追憶の遠近法
旅した道の中で強く記憶に残っているところがある。そういうところでは一種、距離感が喪失している。そこが本州の北の果てであろうが、信州の山の中であろうが、妙な近しさを感じるのだ。
旅したルートの全体がそう感じられるというより、部分的に特に強くそういう感興を感じるのだ。
近しいからと言って、その道の旅情や郷愁や異邦感が薄まっているわけではない。むしろ濃いのである。そこは特別に強力な何かを感じるのだけれども、それにまた自分の何かが強く共振しているという気がする。
それは何かに似ている。自分にないもの、何か目新しいもの、ひどく魅力的なものを放ちながら、なおかつ限りない共感や共振や懐かしさを感じる対象に、似ている。
魅力的な道は、遠くて、近い。そこで旅を感じるためにはそれはある程度遠くになければならず、しかし、それを記憶に残すためには、ある種の近しさがなければならぬ。
道も、旅も、美しい矛盾に満ちている。
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