ヤギの本屋さん・テンガイ

リアル書店で10年店長をやってました。お店はなくなってしまいましたが、読みたい本を探す…

ヤギの本屋さん・テンガイ

リアル書店で10年店長をやってました。お店はなくなってしまいましたが、読みたい本を探すお手伝いがしたくてとりあえず書評というには拙い個人的感想文を書いていこうと思います。あなたの読みたい本が見つかりますようにーーー

最近の記事

読書感想『Timer 世界の秘密と光の見つけ方』白石 一文

89歳までの健康長寿を保証する世紀の発明"Timer" 現在88歳のカヤコは、目前に迫る死について疑問を持っていた。 その日が来たら私の心と身体はいったいどこへ行くのか?  知らないままにその日を迎えることに疑問を持ったカヤコは、Timerを開発し失踪したサカモト博士を探すことにする。 装着したTimerを外すことが出来れば不老不死にもなれるという噂まであり、その秘密を知りたいと願うカヤコは夫婦で情報を集め始める。 死、を89歳に設定できてしまう世界で、それを目前に迎えた夫

    • 読書感想『カフネ』阿部 暁子

      法務局に務める野宮薫子は、12歳年下の弟・春彦が急死したことで悲嘆に暮れていた。 まだ29歳という若さで亡くなった弟が遺言書を残していたことに疑問を感じながらも、彼が残した意志を叶えてあげたいと彼の恋人だった小野寺せつなと会う約束をする。 ところが待ち合わせに遅れてやってきたせつなは、春彦の遺言にある遺産の受け取りを拒否するという。 せつなのことをいけ好かない小娘だと思いながらも、何とか春彦の意思を通そうとした薫子だったがその場で倒れこんでしまい… ボロボロの傷ついた人たちが

      • 読書感想『震える天秤』染井 為人

        高齢男性ドライバーの運転する軽トラックがコンビニに突っ込み、店員が死亡する事故が起きた。 アクセルとブレーキを踏み間違えたと語る運転者には認知症の疑いがかけられた。 フリーライターの後藤律は、高齢ドライバーが運転をする実情を書くため加害者の住む村・埜ヶ谷村を訪れる。 奇妙な風習の残る閉鎖的なその村で、律は奇妙な手ごたえを感じる。 この村は、何かを隠している… 取材を進めるうちに暴かれる、事故の真相とは? 今や社会問題にもなっている高齢ドライバーによる事故を題材にしたミステリ

        • 読書感想『なんどでも生まれる』彩瀬 まる

          一羽のチャボが巻き起こす、人の出会いと再生の物語 外敵に襲われ逃げ出したところを茂に助けられたチャボの桜。 まだ幼い桜を大事に守ってくれた茂だが、茂は仕事がうまくいかず心に深い傷を負ってしまい部屋から出ることさえできなくなってしまう。 茂の力になりたい桜だが、如何せんチャボの桜は何もできず弱りはてていた。 そんな茂と桜を助けてくれたのは、金物店を営む祖父母だった。 東京下町の商店街の金物屋の二階に保護されたものの、そこで引きこもる茂。そんな茂を外へ連れ出してくれる人を探しに

        読書感想『Timer 世界の秘密と光の見つけ方』白石 一文

          読書感想『告白撃』住野 よる

          三十歳を目前に婚約した千鶴は、結婚式の前にどうしても決着をつけたいことがあった。 それは大学時代からの友人で、今もそばにいると一番安心する響貴のことだ。 千鶴にとってかけがえのない親友である響貴だが、いつのころからか響貴が自分を好きなことを感じていた。 自分は結婚してしまう、けれど響貴を傷つけたくない…出来るなら響貴には思いを引きずらずに前に進んでいってほしい―― そのために千鶴はとにもかくにも響貴に自分への想いを告白してもらわなければならない…そして彼を振らなければならない

          読書感想『告白撃』住野 よる

          読書感想『クスノキの女神』東野 圭吾

          不思議なクスノキを祀る月郷神社、そこでクスノキの番人を務める玲斗。 ある日玲斗が神社の掃除をしていると、神社に詩集を置かせて欲しいと女子高生の佑紀奈とその弟・妹が頼んできた。 月郷神社には売店がないため断ろうとした玲斗だったが、彼女たちの切実な表情に負けうけおうことに。 そんな折、叔母・千舟の付き添いで訪れた認知症カフェで玲斗は眠るとその日の記憶を失くしてしまう少年・元哉と出会う。 類まれない絵の才能を持つ元哉は、月郷神社にある詩集にインスピレーションを受け… 人の想いを伝え

          読書感想『クスノキの女神』東野 圭吾

          読書感想『そして、海の泡になる』葉真中 顕

          バブル絶頂の1990年、個人としては史上最高額・4300億円の負債を抱え自己破産した朝比奈ハル。 彼女の買う株は上がる…証券マンたちに『北浜の魔女』まで言われた稀代の投資家のハルだったが、彼女の伝説はバブルとともに崩れ去った。 挙句の果てに彼女は殺人を犯し無期懲役の実刑を受け、平成の終わる年にそのまま獄中で息を引き取ることとなる――ー 2020年、コロナ真っただ中に、ハルの人生を小説に書きたいと思った『私』は、彼女の関係者たちに話を聞きに行く。 日本全体が浮かれていた時代にな

          読書感想『そして、海の泡になる』葉真中 顕

          読書感想『万両役者の扇』蝉谷 めぐ実

          江戸森田座気鋭の役者・今村扇五郎。 彼の役者として芸を追求してやまないその姿は、彼に関わる人を魅了し狂わせていく…。 芝居のためになら犬を殺す彼の妻、犬の形のまんじゅうをリアルに作りこむ和菓子屋、自分の衣装を仕立てるために教えを乞う若手役者… 芝居のために全てを捧げる扇五郎…果たして「芸のため」ならどこまでの所業が許されるのか。 芝居という偽りの世界で現実との境目があやふやになっていく人々を描くエンタメ時代小説。 うおおー…気持ちわるぃぃぃ(褒めてる)…!!!!!!! 舞台

          読書感想『万両役者の扇』蝉谷 めぐ実

          読書感想『ロスト・ケア』葉真中 顕

          前代未聞、43人を殺した男に死刑判決が下った。 その報を知ったとき、正義を信じる検察官の大友の耳の奥では『悔い改めろ』という叫び声が響いた。 戦後犯罪史に残る殺人鬼の≪彼≫は、何故そんな犯行に及んだのか‥‥ 43人を殺すに至った男の人生は、現代の抱える闇に取り込まれたものだった―― テーマになるのは介護、である。 物語は43人を殺した男に極刑が下るところから始まるが、大半はその殺人の描写ではなくそこに至ってしまうだけの理由があるのだという絶望を知らしめてくるようなストーリー

          読書感想『ロスト・ケア』葉真中 顕

          読書感想『叡智の図書館と十の謎』多崎 礼

          どこまでも続く砂漠の果てに、古今東西の知識のすべてが収められ、至りし者は神に等しい力を手に入れる図書館があるという… 長い旅路の末、思考する石板を携えた旅人ローグはその場にたどり着いた。 ところが、図書館は鎖に封じ込められ、その扉の前には武器を携えた守人がいた。 鎖に縛められたその扉を開かんとするローグに守人が謎をかける。 鎖は十本、謎も十問。旅人は答えを間違えずに万智の殿堂へたどり着くことはできるのか? 守人の謎かけに対し、それの答えを導くための短話が語られるというちょっ

          読書感想『叡智の図書館と十の謎』多崎 礼

          読書感想『三体Ⅱ 黒暗森林』劉 慈欣

          人類に絶望した天体物理学者・葉文潔(イエ・ウェンジエ)が宇宙に向けて発信したメッセージは、三つの太陽を持つ異星文明・三体世界に届き、新たな居住地を求める三体文明は千隻を超える侵略艦隊を組織し、地球へと送り出した。 三体艦隊が太陽系に到着するのは今から400年後、人類よりはるかに進んだ文明を持つ彼らを迎え撃つため国連惑星防衛理事会(PDC)を設立し、防衛計画の柱となる宇宙軍を創設した。 しかし、人類のあらゆる活動は三体世界から送り込まれた極微スーパーコンピュータ・智子(ソフォン

          読書感想『三体Ⅱ 黒暗森林』劉 慈欣

          読書感想『バック・ステージ』芦沢 央

          新入社員の松尾は、忘れ物を取りに戻った終業後の事務所でパワハラ上司の机をあさる先輩社員・康子と遭遇する。 康子は、パワハラ上司の不正の証拠を探していた。 独特のテンポでどちらかといえば苦手な先輩である康子に巻き込まれ、松尾は一緒に不正の証拠を手に入れるために行動することになるが… 証拠を手に入れるために奮闘する二人、彼らとは関係のないところでも物語は進む長編でもあり短編でもある痛快エンタメ。 軸になるのは社長のお気に入りで営業成績はいいパワハラ上司を追い詰める証拠集めをする

          読書感想『バック・ステージ』芦沢 央

          読書感想『瞳の犬』新堂 冬樹

          介助犬訓練士の三崎達郎は、夏の公園で虐待されて傷だらけのラブラドールレトリバーと出会う。 人間を怖がり威嚇しながらもその瞳に深い自愛を感じた達郎は、その犬をテレサと名付け介助犬の訓練をすることにした。 自身も虐待された過去を持つ達郎は、テレサの瞳の持つ癒しの力を感じ取っていた。 テレサは介助犬になるべくして生まれてきた犬だ…そう確信する達郎のもとに、テレサの飼い主を名乗る男が現れて… 初読みの作家さんなのですが、犬大好きなので表紙と介助犬というのに惹かれて読んでみたり…。

          読書感想『瞳の犬』新堂 冬樹

          読書感想『ひとつの祖国』貫井 徳郎

          第二次世界大戦で西はアメリカに、東はソ連に占領され日本は西と東に分断された。 資本主義で成功を収めた西日本に対し、共産主義で貧困を抱えた東日本…やがて日本は再び統一を果たすが、両者の格差は埋まらなかった…。 やがて東日本では、再び西日本とは分かれて独立をしたいと願うものたちがテロ組織を結成する。 父親の仕事の都合で幼馴染として友情をはぐくんできた西日本出身の辺見と、東日本出身の一条…出身地は違えど一緒に育った二人には家族のような絆があった。 ところが一条が意図せずテロ組織に関

          読書感想『ひとつの祖国』貫井 徳郎

          読書感想『〈本の姫〉は謳う④』多崎礼

          https://amzn.to/4b6RwQ3 〈本の姫〉とめぐる文字回収の旅、ここに閉幕。 世界に災厄をもたらす〈文字〉回収の旅も終盤に差し掛かかるなか、世界の滅亡を目論むレッドの策略でアンガスは絶望に叩き落される。 今まで憎しみを広げないように努力してきたアンガスだったが、そんな信念も絶望に飲まれてしまう。 同時に語られてきた〈俺〉の物語も、いよいよ天使たちとの決戦の時を迎えていた… 交互に語られてきた二つの世界がついにつながる――― 長い物語もついに最終章となり、

          読書感想『〈本の姫〉は謳う④』多崎礼

          読書感想文『それは令和のことでした、』歌野 晶午

          今の時代を随所に反映した短編集。 ジェンダー意識の強すぎる母親によってつけられた名前が原因でいじめられる少年、親切心で泥だらけの子供をお風呂に入れたら性犯罪者にされてしまった男など、現代らしい窮屈さや生きづらさがふんだんに盛り込まれている。 それぞれの話が最後で微妙に様子を変え、なんともいえない後味の悪さが残るものからほっこりするものまでと、バラエティに富んでいて読みやすい。 最後に全体をひっくり返すのが得意な作者らしさが良く出ていて、なかなか読みごたえもありました。 …ネ

          読書感想文『それは令和のことでした、』歌野 晶午