案した。つまり、平野が40時間打てば自分も40時間打つと言うことだ。
どうせ、他のバイトやスタッフは平野と打ちたがらないし、犬・猿・キジがいないと普通の人には鬼退治はできないだろう。
私が打つと言うのはバカンスにとっても願ったり叶ったりだろう。
予想通り、神谷店長は了承した。
土壌は揃った。あとはなるようになれである。
一週間後、平野が再び来店した。例のトラブル後なので何となくぎこちない感じはしたが、それほど問題なく同卓することが出来た。
平野はいつものように40時間ほど打ち続けた。私も意地で付き合い続けた。
どんなお客でも舐めてはいけない。お客さんとして来ている以上、私の心では敬意を払ってしっかり接客しようと努力した。
他のお客さんも話の中に入って盛り上げようとした。マナーはいいとはいえないが楽しい卓が続いた。
手応えはあった。
平野の私に対する印象は少しは良くなっている気がした。
何回も同卓して最後まで付き合い続けるにつれ、明らかに平野の態度が変わっていった。
私に対して、嬉しそうにプライベートのことを喋ってくれるし、卓上では大人しく楽しく打とうと努力しようとしてくれた。
それでも他のお客さんに比べたら褒められたものではないが、マシになってるのは確かだった。
◉第七章〜事件再び〜
平野と同卓プロジェクトを開始してから三ヶ月が経った。
私と平野の関係は目に見えて良くなっていた。
そんな矢先にまた事件が起こる。
吉澤と言うお客さんがいる。この吉澤さんは私のことをめちゃくちゃ可愛がってくれた方だ。
いつも私と同卓の希望をしてくれるし、あまり良く無いことかもしれないが競馬をやったことがないと言ったら競馬にも連れて行ってくれた。
年齢は一回り違うが、若々しく私と同じイケメンで、とてもとても感謝しているお客さんだ。
その吉澤さんと、平野と私で卓がたつことになった。
吉澤さんは週に一回しか来ないが、来たら長く打って帰るタイプの方だ。
平野は言うまでもない。長い戦いが始まった。
20時間くらい経過した時のことである。
悪夢が再来する。
平野が再び待ちを河に切ってしまい、その牌を慌てて戻してツモと言い出したのだ。
しかも、その河に切った牌に対して吉澤さんがロンの声をかけた。
その時の吉澤さんの手が・・・
である。いきなりフィクションっぽくなってしまったが実際に起きたことなので仕方がない。
最悪なことはいつも急にやってくる。それも人間の予想を超えて。
私が、平野のあがりを認めなければ平野は国士の放銃でトビになってしまう。だからと言って、平野のあがりを認めれば吉澤さんのあがりがなくなってしまう。
まあ・・・
でも答えは決まっている。
嫌われないようにお客さんに何も言わない人がたまにいるが、逆だ。この人がいれば楽しみながらも快適に麻雀が打てる。
その安心感を与えなければならない。だからダメなものにはダメと言わなければならない。
相手が誰であっても。
一度、激怒されているので肩の荷はかなり重かった。また同じことの繰り返しになるだろう。
それでも、言わなければならない。私のことを気に入ってくれる吉澤さんの目の前で一つの注意も出来なければ人間として終わりだろう。
私は重い口を開いた。
わ「平野さん、すみません。一度河についた牌は戻せないので切ったことになります。この場合は吉澤さんのあがりになります。」
その瞬間、平野は勢いよく立ち上がった。
嫌なトラウマが蘇る。また牌を投げられるのかと私は自然に身構えてしまっていた。眼鏡をしっかり押さえた。
すると、平野はコートがかけてある所に歩いて行きコートを羽織り出した。
そして、一言
平「わせちゃん。今日はダメみたいだから帰るね。またくるわ。」
・・・。
思わず泣きそうになった。
勝った。勝ったのだ。
誰と勝負していたわけでもない、何か賞金が出るわけでもない、誰かに褒められるわけでもない。
しかし私は戦いに勝ったのだ。
一人のお客さんに「今日は帰る」と言われた。たったそれだけのことだ。
しかし、言葉では言い表せない感動が私を包んでいた。
これが、私が10年間雀荘に勤めて一番嬉しかったことだ。
◉第八章〜その後〜
結局、バカンスはオーナー陣のお金の使い込みなどがあって経営が上手くいかずしばらくして無くなってしまった。
この話はまた別の機会にしようと思う。
あれから9年が経った。今、私は福岡ではなく東京にいる。
平野と吉澤さんのことなんて頭の片隅にもなかった私に、あるニュースが目に飛び込んできた。海外を拠点とした特殊詐欺のグループの主犯としてある男が逮捕されたらしい。
その主犯の名前が平野であった。
その名前を見た瞬間、この思い出が一気に蘇ってきた。
ロクでもない思い出し方だが、忘れないようにnoteに書いておこうと思った。
最後に少しだけ言いたいことがある。
一つ目は、今の雀荘はこう言ったトラブルは少なくなってきているということだ。
全くないと言ったら嘘になるが、チェーン店や検索したら出てくるような雀荘では「無い」と言って差し支え無いだろう。そこらへんのご飯屋さんに入る感覚で楽しく麻雀を打って欲しいし、働いてる人も楽しく平和に麻雀が打てる恵まれた環境で頑張って欲しい。
二つ目は、老害のような発言になるかもしれないが、嫌いなお客さんや苦手なお客さんと頑張って接してみるのも悪くないよってことだ。
今の時代は「嫌なのでやめる」「給料に見合わない」などと言って健全に働きやすい時代になった。
それでも、私は嫌いなお客さんに向き合うことはしておいた方がいいと思っている。
当たり前だがプライベートで嫌いな人と触れ合うことをする必要はない。嫌いな人に「今度飲みにいきましょう!」なんていう人はよっぽど特殊な人だ。
しかし、仕事だとそうはいかない。
むしろ生きていく上で、仕事だけが嫌いな人と触れ合える最大のチャンスなのだ。
人間には許容範囲がある。あの人はダメだ、あの人は合わない。誰にだってある。
けれども、その許容範囲の広さは人によって大きく違う。
そして、それはある程度広くしておいた方が生きやすいと思う。
自分と違う人間をどれだけ許せるかが許容範囲だと思っていて、他人に対して許せることが多くなれば不要なイライラも無くなるし、不要な人間関係のトラブルも少なくなると思う。
例えば、待ち合わせに遅刻されたときに
「私は時間通りに来てるのにありえない!」って思うのと「まあ、遅刻する人なんているよね笑」と思うのでは全然違うと思うのだ。
遅刻くらいなら許せる人が多いと思うが、他のことになったら「私は〇〇なのにありえない!」と思う人は少なくない。
雀荘には「ありえない!」と思える人と出会ういいチャンスだからこそ、その機会を活かしてぶつかってみては?と思うのだ。
私は、今回紹介した平野も含めて嫌いな人こそ積極的に絡みに行った経験があるからか、色々な人がいることを理解している。
そのため、ここ10年間くらいは人に対してイライラした記憶がない。
私に対してイライラしたという○リーガーが居るという噂はよく耳にするが笑
雀荘ってのは、従業員ともお客さんとも他の業種に比べて距離が近い。だからこそ人生で自分の許容範囲を広げる一番のチャンスだと思って接客にあたってみてはいかがだろうか。
その瞬間は苦しいが、何年か経って昔を振り返った時に、案外いい思い出になっているものだ。
というわけで、最後に良いことを言いたい症候群が発動してしまったのでこれにて終わります。
Mリーグ記事たくさん書いてるのでみてね。
さよならわせりん。
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