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(2列目ロングレポ大阪)Fujii Kaze "Love all arena Tour "2023.02.08.at 大阪城ホール~thank you so much Osaka lover~


 当初計画にはなかったというこのアリーナツアーは、より藤井風の魅力を伝えるためにと開催された。セカンドアルバム"LOVE ALL SERVE ALL"のレコ発ライブの意味があったPanasonic stadium live(パナスタ) からわずか2か月後にスタートした今回のツアー。同じ編成でどれだけ違ったものにできるか、チーム風の腕の見せどころだなぁ、などとちょっと偉そうなことを思っていたが、予想の何倍も素晴らしく、パナスタとは全く違った魅力を私達に見せてくれ、音楽だけでなく愛を受け取ったような気持ちになるライブだった。

Introduction


えっアリーナ7列目!
 スマチケをダウンロードした時、W7列と書いてあって驚いた。前回のパナスタの時は、アリーナ11列目と喜んだものの、私たちのブロックは真ん中あたりのブロックだったので、体感的には、学校の体育館の端の方から観たくらいの感じだった。それでももちろんありがたかったのだが。Wはアルファベットの後ろの方なので、後ろではないかと思っていたが、だんだん情報を仕入れるにつれてWとはWestのことではないかと分かってきた。

 大阪城ホールに到着してアリーナに入ると、会場にはすでにスモークがたかれ、まるで霧がたちこめているようだ。Julie Londonが歌う"Misty"が流れている。こういう場面に合わせて選曲するセンスが、お洒落で風さんらしい。彼のライブは、開演前に会場に流れている曲(SE)も楽しみの一つだ。きっとツアーのイメージや来場するお客さんの事など色々考えながら自ら選曲しているのだろう。Julieはalone at home TourでもSEに使われていて、大好きなジャズシンガーだったので風さんも好きなのかと思うと嬉しくなった。この日は終演後にも、もう1曲Julieの曲が流れた。


 他にもマイケルジャクソンの"Child hood"や、松任谷由実の"さみしさのゆくえ"、Haruka Nakamuraの"arne"などが流れていた。どれも朝もやの中のような、foggyな曲ばかり。ユーミンのこの曲はどうして選んだのだろう「さいはての国でくらす」人に今からなるから?
 Haruka Nakamuraさんはあまり知らなかったが、Nujabesぽいなと思ったら、Nujabesさんと一緒に音を作っておられた方らしい。小さいころからピアノをされていて、田舎のご出身(ご本人のインタビュー記事より)で、祈りを大切にされていて…あれどこかで聞いたことのある人物像。


 SEの話はこの辺りにして、座席を探すと、なんと7列目とはいうものの、前の5列がつぶされていて実質2列目だった!ライブ中にメモをしようにも風先生から「ちょっとそこ何書いてるの?」と言われそうでビクビクするという贅沢な悩みを持つことになってしまった。
 風さんのライブは登場の仕方に、いつも趣向が凝らされている。次のツアーはどんな登場の仕方をして、お客さんを楽しませようかと演者側も楽しみながら考えているのが伝わってくる。もやがかかった中から、赤いライトが光り、ツアータイトルのロゴが大きなLEDスクリーンに浮かび上がる、もうこの時点でうわぁーと控えめにだが歓声が上がった。つい10日ほど前の1月27日に観客の声援が緩和されたばかり。次に後方出入口にスポットが当たって、渋い色合いのチェックのガウンを着た風さんが、レトロな自転車に乗って入場。そして舞台の周りを一周回って舞台に上がった。自転車が近くを通った人は大興奮。
 そして、スクリーンには夕陽をバックに去っていく風さんの映像。"それでは、"の曲と、この映像は冒頭から別れをイメージさせた。

曇り空の下の大阪城ホール

Piano style

 舞台の上にはさらに円形の舞台があって、そこにいつも使用するハイブリッドピアノと風さんが登場した。もうさっきとは衣装が違っていて、黒いローブコートの下に襟のある白いシャツと赤系の染め物のような服を重ね、黒いコートの裾部分はぼかし染めで朱色になっている。この差し色がなければ、ちょっと書生のようにも見えるコーディネート。漆黒のピアノに黒い衣装は、音楽に向かう真摯な姿を表現しているのか。
 ピアノの前に座り、空気が静まるのをしばらく待つ。それから歌い出すと同時にピアノを弾き始めた。"The sun and the moon"だ。映画「東京2020オリンピックSIDE:A」のラストに流れた曲。風さんの作品の中でもかなり上位にランクインするのではないかと思う名曲で人気も高い。そして、発表された楽曲の中で唯一の英語の歌詞。未だ音源にはなっていないことが、よりその曲への渇望をもたらす。一度でいいから生で聴いてみたかった。
 全てを俯瞰するような歌声とそれに寄り添うピアノ。穏やかに曲が進んでいく。しかし、最後のサビで声のボリュームが最大となった時、思わず涙が溢れた。このホールを聖堂のように見立てて、そこに最も響くように発せられた声が、圧倒的なパワーを持って上から降り注いで来るように感じた。

「Welcome to my garden.
 Welcome to my live.
 Thank you for your patience.
 Thank you for your time.」

 最初のMCの後、ハミングを始める。"ガーデン"だ。音源のハミングとは違っていて、パナスタのバージョンと同じように思う。
 癒し系のメロディから「季節に身を置いて流れに身を任せて」のところでグッとささやくように寄り添い、そのあとの「空の果て~」からめいっぱいの盛り上がりで多幸感に包まれる。最初の2曲でもう今回のライブフィーの元が取れているくらいだ。

「お疲れ様です。大丈夫そうですか?トイレも我慢せんとってください。頼みます。座っても立ってもええです。今夜は自由に楽しんでください。Be free」
というようなことをちょっと高い舞台の上でピアノの周りを歩きながら話している。途中の段差でつまずいたので
「ええっ?」
と観客がびっくり。
「すんません気を付けます。皆さんも気を付けてください」
と何事もなかったかのように歩きながら言うところが、またおかしくて笑いを取る。

「次の曲は一緒に息をしようと思います。きれいなもんだけ吸ってネガティブなもん吐き出して、breathe in positivity, breathe out negativity」
と言って"ロンリーラプソディ"の曲が始まった。これは、alone at home Tourでも、Panasonic stadium liveでもやっていた。「みんな同じ呼吸ー」で、すーはーと息をする。
 普段、呼吸は無意識にしているので、意識しないと、浅い呼吸になっているが、ゆったり呼吸をするだけですごくリラックスできる。曲の終わりは、最後の一音まで、とてもゆっくり丁寧に歌っている。
 弾き語りの間は、1曲ごとにピアノが乗っている舞台が回転してどの座席からも正面を見たり、背中を見たり、横から見たりするようになっていた。

「ここまではLove all serve allの曲を聴いてもらいましたが、次はHelp ever hurt neverゆうて最初に出したアルバムの中から聴いてもらいます。」
「次はみんなで歌いたい曲があるんです。"もうええわ"ゆう歌ですけど」と、これは始めての試み。声出しOKになったらやろうと考えていたのかな。
「もうええわ~、もうええわー、もうええわーと三回あるんです。さ、練習しましょ。」
と一緒に練習してくれる。
「だるそうに、死にそうに歌って下さいね」
 観客が歌うところは、普通だったらマイクを客席に向けるが、ピアノを弾いているのでどうするのかなと思っていたら、顔を客席に向けて「歌ってますか~?」的な顔をする。音楽の先生みたいだ。また「だるそうに~」と言ってくる。これはこれでなんか嬉しい。
 2コーラス目のAメロはフリーライブの時にしていたようなラップになっていた。歌詞をそのままラップにしているのだが、ピアノの弾き語りにラップが入るというのは、なんともクールでかっこいい。今更ながら、ピアノの弾き語りのイメージをガラガラと音を立てて更新させているんじゃないかと思う。
 歌い終わると顔の下で両手をVの字にしてポーズ。そして「beautiful!」と観客の歌声を褒めてくれる。

「なんか問題が起こるときもありますけど(ちょっと含みのある感じで)人生いろいろありますけど、そんなときは学びのチャンスや思うて、最後には必ず全て上手くいきますから、信じて。これも旅路の途中ですから」
 話しながらピアノをポロポロ弾いていたのがそのまま"旅路"の曲に繋がっていく、アレンジは少し違っていた。ノリノリだったのか途中2回ほど歌が巻き舌になった。ラストの「全てを」のところで、両手を空中に広げてブレイクし、「愛すだろう~」でエンディングへ。そうか、この言葉こそツアータイトルにある「Love all」なのだ。アルバム「Love all serve all」の中の、ラストの曲の一番最後に入れた歌詞だ。
 風さん自ら訳しているという英訳詞を見ると最後は「love them all」となっていた。アレンジャーのYaffleさんは、当初、曲調から"それでは、"がアルバムのラストの曲だと思ったとどこかで語っていた。風さんが"旅路"をアルバムのラストに持ってきたかったのは、この歌詞のせいに違いない。

帰り道でこの写真を撮っていると、「ありがとう」という言葉と投げキッス→変顔投稿が。
ともかくマメな方。

Band style


 ステージは暗くなり、舞台だった部分が青と緑にキラキラ光りながらUFOを思わせる姿で上昇し、バンドが演奏しながら登場した。暗めの照明のまま、LEDスクリーンにそれぞれのミュージシャンの手元だけが順番に映し出される。ドラムを叩く手元、ウッドベースやギター、キーボードを弾く手元。ミュージシャンへのリスペクトを感じるかっこいい演出だと思った。ここで風さんの衣装替え、おそらくトップスはガウンコートを脱いでそのまま、白いシャツの上に赤い袈裟のようなものを掛けている、ボトムは白いサリエルパンツのようなパンツ。

 "damn"のイントロが始まると、大きくうねった音の大洪水が1万6千人を一気に飲み込み、周りは総立ちに!特に、ベースとドラムの重低音が地響きのように響いてくる。これまでレコーディングには参加していたが、ツアーには初めて参加するベースの小林さんとドラムの上原さん、この二人が入ることで、新しいサウンドになる気はしていた。サウンドというかビートだ!
 途中から多国籍なダンサーズも出てきて、センターステージから客席を見て踊ってくれる。風さんはこの曲から、一曲の中でもステージ上を歩いて全周囲の客席に向かって歌うようになった、風さんがこちらにいない間もダンサーやギターのTAIKINGさん達が客席にアピールしてくれる。レーザービームや照明もきれいで、最後は、お約束の変顔。MVと同じ顔でみんな大ウケだった。

 ギュイーンと印象的なギターで始まった"へでもねーよ"。もうどんどん上げて行くぞというように、「ただいま、おおさかー!」と風さんが叫ぶ「うぉー、ホームと思ってくれてるんや!」と思って客席のテンションは爆上がり!スタジアムライブをやったパナスタも近いし、出身地の岡山も近いしね。
 この曲は手をⅤの形にして、マイクを握らずに下から支える持ち方で歌う。なんでこんな持ち方すんの?なんの意味?この方のやることは、意味があるのかないのか、ずいぶん経ってから意味が分かったりする。これに気づき始めた人はもう沼にはまっているのかも。怒りをテーマにしたこの爆音ぎみな曲に、絶妙なタイミングで何度も炎が上がり赤いレーザー光線が飛び交う。「かと思いきや正反対、とても平穏な新世界」で急に天から召されるような光と風さんのシルキーボイス。もうグイグイ締め付けた後で、ふわーーって放たれるの気持ちよすぎやろ!

 この流れでの"やば。"。もうただでさえやばい"やば。"は、ライトも紫に変わってさっきよりも大人の雰囲気。この曲の音源には、今回のツアーメンバーであるベースの小林さんとドラムの上原さんが、入っていてとてもかっこよかったので、二人の入った"やば。"が聴けるのを楽しみにしていた。この曲の心地よさをどう表現したら良いだろう。完全にセーフティな荒れ狂う海で、もみくちゃにされながらも身を委ねたら、めちゃくちゃ気持ちよくて、ウォッシュアウトされるような感じか。
 バンドになってからはかなり爆音なのだが、攻撃的な部分が全くなく、沢山の音やリズムが重なり合い、そこにダンサーの動きや、ライトやレーザーの光が、重なり合っていく。

 ここでMCが入る。
「こども~ こどもはおるか~?かわいいなああんた、よいこになれよ。」
「年寄り~ よくきてくれました。階段で転ばんとってくださいよ。」
「わかもの~」 ギャルピースをしながら「最強~!」
「はい最後、ちゅうねーん(中年)!」大勢の人がはーいとかノリノリで返事をすると
「わかりました、わかりました。さようでございますか!」
というやり取りで客席を和ませてくれた。

 ギターのカッティングとスキャットから始まったのは"優しさ"だ。この曲は彼の歌声を十二分に堪能させてくれる。音源とはアレンジをガラリと変えてきて、この曲調は何というのだろう、パナスタの時は、"帰ろう"がレゲエ調になっていて驚いたが、これは何調と表現したら良いのか。
 この曲の一番の見せ場は、何といってもロングトーンのところ、「ahーーー」の後に、どの音が入ってくるのか息をのんで見守った。上原さんのズシンとくるドラムだった!あの、みんなが聴き惚れているところに被せていくってどんな気分だろう。爽快なのか緊張なのか、いつか聞いてみたい。

撮った動画をスクショ。二人の掛け合い最高!


 次の曲に移るときにメンバー紹介があった、一通りメンバー紹介が終わると"さよならべいべ"だったが、これも全く違うアレンジ。青春文化祭ソングのようなこの曲が、大人の"さよならべいべ"になっていた。それは故郷を離れた日から、4年の月日が経過したということを感じさせ、「新しい扉を叩き割った」のところもひときわ力が入っているように感じた。途中ベースの小林さんやギターのTAIKINGさんが煽るように客席に向かってパフォーマンスしてくる。

 風さんがピアノの方へ行ったかと思うと、何かを弾きだした。
「わわ、この曲は!」
 大阪公演初日だった前夜、風さんが投稿したInstagramのストーリーに投げキッス動画と共に小さく「大阪lover」と書いてあった。そういえばそんなタイトルのDreams come trueの曲があったなあと思い出して、youtubeで聴いていたので、予習は完璧だった。まさにまさにその曲をピアノで弾きだしたのだ。
「わぁーご当地リスペクトだ」
と聴いていると低音がガンガン鳴り始め、紅白や武道館の時と同じ、"死ぬのがいいわ"のイントロに変わっていった。こういう別の曲をさらっといれたりする手法は、やはりルーツがジャズの人なのだと思わせる。例えば、ジャズミュージシャンは12月に演奏する時、全然違う曲の途中でワンフレーズだけ"Jingle bells"を弾いたりする。それに、気づいた観客はイェーと言ったり、拍手をしたり、ミュージシャン同士顔を見合わせたりと、そういうやり取りが楽しい。そしてこのライブから6日後のバレンタインデーには、同じ曲のイントロで、"my fanny valentine" を弾いたらしい。
 狂気を感じるまでの激しいピアノの後、赤いレーザー光線と赤いライトが照らす中、少しずつ客席に近づきパフォーマンスする、2022年のNHK紅白歌合戦の再現だ。SexyなダンスはよりSexyに、ギターを弾くTAIKINGさんの前で跪き、視線が絡み合うシーンは、より濃厚である。
 最後の倒れるシーンでは、マイクをゴツンと音をさせて倒れるのもお約束のよう。芸の細かさに感心してしまう。

 倒れたまま、起き上がらない。しばらくすると突っ伏したまま、ヨボヨボ声で「青春のやまいにおかーされー」と歌い出す。「はかないものばかりもとーめてー…」まだ顔は見えない。最後「青春はどどめ色」から、まさかのうつ伏せフルボイス!ちょっと待ったってーーー!!これ絶対、音源で出してるよね?違うとしたら違うとしたら違うとしたら…ほんまに神です!
 さっきまでの妖艶な雰囲気はどこへやら、水色系のライトと目つぶしライトを使ってさわやかーに盛り上げてくる"青春病"。どこのエリアも正面になるように舞台上を周っている風さんが、野ざらしダンスの前に私たちのWサイドに来て、一瞬「さあ今からやるよー、みんなやってくれるかな?」と心で言っているような楽しそうな表情をしたのを私は見逃さなかった。その後、風さんと踊った野ざらし体験は、最高の野ざらし体験だった。

「ひゃーー」
 悲鳴とも歓声ともつかない声が客席から聞こえたのが、その後の映像。ブルーノ・マーズみたいな薄茶の大きめサングラスをかけた風さんの魅惑の微笑み。これはどういう風に鑑賞すべきか、見とれるべきか、ウケるべきか。またギリギリの線キターー。みんなが困惑しているうちに風さんの衣装替えが終了。袈裟がなくなり、上下ホワイトになっていた。前が短く後ろは長いデザインのシャツ、Yoji Yamamoto風?サリエルパンツはインドっぽくて、ゆったり涼しげな生地とデザイン。

 次は、藤井風最大のヒット曲"きらり"。HONDAのCMに使われた曲だ。最初は、舞台の段差に座って歌い出した。MVは階段に寝転ぶシーンから始まったよね。立ち上がる直前「きらりー」の場所だったと思うけれど、手をCの形にしていた。これはハートの半分のハンドサインだろう。1コーラス目のサビもMVと同じダンスを一人で、2コーラス目からはダンサー達が出てきて一緒に踊っていた。

 それから"燃えよ"だ。こちらは"へでもねーよ"と同じく炎の演出あり。音源と違うのは、ギターの存在感がすごいこと。ギターのTAIKINGさんは、華がありながら上手く主役を引き立て、もう風さんのライブにはなくてはならない存在となっている。途中、風さんにローディー大地さんがキーター(ショルダーキーボード)を掛けに来て、それからソロを弾きまくる。80年代ぽいショルダーキーボードは、「中年」には懐かしく「若者」にはアリなのかも。

 "まつり"では舞台上の円形の部分が少し上に上がり、パナスタのライブを想起させる。よく見るとこの円盤状のステージ部分がストライプに光っている、それも黄色と黒のストライプ…おお、虎柄だ!(阪神)タイガース・カラーだ!この曲だったと思うが、天井の辺りにUFOみたいな形の光や、星座のような光が浮かんでは消えた。和風で誰もが覚えやすいメロディとダンス、根底に流れるR&Bのノリ、メッセージ性のある歌詞。子どもや若者からお年寄りまで、洋の東西を問わず、地域の夏祭りでも、クラブでも違和感なく流れそうな曲。これから、もっともっと海外にも広がっていきそう。

 ここで英語MCが入る。
 「I am you, you are me. I am so cute, so you are cute. (ここで一同ウケる)Everything are grace.」
 次は、最新曲、昨年10月にリリースされた"grace"だ。「私はあなた、あなたは私、みんな同じ」という歌詞も入っている。もうこの曲は浄化の極み。ここでは超低音ボイスは封印し、癒しのミストとなって私達の心の奥深くまで浸透してくる。手からも何かパワーを出しているのではないかと思ってしまうくらい、こちらに掌を向けてダンスをしたり、手を振りながら笑顔を向けてくれる。「一人一人の心に向けてパフォーマンスしようと思う」とNHKの取材で、パナスタの直前に言っていた言葉を思い出す。「会いに行くよ、一つになろう」と言う歌詞のあと、数拍のブレイクが入る。ホールにいる数万人が静寂のもとに一つになった瞬間だった。


ヘドバンしながらのソロ。

 この後、ダンサー退場の前にダンサーを一人ずつ紹介。ダンサーさん達はそれぞれ、キメのダンスをしたり、手で作ったエネルギーボールを客席に投げるような仕草をする人もいた。Wブロックの方に投げてくれたので、客席から歓声が上がった。これには風さんも「ほぉー」っとびっくりしているように見えた。
「これで終わりかと思うたけれど、あと一曲あるんです。最後の曲です。」
「ええーーー!」
さすがに関西人含有率高いと思われるオーディエンス、反応がいい。風さん
「あらあらあら♡」
というやり取りのあと。
「これは携帯出して撮ってくれていいです。その代わり、これ一曲だけなんでこれが終わったら携帯しもうてくださいね。」 
 パナスタから、一曲だけだが撮影OKとなった風さんライブ、そのために携帯の充電も満タンだ。最後の曲は、デビュー曲の"何なんw"。風さんのスキャットとTAIKINGさんのギターの掛け合いから始まる。ここはいわゆるエックスタイムという、サイズ(小節数)が決まっていなくて演奏のキリのいいところでイントロに入って行くというやり方だ。またこれもジャズによくあるパターンで、その日その時のライブ感を大切にしたいという意向が伝わってくる。またそれを録画できるのだから、素晴らしい。
 終盤は、風さんがパンツを手でつまんで(女性がスカートをつまんで上げるような仕草)全速力で舞台を走り回り、アウトロのピアノソロにギリギリ間に合い弾き始める。TAIKINGさんも小林さんも走る!ギターやベースを持って踊る人は見たことがあったが、走る人は初めてで、とても新鮮な気分になる。三人が舞台上を丸く走る様子は、虎と追いかけっこして、グルグル回りすぎてバターになっちゃったという昔の絵本を思い出した。
 はじけすぎて音程を外しちゃったり、ソロのところもYaffleさんとTAIKINGさんと風さん3人が全身でヘッドバッキングしながら弾いたり、本当に楽しそう。躍動感ある振り切れた感じが、観ている側をも爽快な気分にさせる。
 昨年秋から、alone at home Tour2022、Panasonic stadium liveと見てきたが、今回のライブが一番風さんの笑顔も沢山見られ、観客との心の距離も近く感じた。プロフェッショナルでありながら、知り合いのライブのような楽しさがあった。

 演奏が終わると「I love you~」と言って全方位に何度もエアハグ、「携帯しまってください」と言うと、"grace"の音源が流れてきた。
「じゃあ約束してください。毎日幸せでいてください、マジで。また生きて楽しい事いっぱいしましょう。I love you. I love you so much.」
 この「生きて楽しい事いっぱいしましょう」は、きっと「幸せでいてください」だけだと、お別れみたいなので、生きていたらきっとまた会えるよ、ということを言いたかったのではないだろうか。海外での活動開始もささやかれる中、寂しい気分になっているファンもいることだろう。この「また生きて楽しい事いっぱいしましょう」の言葉に元気をもらえた人がたくさんいたに違いない。
 両手でハートマークを作りながら、客席の通路を歩いて、退場していった。いつも通りアンコールはなし。
「本日の公演は全て終了しました」
とアナウンスが入る。
 この時、Julie Londonの"girl talk"という曲がかかった。
 アーティストが自分の名前で検索すると、SNSで話しているファンのお喋りまでもが読めてしまう時代。心乱れることもあるかもしれないが、大半は嬉しく思っているのかも。この選曲からはそう読み取れた。
 最後にJulieはこう歌っている
「the sweetest girl talk talks of you」
 そして確実に言えることは、このガールトークは、もう世界に広がって行っている。ガールだけでなく、全ての人に。


Vocal       藤井風
Guitar      TAIKING( Suchmos)
Bass        小林修己
Drum      上原俊亮
Keyboard   Yaffle

LAAT at Osaka set list



藤井風 パナスタレポート↓

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