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大志抱き筆持てる我、銀岑に立ちぬ(1)

※このシリーズも創作ものになります。

ほぼほぼフィクションではありますが、プロの詐欺師が9割の真実の中に1割の誘導と嘘を混ぜるように、この話の中にももしかしたら「噓から出た実」が含まれているかもしれませんね。


謎の悪夢


卒論の期限に追われて研究室に泊まり込んでいた頃、僕は毎晩後味の悪い夢にうなされていた。
しかも夢の内容は決まって同じだ。

その夢の舞台は、どこなのだろう?
海の色や植物の形から察するに、沖縄のような熱帯の島だろうか。

そこで大剣を持った大柄のハーフっぽいイケメンが、一本の大木を守るために軍隊相手に孤軍奮闘していた。

なぜその軍隊が大木、あるいはイケメンを狙うのか。
その目的は一切わからない。

僕は動くことも声を出すこともできず、ただ彼が戦う様子を上空から見守るしかできなかった。

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彼は強かった。
大剣の一振りと衝撃波で大群を蹴散らし、疲弊しながらも最後には全滅させてしまう。

しかし彼の眼からは、もはや光が消えかけていた。

「父さん、母さん、アシュリー…僕はこれでうまくやれたのかな?
もう疲れたよ・・・そっちに行ってもいいよね?」

そう呟くと、彼は力尽きて大木に寄りかかる。
彼の身体は砂のようにさらさらと溶け出し、やがて大剣と指輪を残して消えてしまうのだった。

そしていつもそこで目が覚めてしまう。

う~ん、また研究室で徹夜してしまった。
卒論の期限までもうあまりないとはいえ、そろそろ家に帰って寝たいものだね。
睡眠の質が悪いから変な夢を見るんだろうし。

僕は変な夢のヴィジョンを脳内から追い出すかのように頭を振り、ソファーベッドから起き上がった。


それにしてもあの夢、いったい何なんだろうか。
あのイケメンも、ガジュマルみたいな大木も、彼が使っている魔法のような技も、現実味がないわりに妙にリアルだった。

しかも何度も同じシーンを見るということは、ゲームかアニメの影響のような気もするが…似たような作品には全く心当たりがない。


なのに、なぜだろう。
あのイケメンが力尽きてしまうシーンを見るたび、僕は言いようのない悲しみにとらえられ、こみ上げてくる涙を必死にこらえるのだ。

小説を読んでも感動して涙を流すことなどめったに無いというのに。


親ガチャで爆死した僕


僕の名は虎男。
この漢字でタイガーと呼ぶ。
…そう、いわゆるDQNネームだ。

この名前は父親が酔っぱらっているときに閃いたらしい。

当時父親がハマっていたプロレス漫画があって、その漫画の主人公にあやかって虎男と名付けたそうだ。

えっ、母親はなぜ止めなかったのかって?

母親はプロの姓名判断の人に相談して止めてもらおうとしたところ、虎男という漢字が画数的に縁起が良かったらしく…本当にタイガーという名前が採用されてしまったのだそうだ。

このエピソード一つとっても、僕が親ガチャに外れたと証明するには十分だろう。

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毒親のエピソードはこれ以外にもある。

父親は昔プロレスラーを目指して挫折した経験があり、あろうことかその夢を僕に押し付けた。
物心つく以前から、僕を様々な道場に通わせたのだ。

正直僕は運動神経は結構いいほうだ。
現に陸上競技や球技などはクラス内でもかなり優秀な成績をおさめた。

でも格闘技に興味なんて全くない。
だから道場の稽古もまじめにやらず、そのせいで親にも道場の師範にも叱られ続ける。
ときには人格を否定されるような罵詈雑言まで浴びせられた。


僕には逃げ場がなかった。
母親は悪い人ではないものの強い意志はなく、常に父親の顔色をうかがう感じで、僕を守ってくれる存在としては役不足だ。

それに親の言うことを聞かないとご飯もおやつも抜きにされてしまったので、僕に道場を辞めるという選択肢はなかった。

僕の無力感と人の顔色を伺う癖は、その時培われてしまったのかもしれない。


つきまとう無価値感

とにかく僕は実家を早く抜け出したかった。
なので苦手な受験勉強も必死に頑張った。

その結果、仕送りなしでも奨学金とバイトでなんとかやっていける都会の国立大学を受験し、辛くも合格した。

ようやくこれで自由になれる!
大学に入ったら本来の僕の人生が始まる。
・・・そう考えていた。


だが大学に入った僕は、ある事実を痛感することとなる。

僕には個性というか自我がないのだ。

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大学には実に個性豊かな人たちが全国各地から集まっていた。

彼らは独自の哲学というか主張を持っており、時に互いのそれを衝突させることもある。
だがその議論を通じて相互理解を深めているようだった。


でも僕にはそれがなかった。
ぶつかり合うことを避け、相手の主張を全面的に受け入れた。

それゆえ人間関係で苦労することはあまりなかった半面、深い付き合いもできなかった。
薄っぺらな自分に時々嫌気がさすものの、どうすることもできない。


周囲の大人に言われるがままにふるまわねば生きてこれない環境にいたため、自我が芽生える余裕などなかったのだ。

人の反応が気になってしまい、相手に喜んでもらえるように動く。
自分を犠牲にしているというか、そもそも自分の喜びというものがわからない。

考えてみれば、読書の時もそのスタンスをとっているな。
著者の意見を100%受け入れてしまい、本と対話する習慣がないのだ。

だから知識だけはたくさんあるものの、掘り下げたり自分流にアレンジしたりといった行動はとっていないので、読書の感想を求められると困惑してしまうこともある。

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僕は一体、何のために生きているのだろうか。

親から離れることばかり考えていて、離れた後に何がしたいのかは全くイメージしていなかった。

そして気づいたらもう4回生だ。

バイトと就活と卒論に追われ、結局立ち止まって考える余裕すらなかったな。
そして今後もそんな余裕はなさそうだ。


いけない、そんな事を考えている暇はない。
早く課題を終わらせなければ。

僕は冴えない脳みそをフル回転して、なんとか原稿用紙の字数を埋めるために四苦八苦した。

(続)

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