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宇宙空間光通信の展望:Chapter 2 「従来の電波通信の用途・課題

この章では、宇宙空間での電波通信についての基本的な情報を提供し、その特徴や応用、課題について説明します。


宇宙空間における電波通信とは

  • 宇宙探査や通信衛星、国際宇宙ステーションなど、新旧問わず宇宙開発における情報伝送は不可欠であり、長らく通信において主要な役割を果たしてきたのが電波通信です。

  • 地球低軌道における宇宙活動、特に観測衛星ミッションなどでは、観測データや実験データを地球へ送信し、制御指令や運用情報を受信する必要がありました。当初の宇宙ミッションでは、比較的低帯域幅の通信で十分であったため電波通信が利用されてきました。

  • 電波通信は無線通信の一形態であり、電波の特性を活用して情報を伝送します。主要な電波帯域には、Sバンド、Xバンド、Kuバンド、Kaバンドなどがあります。これらのバンドは、異なる通信目的に使用されます。

  • 宇宙空間での電波通信は、宇宙から地上へ、または地上から宇宙機へ情報を送受信するために電波を使用します。深宇宙探査や通信、天文学的観測、宇宙科学研究などを通じて得られたデータを地上に伝送するために通信システムは不可欠であり、宇宙空間でのさまざまな活動で重要な役割を果たしてきました。

臼田宇宙空間観測所 ©︎JAXA

電波通信の技術・装置・システム

  • 宇宙空間での電波通信には、高度な技術と専用の装置、システムが必要です。通信装置やアンテナ、地上局、宇宙機に組み込まれた通信ハードウェアなどが含まれます。これらの装置は、電波信号の生成、送受信するために設計されています。また、通信を安定して行うためには高度な調整と監視が必要です。

  • 宇宙船内部には、コマンドとデータを送受信するための通信機器も備えられています。これらのシステムは、遠隔操作によって宇宙船の航行、実験、観測などの活動を支援し、地球との通信を確保します。通信が確立されなければ、宇宙船の安全性やミッションの成功に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

宇宙空間での電波通信の応用例

宇宙事業における通信は、大きく地上―衛星間通信と、衛星間通信の大きく2つに分かれます。

  • 地上―衛星間通信:衛星や宇宙船、宇宙ステーションは、地上局とデータを送受信し、科学データや通話などの情報を送る際にはRF通信が不可欠です。また、衛星の位置や移動の追跡、衛星への運用コマンドの送信(TT&C: Tracking, Telemetry and Command)においてもRF通信が使用されています。

  • 衛星間通信:衛星間通信とは、軌道上に配置された複数の人工衛星が互いにデータや情報を送受信することを指します。通常、静止軌道(Geostationary Orbit:GEO)に配置された静止衛星は、地球の自転と同期して特定の地点の上空に位置し、その地域の通信を提供します。しかし、静止衛星の通信範囲には限界があり、遠隔地域への通信が難しい場合があります。衛星間通信を導入することで、静止衛星通信システムの通信範囲を拡大できます。また、通常非静止衛星1機の場合は地上局との通信時間は限られていますが、非静止衛星同士や静止衛星とでデータを交換することにより、地上局と長時間通信できます。

電波通信の課題と制約

一方で、宇宙空間での電波通信にはいくつかの課題と制約が存在します。 

  • 減衰:まず、通信距離が非常に遠いため、減衰(信号の弱体化)しやすくなります。電波は宇宙空間を伝播する際、信号の強度が急激に減少する現象で、これに対処するためには、高出力の送信機や高感度の受信機が必要です。また、通信経路に障害物が存在しないにもかかわらず、信号強度の変動が発生することがあり、これを補正する技術も必要です。

  • 外部干渉:電波通信は他の通信機器や電子機器からの電磁干渉の影響を受けやすく、これが通信品質の劣化やエラーの原因となります。特に、宇宙船内部では多くの電子機器が稼働しており、これらからの干渉を最小限に抑える必要があります。セキュリティも重要な懸念事項であり、不正アクセスや傍受のリスクが存在します。これは、宇宙探査機や通信衛星が機密情報や重要なコマンドを運ぶ際に特に重要です。

  • エネルギー消費:さらに、電波通信はエネルギーを多く消費し、バッテリー駆動の宇宙機器にとっては制約となります。宇宙空間での電力供給は限られており、電力効率を向上させるための研究が行われています。省電力の通信方式や電力管理技術の開発が、宇宙探査機の長期ミッションにおいて重要な役割を果たしています。
     
    また、近い将来、従来の電波通信の通信速度や容量ではデータの送受信が困難になってくることも懸念されています。過去数十年間、宇宙機から地球へ送信される画像や観測データの容量が増加の一途をたどっています。1990年代まではフィルムや磁気テープレコーダーが衛星の記憶媒体として使用され、記憶容量も限られていました。しかし、2000年代に入ると、光ディスクや半導体メモリが使用され始め、記憶媒体の大容量化が進みました。これに伴い、衛星のデータ通信容量が増加し、従来の電波通信の通信速度や容量では送受信が困難になってきています。
     
    この課題に対処するため、通信技術も進化を遂げています。高帯域幅通信、高度な圧縮アルゴリズム、誤り訂正技術の向上に資する技術開発が進み、効率的なデータ伝送が可能となっています。しかし、さらなる容量の増加に対応するためには、新たなアプローチが必要です。光通信はその一つの有望な解決策として浮上しています。
     
    また、光通信により、衛星間通信、特に複数軌道での通信が可能になることも期待されています。光通信は、電波通信に比べてデータの減衰が非常に少ない特性を持っています。これにより、宇宙空間の広い距離をカバーする衛星間通信において、データの品質が保たれ、高速通信が可能となります。また、光通信は非常に狭い波長範囲を使用しているため、周囲の電波等との干渉がほとんど発生しません。このため、複数の衛星や宇宙船が同じ領域で通信する際に、光通信は電波通信に比べて干渉しにくく、信頼性が向上します。さらに、光通信はセキュリティを高める利点があります。電波は一般的に容易に傍受でき、暗号化されたデータでも傍受や妨害のリスクが存在します。しかし、光通信は非常に狭いビームを使用するため、通信の傍受や妨害が難しくなります。

まとめ

宇宙空間での電波通信は、長らく宇宙探査や通信衛星、国際宇宙ステーションなどの宇宙活動において不可欠な役割を果たしてきました。しかし、その課題と制約もまた明らかです。通信距離の遠さ、干渉、セキュリティのリスク、遅延、エネルギー効率など、これらの課題に対処するためには、高度な技術と解決策が求められます。
 
光通信は、これらの課題に対処し、宇宙空間での通信の未来を明るく照らす技術として注目されています。


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