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死んでいない者/滝口悠生★★★

 葬式に集まる親族たち各々の人生の、切り取られたエピソードが淡々と並べられていく一種の群像劇である。人物が錯綜しているため、2回読み返した。
 一貫したストーリーや劇的な展開がある訳でもない。
 でも面白かったし、なんとも言えない余韻が残った。
 感心したのは、語り手の視点の設定だ。特定の登場人物の視点になったり、いわゆる神の視点で誰かにフォーカスしたり、曖昧に中空に浮かんで、そこから見下ろしているような、よくわからない誰かの視点になったり。  
 もちろん、この視点の自由自在な転換は、作者が意図的にやっていることなのだろう。
 平凡な日常を淡々と送る人、外国から日本に来て結婚して親族になった人、確たる理由もなく社会からドロップアウトする人、親から捨てられた子など、登場人物もさまざま。   
 人々は語り、想いにふけり、地上を離れて舞い上がり、上空から街を俯瞰し、いつのまにか故人までが普通に会話している。読み進めるうちに、読んでいる自分もいつしかその葬儀会場の片隅で酒を飲んでいる気分になる。そして、酩酊しながら、人生を肯定する気分がぼんやりと、体に染み込んでくる。これはまさしくマジックリアリズムだ。
 なかなかいい作品だった。いや、凄く良かった。

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