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憧れてたものは美しく思えて

昔聴いていた曲をふとしたタイミングでぼんやりと思い出すと、ああなんだっけ、こんな歌詞で、曲名にこんな漢字が入っていた気がするなどと記憶を片端からひっくり返して探してみる。
いざ思い出してみると、どこでその曲を始めて聴いたのかなんて記憶も出てきたりする。
最近浜崎あゆみのMomentsを聴いてたことを思い出して、初めて聴いた瞬間も同時に思い出した。

学生身分で何度か足を運んだ東京では、下宿している友人宅に泊めてもらうことが金銭的に不可欠だった。
友人は早稲田大学に通っていて、キャンパスの周りがラーメン等学生の好む飲食店で囲まれていることを把握するのに時間はかからなかった。少食でさほど食に興味が無さそうだった彼はとっくにそこら一帯の飲食店に精通しており、連日色んな(主に麺類)お店に連れて行ってもらった。
その中で一番、美味しいと思ったのが武道家だった。いわゆる家系ラーメン。

自分が通っている大学の近くにもこの系統のラーメンはあったけど、醤油豚骨かーと思ってそんなにハマってはいなかった。
友人はおもむろにレンゲでスープを掬うと、薄い膜をまとったそれを白米に流しかけてみせた。我慢ができないといった様子で一気にかき込むと満足そうな顔を浮かべた。
このとき始めて家系ラーメンの食べ方を知り、有線で流れていた浜崎あゆみのMomentsにも密かに魅入られていた。
スープに浸った九条ネギに舌鼓を打ちながら、曲名を割り出すために歌詞のどこか一節でも聞き取ろうと忙しなかったことだろう。

帰りはどしゃ降りだった。また行きたいとその後も東京に足を運ぶたび武道家を頭には浮かべているけれど、友人が下宿を辞めた今なかなか都合がつかない。
思い出の味って、おそらく思い出を上回ることは往々にしてないから、もうこのまま行かずに当時の衝撃を折に触れて咀嚼するのも悪くないかもしれないな。Momentsも聴き直すと当時ほど揺さぶられはしなかったし。

思い出って再現しようとしてもどこか味気なくて、額に入れて眺めているときが一番良いものに思える。

家系総本山吉村家いきてぇよ。

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