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【宇宙ビジネス最新動向解説】Starlinkは民間宇宙ステーションにも!?LEOで展開される光通信ネットワーク【Space Symposium 2024:前編】

 2024年4月8-11日に、世界最大級の衛星産業カンファレンスSpace Symposiumが米国コロラド州コロラドスプリングスで開催されました。Space Symposiumは宇宙利用に関連する情報の整理、教育、イベント運営などを幅広く行う非営利団体であるSpace Foundationが主催する、今年で39回目になるカンファレンスです。例年3月にワシントンDCで開催されるSATELLITE、例年8月にユタ州ローガンで開催されるSmallsat Conferenceと並び、米国の人工衛星分野では3本の指に入る非常に大きなイベントとみなされています。

 Space Symposiumは例年1万人を超える参加者が集う巨大なイベントですが、今年の参加者総数は3万人を超え、過去最大級の盛り上がりを見せました。トピックは衛星通信や観測衛星、打上げ関連から深宇宙での大型ローバーや宇宙ステーションなど、非常に幅広い分野をカバーしている一方で、特に安全保障に関するトピックが注目されています。

本シリーズでは、ワープスペースCSOの森が現地にて得た見聞をまとめています。

本記事では、カンファレンスで発表されたニュースのうち、特に森が注目したトピックである、

  • 民間宇宙ステーションとStarlinkの光通信

  • ペンタゴン、米宇宙軍が戦略文書を公開

  • トヨタの与圧式月面ローバーと日本人宇宙飛行士2名が月面へ

についてお届けします。

前編では、「SpaceXのStarshipの試験成功」について詳しく説明します。
(中編はこちら、後編はこちらです。)

Vast SpaceとSpaceXのパートナーシップ

 今回のSpace Symposiumにて、宇宙空間での光通信ネットワークに関わる最も重要なトピックとして真っ先に挙がるのが、商用宇宙ステーションの開発、提供に携わるVast Space社と、SpaceXのパートナーシップについての発表(*1)です。SpaceXは先月、スターリンク衛星用に開発したレーザー通信システムを他の衛星メーカーに販売する計画を発表(*2)しており、このレーザー通信システムが、Vast Space社による世界初の商用宇宙ステーションとなる予定の「Haven(ヘイブン)-1」 に装備されることが発表されました。

(*1 【Vast】 Vast’s Haven-1 to be World’s First Commercial Space Station Connected by SpaceX Starlink)
(*2 【ワープスペース:Note】【宇宙ビジネス最新動向解説】SpaceXのレーザー光通信端末市場への新規参入! SDA準拠端末との競合はありうるのか!?【ワープスペースCSOが語る:SATELLITE 2024 中編】)

VastのHaven-1商業宇宙ステーションがレーザーを介してStarlink衛星ネットワークに接続しているイメージ図。(*1)

 これにより、Haven-1 のクルーは、個人のデバイスを Starlink ネットワークに接続できるようになり、軌道上で高速・低遅延のインターネット接続を利用できるようになります。 このVast SpaceとSpaceXのパートナーシップはHaven 1以降の商業宇宙ステーションへのStarlink接続を見通しており、商用宇宙ステーションの通信のスタンダードとなり得ます。

欧州の光通信ネットワーク「HydRON」の動き

 一方で、欧州宇宙機関(ESA)の計画する光通信ネットワーク「HydRON(High Throughput Optical Network)」に向けた動きとして、カナダの衛星通信ベンチャー企業であるKepler Communications、ドイツの衛星通信事業者TESAT-SpacecomおよびAirbus Defense and Spaceによるパートナーシップも発表(*3)されています。

(*3 【Spacewatch Europa】 Kepler to Develop In-Space Communications Network for HydRON)

Kepler Communications、ドイツの衛星通信事業者TESAT-SpacecomおよびAirbus Defense and SpaceによるMOU締結(*3)

LEOとMEOの光通信ネットワーク

 これらの光通信ネットワークは主に地球低軌道(LEO)で展開されるものです。特にStarlinkをはじめとするLEOの衛星コンステレーションは、LEOの弱点であるカバレッジ(一つの衛星が通信可能な地上の領域)の狭さを、大量の通信衛星を配備することでカバーし、通信網を構築しています。一方で、ワープスペースが開発している「WarpHub InterSat」は、地球中軌道(MEO)に配備する予定です。LEOより高い軌道に衛星を配備するため、LEO衛星よりもはるかに広いカバレッジを持つ点に優位性があり、広域をカバーでき、かつ大容量の光通信ネットワーク構築を目指しています。

 LEOを足がかりとして発展の兆しを見せる光通信ネットワークの市場の中で、MEOを主戦場とするワープスペースがいかに存在感を示していくのか、ワープスペースの今後にご期待ください。

(執筆:中澤淳一郎)

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