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風が運んだ名勝負 ~第16回ジャパンダートダービーの個人的雑感~

今開催を終えると、大井競馬場の2号スタンドは改修のため取り壊されることになっている。
この薄汚れたスタンドに初めて足を運んだのは2011年のジャパンダートダービー(以下JDD)だった。

グレープブランデー、ボレアス、クラーベセクレタの3頭が叩き合った激しいレース。
そんな熱気に圧倒されていると、「いかにも馬券が好きそうな老人」が僕に声をかけてきた。
当時は馬券の種類について詳しく知らない身だったで、内容はよく覚えていない。
要するに「3連複(か3連単)の一頭抜けなので悔しい」という中身だったと思う。
適当な相槌を打っていると、老人は付け加えた。
今日のようなレースをされると、やっぱり競馬は止められないな。
それに関しては僕も全力で、「そうですね」と返すことにした。

苦境が続く地方競馬界に、颯爽と現れた救世主。
ハッピースプリントは羽田盃、東京ダービーと大勝し、このJDDに勝利すれば久々の「南関東三冠馬」誕生になる。
中央競馬と地方競馬の実力差が一層広がる中、まさに千載一遇のチャンスである。

対抗するJRA勢も面白い馬が揃ってはいるが、実力面では不安が残るのも事実だった。

色々と映像を見ながら予想を考えていたところ、1頭面白い馬がいた。
鳳雛ステークスで素晴らしい末脚。名前はカゼノコ。
名は体を表す。この諺がぴったり当てはまる一頭である。

スタート直後の位置取りを見たとき、この2頭軸の3連複を買っていた僕は思わず頭を抱えた。
ハッピースプリントは? 好意に付けている。
でも、カゼノコはこれじゃ差せないな…
そんな双方の、両極端な位置取りが、ラスト1mまで解らない名勝負の複線だとは思ってもいなかった。

ハッピースプリントをマークする形で先行馬が疲弊する一方、出遅れたカゼノコは徐々にポジションを上げていく。
ある意味、消耗戦に巻き込まれなかったことを考えれば、スタート時のアクシデントも「災い転じて…」という側面があったかもしれない。

ラストの直線、逃げて粘るノースショアビーチをハッピースプリントが抜かしたときは、勝負あった!と誰もが思った。
いや、そこからが本当の勝負だった。やや外目のポジションからカゼノコが一気に差していく――。
あっ!と叫んだ時には、皆が道中で描いていた結末が変わっていた。
ある程度の熱気を保ちつつも、心のどこかで一瞬、強風が吹き荒れた感覚になった。


ハナ差とは言え、ハッピースプリントが3冠を逃したことによる落胆は大きい。
地方競馬界にとっても、一頭のヒーローを創り損ねた。
今後は門別に戻るという事だが、まだまだ燃え尽きて欲しくはない。

残酷な結果を突き付けられた一方、カゼノコは飄々としているように見えた。
ダートの差し馬ほど展開に左右される系統は無いと思うが、自らがつくった不利を跳ね返す強さは今日のレースで証明した。
こちらに関しては、スケールの小さな戦い方をして欲しくないという事に尽きる。

そんなレースを2号スタンドのいつもの片隅で、そっと眺めていた。
勝負はいつでも劇的であり、かつ残酷である。
それこそ、競馬の面白さであり、素晴らしさである。
そんな興奮を伝えたかったのだが、残念ながらあの日会った老人には、今日も会えず仕舞いだった。
でも僕と、同じ感想で競馬場を後にはしているだろうな…と今は勝手に思い込んでおこう

どうもです。このサポートの力を僕の馬券術でウン倍にしてやるぜ(してやるとは言っていない)