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思春期の欲望と友情が交差した初恋物語『Summer of 85』。フランソワ・オゾン監督、仏メディアインタビュー

初恋は“愛と幻滅”の発見でもある…

本日公開の『Summer of 85』は、『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』『8人の女たち』、『スイミング・プール』など、多彩な作品を生み出してきたフランソワ・オゾン監督の最新作である。愛と死をテーマにしたほろ苦い物語で、エイダン・チェンバースの1982年の小説「Dance on My Grave(おれの墓で踊れ/徳間書店)」をベースにした成長物語だ。

© 2020-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-France 2 CINÉMA–PLAYTIME PRODUCTION-SCOPE PICTURES

舞台をイギリス・サウスエンド=オン=シーから1985年のフランスのノルマンディ地方・エル・トレポートに移し、死に取り憑かれたティーンのダヴィド(バンジャマン・ヴォワザン)とアレックス(フェリックス・ルフェーブル)の運命的な初恋を描く。『スイミング・プール』などに見る古典的なオゾンの官能的な芸術性とサスペンス性、80年代のアメリカのティーン映画のような親しみやすさが絶妙な、ロマンチックな物語に仕上がっている。

エイズパニックにヨーロッパが陥る寸前の時代背景、フランスの階級社会やダヴィドのユダヤ人としての伝統といった背景のディテール描写が繊細ななかで、恋愛や死の不条理と不確かな未来への苦悩、そしてコミカルな要素がうまく絡みあい、美しいトーンを醸し出していると思う。

主演の俳優たちはそれぞれに個性的で美しく、アレックス演じるフェリックス・ルフェーブルはリバー・フェニックスを彷彿とさせる。

ぜひ皆さんに観てほしい1本なのだが、私のレビューよりもオゾン監督の言葉を知ったほうがためになりそうなので、フランスのウェブマガジン「ouest france」がオゾン監督にインタビューした記事を訳してみた。

https://www.ouest-france.fr/culture/francois-ozon-revient-pour-l-ete-85-6906054

■もともとは『Summer of 84』だった!?

―セーヌ=マリタイムのエル・トレポートとウーで撮影したそうですが、その理由は?

この映画の原作となったエイダン・チェンバースの英語の本は、イングランド東部のサウスエンド=オン=シーが舞台です。ノルマンディーは、私が求めていた場所でしたね。小さな海辺の町や、労働者階級のリゾート地で、レンガ造りの家が建ち並び、まるで1980年代のようなストリートが遺っています。とても魅力的な場所で、天気がくるくると変わるときがありますが、とても美しい光が射すんです。

―この映画は、もともと『Summer 84』だったとか?

この映画は、本の内容と私自身の10代の思い出をミックスしたものです。私は1984の夏が好きでした。でも、エネルギーとメランコリーに満ちたザ・キュアーの「In Between Days」という曲を使いたくてロバート・スミスにお願いしたら、その曲が1985年にリリースされたものだから、と断られたんですよ。そこで、映画のタイトルを変えてもいいからと返事をすると、彼は「イエス!」と了承してくれたんです。

© 2020-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-France 2 CINÉMA–PLAYTIME PRODUCTION-SCOPE PICTURES

■これは恋愛、それとも友情?

―この映画は、愛の誕生の物語と捉えてもよいでしょうか?

16歳のティーンエイジャーの初めての体験。それは愛という感情の発見ですが、同時に、幻滅の発見でもあります。ティーンは、愛する相手を理想化する年齢ですよね。私たちの誰もが、お姫様やチャーミングな王子様のイメージを抱いて育ってきました。アレックスは、理想の友人を見つけましたが、想像以上に複雑な状況になってしまいました。誰もが経験したことのある、思春期の欲望の交差の物語です。


―同性愛はこの物語ではあまり重要ではありませんね。

それはテーマではないですね。あの時代は、同性愛は暗黙の了解的な部分があっても、決して「表面化」されることはありませんでした。家族のなかでは、「知りたくない」「話したくない」というのが主流でした。今の若い人たちは、感じたことをずっと正直に表現しています。これは、純粋で普遍的なラブストーリーなのです。

―映画のように、幻想とリアリティの間で私達は葛藤します。

物語を語るのはアレックスですが、彼は自分があの夏を生きたことを言葉では表現することができず、物語を書いています。しかし、実は書いた瞬間から、物事が変化していく。エイダン・チェンバースがとても美しいことを言っています。「すべての記憶は発明である」と。記憶にあるラブストーリーは、自分の歴史を少しずつ作り変えていくんです。

―この映画には様々な要素が盛り込まれていますが、オゾン監督には気まぐれな面がありますか?

この映画は、私が10代の頃に考えていたことを作ったものです。ティーンエイジャーの頃は、ジャンルを混ぜるのが好きですよね。茶番から悲劇まで、笑いから涙まで、様々なことができるんです。




■劇場公開が大変だった実際の性的虐待事件を描いた『グレース・オブ・ゴッド』

―神父による児童への性的虐待を描いた前作『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』とは、まったく別世界の作品ですね。

『グレース・オブ・ゴッド』の撮影はとてもうまくいたんですが、公開は大変でした。裁判所からの圧力がかかり、上映を禁止しようとしたんです。最終的には93万人の観客を動員して成功を収め、物事が動き出しました。教会も注目してくれて、多くのカトリック教徒がこの映画を見に行き、司祭を養成する学校ではこの映画を上映しています。とはいえ、その後、私はもっとシンプルで太陽のような映画を作りたくなったんです。


―どうしてジャンルの異なる映画を作るですか?

私は、映画の多様性が好きです。同時に、『Summer of 85』では、私がすでに扱ったことのあるテーマを見つけることができました。『フランツ』や『まぼろし』のような死との関係、『危険なプロット』のような教師との関係、『サマードレス』のような女装……。きっと、昔読んだこのエイダンの小説が、私の他の作品にも影響しているんでしょうね。

■あの名作シーンへのオマージュが!

―監督は17歳の頃、この小説で初めての長編映画を作ろうと思っていたとか。

はい、でも35年待ってよかったですよ。今と同じ距離感でこの映画を作ることはできなかったでしょう。17歳のときに作っていたら、映画はきっと、もっと優しいものになっていたでしょうね。この映画では私のなかのティーンエイジャーを殺してしまったみたい。

―監督は「映画は作らなければいけないときに、作る」とよくおっしゃっています。

特に、自分のキャリアプランを立てているわけではないのですが、映画は自分に課せられた仕事のようなもので、あるとき、ストーリーを伝えたくなる。無理して作ろうとはしませんね。

© 2020-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-France 2 CINÉMA–PLAYTIME PRODUCTION-SCOPE PICTURES

―ダヴィドがアレックスの耳にウォークマンをつけるるシーンは、『ラ・ブーム』へのオマージュですか?

もちろん、そうです。私は12歳のときに『ラ・ブーム』を見たのですが、その後、パーティーでこのカルト的なシーンを再現していました。


―監督の撮影回数は多いですか?

年に1本のペースで撮影しています。私は映画を作るのが大好きで、特に撮影と編集が好きかな。しかし、プロモーションはあまり好きではありません。


―2020年のコロナ禍でこの映画の劇場公開は、やはり特別なものなのでしょうか?(フランスでは2020年カンヌ映画祭の時期に公開)

映画館が再開されたことはとても嬉しいです。ロックダウンの間、配信プラットフォームからの問い合わせもありましたが、私はどうしてもこの映画を大きなスクリーンで見てもらいたかった。夏の映画ですしね。「カンヌ・レーベル」については、映画祭がない分、本当にインパクトがありましたね。そのおかげで、世界中で販売することができました。

https://summer85.jp/


■オゾン監督へのインタビュー・コラム記事by此花わか

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/74116

https://fashionpost.jp/portraits/140366

https://joshi-spa.jp/867596

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