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本屋が街から消えたあと、都市に必要な本屋「的な」場所について考えてみた話

さて、今日は珍しくニュースについてコメントしてみたい。

取り上げるのは特に地方都市における「書店」の撤退を防止するために、経済産業省が大臣直轄のプロジェクトチームを発足させたというニュースだ。上記の記事によると、「書店が全くない「空白地帯」も増え、一般財団法人・出版文化産業振興財団の別の調査では、令和4年9月時点で全国の1741市区町村のうち、約4分の1に当たる456市町村が書店がない状態となっている」そうだ。

ではこのプロジェクトチームで何をするのかというと、「集客に成功した書店に事例を報告してもらう「車座」の会合を開き、全国の書店への周知を図る」「書店の現状やキャッシュレス決済の導入状況を聴くほか、中小企業の事業承継に向けた補助金についての使い勝手などを確認する」ということらしい。

僕は本を書いたり、自分の事務所から本を発行したりしているので、ほぼ無条件で書店を応援する立場になるし、実際にそう思っている。家が狹いので、自分が買う本はほとんど電子書籍になっているのだけどやっぱり「紙の本っていいな」、と思う(昭和53年生まれなので、許して欲しい)。

しかし……というか、だからこそこのニュースを耳にして深く考え込んでしまった。本当の問題は「書店がない」ことなのだろうか。いや、書店がないことはもちろん問題だ。書店のない空白地帯が増えることにも、危機感を覚える。しかし「それだけ」でこの背景にある問題を解決できるのか、と考えたときにちょっと待てよ……と立ち止まってしまったのだ。「書店がない」ところに「書店を作る」ことで問題は解決するのか。集客の工夫や、キャッシュレス決済の導入方法や、事業継承のノウハウはもちろん共有されたほうがいいのだけど、「そもそも」の問題にアプローチしないといけないのではないか、と考えたのが。

先に結論を書いてしまうと、僕はこれを「書店」だけの問題だと思わない。これからの都市には、かつて「書店」が担っていた機能、つまり「自分が自覚していない欲望を偶然に発見できる場所」を、残念ながら「別のかたち」で「も」備えることが必要だと思っている。

どういうことかというと、「SNSではダメで、書店ないといけない」理由を考えると分かりやすい。それは「偶然目に入る」本との出会いの問題だ。SNSはフィルターバブルが働くために、「その人(が接している)共同体の中で読まれている本(触れられている情報)」が優先的に表示される。しかし書店では、目当ての本「ではない」本が偶然目に入る。この体験の価値が大きいのだ。

したがって単に「書店」があればいいという話ではない。

たとえば多くの書店、特にチェーン店の類ではアマゾンのランキングを参考に棚がつくられてるところも多いのだけれども、これにはほとんど意味がない。ちなみに書店業界は全体的に従業員の待遇が良くなく、「そうではない」良心的な書店の棚の多くが書店員さんの給料以上の努力で自主的にちゃんと「選ばれた」ものとしてつくられている。なので、僕は書店員という職業の地位向上、待遇改善がこの問題のポイントだと思うのだけれど、今日考えたのはちょっと別の話だ。

今日考えたのは要するに僕たちは、ほとんどの人間はもう本は読みたくないと思っているという身も蓋もない現実に向き合うべきだ、ということなのだ。

もちろん、僕は本を書いたり誰かの本をつくったりするのが仕事の中心なので、ものすごく困る。はっきり言ってしまえば、この現実に向き合うのが怖い。しかし直視しないと対策も立てられないと思う。

要するに人間は新しい知識を得たり、それについて考えるよりも、誰かとおしゃべりしたり短文でコミュニケーションをとるほうが好き……というか、そのほうが簡単で快楽が大きいと感じる生き物なのだ。それは誰もが経験的に理解していることだと思う。「何もない」人ほど、家族や職場の「人のこと」に夢中になるし、僕の仕事関係でも能力の低い書き手や編集者ほど「業界の人間関係の話」をしたがる。問題はSNSが人間のその欲望、つまり「事物と向き合う」のではなく「承認を交換する」ことのコストを劇的に下げてしまった以上、もうこの流れは止まらないと思うのだ。

ではどうすればいいのか。

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僕はもはやFacebookやTwitterは意見を表明する場所としては相応しくないと考えています。日々考えていることを、半分だけ閉じたこうした場所で発信していけたらと思っています。

宇野常寛がこっそりはじめたひとりマガジン。社会時評と文化批評、あと個人的に日々のことを綴ったエッセイを書いていきます。いま書いている本の草…

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