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【宇宙ビジネス最新動向解説】月面探査において高まる日本の存在感!トヨタの月面探査車「ルナクルーザー」と日本人宇宙飛行士2名が月面着陸へ【Space Symposium 2024:後編】

本シリーズでは、2024年4月8-11日に米国コロラド州コロラドスプリングスで開催された世界最大級の衛星産業カンファレンスSpace Symposiumで発表されたニュースのうち、特に森が注目したトピックについて解説します。
後編にあたる本記事では、「トヨタの与圧式月面ローバーと日本人宇宙飛行士2名が月面へ」について詳しく説明します。
(前編はこちら、中編はこちらです。)

トヨタとJAXAの与圧式月面ローバが月面へ

署名式の様子(*1) 

2024年4月10日(日本時間)、国際宇宙探査計画「アルテミス計画」に関連し、日米両国は「与圧ローバによる月面調査の実施取決め」に署名しました(*1)。この与圧ローバとは、トヨタとJAXAが協同で開発を進める “ルナクルーザー(LUNAR CRUSER)”のことであり、月面探査において、宇宙飛行士の移動手段として使用される予定です。森はこの発表に関して、

アルテミス計画において各国が月面着陸を目指す中、日本が重要な役割を得られた意義は非常に大きい。日本の底力を見た。

と述べます。

(*1 【文部科学省】 国際宇宙探査(与圧ローバによる月面探査の実施取決めの署名について)

ルナクルーザーは車内の気圧を調整し、地上に近い環境を作り出した「与圧キャビン」という密閉空間を持ちます。そのため、月面の過酷な環境においても、従来の月面車のように船外活動服を着用する必要がなく、快適さと安全性を兼ね備えた車両になります(*2)。このルナクルーザーの開発は、JAXAやトヨタのみならず、システムの部分は三菱重工業が、金属タイヤはブリヂストンが開発を担当するなど、チームジャパン体制で取り組まれてきました。そのような体制で現在も開発が進められているルナクルーザーは、2031年に予定されているアルテミス7ミッションから10年間運用することが計画されています(*3)。また、JAXAの技術領域を総括する筒井史哉は、

有人与圧ローバは、2名の宇宙飛行士が30日にわたって移動しながら探査することができます。人が乗らないときは無人で走りながら、さまざまな活動をすることも可能です。アルテミス計画における、探査活動の中心的な役割を果たすことになります。

と語ります。

(*2 【TOYOTA有人与圧ローバ)
(*3 【トヨタイムズ】チームジャパンで宇宙に挑む!ルナクルーザー開発の現在地)

有人与圧ローバ「ルナクルーザー」(*2)

アルテミス計画では、月の南極の永久影に埋蔵されているとみられる氷(水の氷)の探査などが行われる予定で、「動く月面基地」といえる機能を兼ね備えるルナクルーザーの活躍に大きな期待が寄せられます。そして、日本はこの有人与圧ローバーの提供と開発費の負担を交換条件として、日本人宇宙飛行士による月面着陸の機会を2回得ることとなりました。

「日本人宇宙飛行士2名が月面着陸へ」日米合意


岸田首相とバイデン大統領(*4)

2024年4月11日(日本時間)に行われた首脳会談にてバイデン大統領は、

私は米国で、宇宙への壮大な挑戦に胸を躍らせていたひとりです。アルテミス計画のもと、日本人宇宙飛行士による初の非米国人宇宙飛行士としての月面着陸を歓迎します。

と述べ、日本人宇宙飛行士の月面着陸の確約を発表、祝福しました(*5)。

(*4【SPACE.com】Japanese astronauts will join NASA moon landings in return for lunar rover)
(*5【SPACEPOLICYONLINE】BIDEN AND KISHIDA: FIRST NON-US ASTRONAUT ON THE MOON WILL BE JAPANESE)

1969年から1972年まで、NASAのアポロ計画の一環として月面に着陸した人類は現在までに12人いますが、彼らは全員、アメリカ人でした。それから約50年ぶりの有人月面着陸となるアルテミス計画では、早ければ2025年後半に宇宙飛行士を乗せた宇宙船が月の周りを周回する試験飛行を行うことを目指し(アルテミス2)、2026年9月に宇宙飛行士が月面に降り立つミッション(アルテミス3)を実施することを目標としています(*6)。

(*6【SPACENEWS】NASA delays Artemis 2 and 3 missions)

この計画の中で初の日本人宇宙飛行士月面着陸となるのは、2028年に予定されているアルテミス4とみられます。そして、2031年のアルテミス7にて2人目の日本人飛行士が着陸予定で、先述のトヨタ、JAXAにより共同開発されたルナクルーザーの最初の操縦を担当することが予想されています。

さらには2026年以降も継続的に宇宙飛行士による月の探査が行われる予定で、月面での長期滞在や、将来的には火星の有人探査も見据えています。

アルテミス計画にて建設が計画されているゲートウェイと有人宇宙船の想像図(*7)

(*7【NASA】 Gateway)

今回の発表で、2人の日本人宇宙飛行士の月面着陸が確約されたわけですが、一体日本人初の月面着陸は誰になるのか。JAXAによると、現時点では選定方法等は決定されていない状況です。

現在現役でJAXAに所属する日本人宇宙飛行士は、古川聡さん、星出彰彦さん、油井亀美也さん、大西 卓哉さん、金井 宣茂さんの5名。全員が100日を超えるISS長期滞在を経験しており、日本の宇宙開発に貢献しています。さらに、2023年には新たに2人の宇宙飛行士候補生、諏訪誠さん、米田あゆさんが選出され、将来の月面ミッションへの参加が期待されています。
森はこちらに関して、

60歳の定年制度があるため、誰が選出されるのかはおそらく最初に月面に有人着陸を行うであろうスペースXの開発スピードにもかかっている。

と述べます。

有人月面着陸は、人類の探求心と技術の進歩を象徴する偉業であり、アメリカに次いで2番目の国となる日本は世界の宇宙史に歴史を刻むこととなるでしょう。日本人として最初に月面に降り立つのは一体誰になるのか、今後の発表に益々期待が高まります。

(執筆:川口奈津美)

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