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日記2018/10/01〜10/07

2018-10-01 知の巨人
とある文学賞受賞パーティー会場の片隅で、静かに盃を傾けながら文学談義に花を咲かせる埴谷雄高と筒井康隆。その姿に嫉妬して、テーブルをバンと叩いて乱入する渡辺電機(株)さん。オレにゃあむつかしいこた分かんねえけどよ、世の中曲がったことだけはしちゃなんねェんだ!そうだろ?苦笑して散って行く知識人たちの背中に、はい論破ぁーー!と罵声を浴びせ、テーブルによじのぼって陰茎を振り回す彼を諌める者は、もういなかった。文壇には彼の居場所など、とうの昔に無くなっていたのである。散会後、三々五々散っていく参加者たちの間を駆け回り「このあとソープ行くひとー!」と絶叫して人差し指を振り回す渡辺電機(株)さんの動きは次第に速くなり、ハチのようにブンブンと高速で飛び回って宙に舞い、学士会館のエントランス上空でポンと弾けて、ひとすじの陰茎色の煙を残して消えてしまったが、誰も気に留める者は無かったという。

2018-10-02 ミナミの帝王
なにわのEXILEを自称し、夜の宗右衛門町を肩で風を切っていた渡辺電機(株)さんが、いつものように両脇にフィリピン女を抱えて深夜の戎橋に差し掛かるると、いつもなら最敬礼で挨拶してくるたこ焼き屋やボッタクリバーの客引きが、軽蔑をあらわに、睨みつけてくる。はっはーん、バレたな…。背伸びとハッタリで世渡りして50年、渡辺電機(株)さんもバカではない。フィリピン女たちから手を離して後ずさり「バイバイッ」と小声で笑いかけると、急に真後ろに向きを変え、全力疾走した。同時に、背後から「待てやこのや朗!」殺意をはらんだ罵声と、いくつもの靴音、そして銃声。飛び交う銃弾を嘲笑うかのように、渡辺電機(株)さんは前傾姿勢からふわりと空中に浮かび上がると、けははははと一声カン高くさえずり、鋭く滑空して、暴力団員風の男の耳元をかすめた。血まみれで悶絶し悲鳴をあげる男の上空を旋回すると、渡辺電機(株)さんは食いちぎった耳をくわえたまま、通天閣の向こうへ飛び去った。次の年の春。次々とヒナが孵り、ミナミの上空は渡辺電機(株)さんの大群に覆われ、街は無人の廃墟と化した。かつての盟友・安倍総理に、苦渋の決断の時がやって来た…。

2018-10-03 欣求浄土
土俵の土の中で眠っていた処を掘り起こされ、不機嫌に唸り声を上げて暴れる渡辺電機(株)さんを鍋の煮えたぎる熱湯の中に放り込むと、その体はくるくると丸く縮こまり、殻は鮮やかな赤に染まった。ザルですくい上げ、冷水に漬けながら殻をはがし、ぷりぷりの身を包丁で適当に刻み、パクチーと塩レモンをふりかけて、完成。稽古の後にこいつでやるシンハービールが、たまらんのよ…ンマい!こうして、朝稽古のあとの渡辺電機(株)さん食を欠かさなかった横綱は、周囲の心配通り、次第に心身の不調を訴え、一人で塞ぎ込むことが増えて行った。そして、年明けのある寒い朝。陰茎、不可解。そう書き遺して、日光華厳の滝に飛び込んだ横綱は、それきり浮かんで来なかった。横綱を失った部屋は、しかし何事もなかったかのように、翌朝も稽古が行われた。オラッもう一丁!若手力士に胸を貸す渡辺電機(株)さんの気合を込めた掛け声が、稽古場に響き渡る。今年もまた、初場所が始まろうとしていた。

2018-10-04 カナダからの手紙
かつて陰茎罪で巣鴨戦犯刑務所に収監された頃、獄窓でカマキリを慈しみ、その生命を通常の4倍長らえさせた経験から「人生200年」が、渡辺電機(株)さんの口癖であった。その渡辺電機(株)さんが199歳になり、200歳の誕生日まで半年を切る辺りから、その言動に異常が見られるようになって行った。ある晴れた日。一糸まとわぬ全身をキミドリ色にペイントした渡辺電機(株)さんが巨大な鎌を振り回し、カーマカマカマカメレオ〜ン♬ と歌いながら、衆院予算委員会に現れた。居並ぶ閣僚の首をすぱすぱと斬り落としながら迫る渡辺電機(株)さんに、安倍総理は少しも慌てず「現代の平均寿命は80歳代後半。4倍すると300年を超えます。渡辺電機(株)さん、まだまだこれからですよ!」と、笑いかけた。総理の百万ドルの笑顔は、氷の山をも溶かす。渡辺電機(株)さんも我に返り、己の不明を恥じ、非礼を詫びたが、複数の閣僚を斬首した罪は贖いようもなく、逮捕されたその日の午後には死刑判決を受け、絞首台の露と消えた。実際の年齢は、まだ50代だったという。

2018-10-05 相撲探偵団
「牡蠣にアタるとシャレなんないよねー」と笑いながら、桟橋に張り付いて干からびていた牡蠣をゴリゴリこそげ取って、ナマのままムシャムシャ食っていた渡辺電機(株)さんは急に動きを止め、「おげぅ」と呟いて白目を剥くと、どべべべべと大量のげろを吐き、その場に倒れて動かなくなった。一部始終を見ていた貴乃花親方は「こわいこわい」と肩をすくめ、地面に這いつくばると、渡辺電機(株)さんが吐き出した牡蠣まじりのげろを「ぢゅううう」と吸い込み、満足げに腹をさすりながら、行ってしまった。その翌日が、例の辞表会見である。騒動のキーパーソンとして協会も注視した渡辺電機(株)さんだったが、牡蠣にあたって倒れたまま、還らぬ人となった。真相も、闇に消えた。21世紀の大相撲界、最大のミステリーである。

2018-10-06 モスラ対ゴジラ
西荻窪駅南口にポルノ映画館があった頃、渡辺電機(株)さんは女のはだかを見たい一心で、経験があるとウソをつき、映写技師の職を得ようと履歴書を手に訪れたが、入り口にズラリと並んだ女人の肌脱ぎ写真を載せた立て看板に興奮、鼻血を噴いてその場に昏倒した。我に返ると、仰向けで自らの血溜まりの中に倒れている渡辺電機(株)さんを、しゃがんで覗き込む老人があった。名を、川端康成。かの文豪がなぜこのような場末のポルノ映画館にいるのか、そして渡辺電機(株)さんに何の用か。身長20cmほどの川端は、二人いた。そして声を揃え、玉子を返してください。と、透き通る高い二重の声で、言った。渡辺電機(株)さんがインファント島から持ち帰った玉子を、取り戻しに来たのである。返すもんかよバカヤ朗!せっかく手に入れたハクネタだぜ。こいつで一山当ててやるンだ!そう啖呵を切りつつ、ハッハーン、これは夢だな…と、冷静に考える自分が、いた。二人の川端康成も周囲の野次馬ものっぺらぼうの顔で、薄闇の中でゆらゆら揺れている。ああ、まだポルノ映画を観れていないのに目が覚めてしまうなあ。そう考えながら、窓の外で巨大な玉子の殻にゆっくりとヒビが入りだす音を、聞いていた。

2018-10-07 インセクトワールド
戦後最長身の幕内力士として知られる不動岩は、その体格ゆえ街を歩けばひときわ目立ち、粋がった不逞の輩に絡まれ、刃傷沙汰になることも多かったという。その不動岩の取り巻きとして行動を共にし、絞め殺されたヤカラの肉を捕食していたのが、渡辺電機(株)さんである。だが、将来の横綱大関を嘱望される人気力士が、昆虫人間を引き連れて街を練り歩くのは如何なものかと、著名な相撲評論家・彦山光三が批判の声を上げた。月刊誌「國民乃相撲」に記事が掲載された夜、彦山邸を凶暴な人喰い蜂の群れが襲った。待っていたぜ渡辺電機(株)さん!口いっぱいの蜂をバリバリと咀嚼しながら仁王立ちする彦山光三のシルエットは、明らかに第98代内閣総理大臣、安倍晋三その人だった。今日こそ決着をつけるぞ。デュワッ!!戦いの火ぶたが切られたその陰で、不動岩は大酒飲みが祟り内臓を壊して引退、30代の若さでひっそりと亡くなっていたいう。

座敷童子(牝14)子鬼(牝10)妖怪(牡5)と3人育てているので、ご支援いただけると非常に助かります。