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日記2018/10/22〜10/28

2018-10-22 子を連れて
モスクワ五輪の選手選考を兼ねた、1979年東京国際マラソン。終盤、国立競技場に入るや猛然とスパートして首位を独走する瀬古利彦に、懸命に追いすがる宗茂、宗猛の兄弟、さらに背後から泣きわめきながら青龍刀を振り回して迫る渡辺電機(株)さん。また、いじめられたのだ。あと半周に差し掛かったバックストレートで青龍刀の切っ先が届いたのか、茂、猛の順に相次いで生首が宙を舞い、首を失った身体はそのまま走り続け、カーブを曲がらず直進して客席に踊りこんで行った。あとはもう、本能の赴くまま陰茎丸出しの大暴れ。背後の騒ぎを察して、恐怖に顔を歪めて懸命に逃げる瀬古の足が、最後のストレートでにわかに鈍る。血まみれの青竜刀を構えてぐんぐん迫る渡辺電機(株)さんは、もう泣いてはいなかった。あまりの恐ろしさに泣き出した瀬古の身体はどんどん縮んでいき、ゴール前ではヨチヨチ歩きの幼児になってしまい、ゴールすることなく寝転んで、元気に泣き続けた。渡辺電機(株)さんは無言で赤子を抱き上げると青龍刀を捨て、あやしながらそのまま競技場を後にした。その子を横綱と名付け、我が子同然に慈しみ育てたという。やがて最大の敵になることは分かっていたが、そんなことはどうでも良かった。結局、翌年のモスクワ五輪に日本選手団は派遣されなかった。

2018-10-23 砂の器
カニでもどうだい電機さん、との横綱の誘いにホイホイついて行き、ご丁寧に持ち帰り用のタッパーまで用意した渡辺電機(株)さんだったが、幼稚園の砂場で真っ黒になって砂を掘り起こし、ヨツアナカシパンを探し当てて歓声をあげバリバリと噛み砕く横綱の姿に、呆然と立ちすくんだ。と、ここまで書いて、昭和の頃ならいざ知らず、今の砂場にヨツアナカシパンなんて混じってんのかね?と、モヤモヤ気になり出したらもう止まらない。万年筆を置いて、松本清張は家内を呼んだ。ヲイ、出掛けるよ。いつもならば打てば響くやうに返へつてくる妻の聲が、ない。まさか、台処に侵入したヱツチな黒人に、犯されてゐるのでは。心配でたまらなくなり、威嚇用に黒の皮ヂヤンと倫敦ブウツを装着すると、暗く長い廊下を台処へと急いだが、走つても走つても躰は前へ進まず、台処の灯りは暗闇の向かうへ遠ざかつて行つた。

2018-10-24 鋼鉄都市
「うんこ食べ放題!」の看板を前に、これは得なのか損なのか、真剣な面持ちで考え込んでいる渡辺電機(株)さんこそが、本当の馬鹿であることに疑いの余地はなかったが、そんな馬鹿でも一票の重みは平等だ。我が党に清き一票を!いやいや、ぜひ我が党に!渡辺電機(株)さんの前に土下座して投票を乞う、自民党安倍総裁と、社会党の土井たか子委員長。ん〜〜〜、どっちにしようかね…。残酷な笑みを浮かべ二人を見比べていた渡辺電機(株)さんが、やがてポンと手をたたき、提案した。うんこだ。どっちか、長いうんこをした方に投票するぜ。政策なんか知ったことか、おれにもうんこ一筋五十余年の男の意地があンだよ!思わず顔を見合わせた安倍氏と土井氏だったがやがて、ウフフ…アハハハ…、どちらともなく笑い始めた。な…なにが可笑しいンでィッ!!いきり立つ渡辺電機(株)さんに、総理は笑いながらネクタイを外し、電機さんね、私たちもう、うんこしないんですよ。そう言ってシャツの前を開けると、チタンの外骨格の表面を彩る無数のランプがチカチカまたたき、静かなモーター音を上げるのが分かった。とっくに我々機械ニンゲンの世界になってるんですよ、電機さん。さあ、我々の仲間におなりなさい。さあ。

2018-10-25 ひとりぼっちのあいつ
爆風スランプのボーカル、ライムスターの坊主、そして渡辺電機(株)さんが三人並ぶと、もう全く見分けがつかなくなってしまい、おれがあいつであいつがおれでと侃侃諤諤の激しい言葉の応酬は醜いつかみ合いに発展し、三人がもつれ合って階段を転げ落ちた拍子に人格が入れ替わり、ライムスターの人は急に軽快に投資の話を始め、爆風スランプの人はプリプリ怒りながら映画の話を始めたが、渡辺電機(株)さんにだけは何も起きず、仲間外れにされたことを悟ってめそめそ泣き出してしまったが、誰も気に止める者はなく、三人を乗せた旅客機は、NYの世界貿易センタービルへと真っ直ぐに近づいて行った。

2018-10-26 北の狼 南の虎
大嫌いなブロッコリーとニンジンが山盛りでグツグツ煮える大鍋を前に、ベソをかく横綱。食べなさいッ!激しく叱責する渡辺電機(株)さんも、内心は可哀想で胸が張り裂けそうだった。すまん横綱、強くなるためだ。せめて、苦手な牛乳にはハチミツを入れて甘くしてやるから…。目頭が熱くなるのを堪え、さらにゲキを飛ばす。ほらっ横綱!おっきくなれないよ!その頃ライバルの稀勢の里は、四つん這いにさせた付け人の背中に置いた巨大なベーコンのブロックにジャックナイフを突き立て、コニャックをラッパ飲みしながら、女装させた高安の土俵ストリップを悠然と眺めていた。相撲はな、勝ちゃいいんだよ、勝ちゃあ…。この正反対のライフスタイルを送る両横綱が、やがて力を合わせ安倍政権を倒す日が、やって来ようとは…。

2018-10-27 メデューサの子ら
覚悟完了ッ!!そう絶叫して服を脱ぎ捨て全裸になると、渡辺電機(株)さんは「アベ政治を許さない」のプラカードを手に、結びの一番を前にスタンバイした呼び出しを押しのけ、ふるちんで土俵に駆け上がった。だが、その足が土俵を踏むことはなく、宙に浮いたままの渡辺電機(株)さんの身体は、会場警備の陰茎山親方(元関脇貴闘力)に軽々とつまみ上げられたまま、花道を支度部屋へと運ばれて行った。何しやがる離せッこんちくしょうめ!手足をじたばたさせながら悪態をつく渡辺電機(株)さんだが、親方の軽いデコピン一発で手足をぐにゃりと下ろし、動かなくなった。渡辺電機(株)さんは気絶したまま雨の両国の街へ放り出され、何台もの車に轢かれて小さな肉片となって下水に流されて行ったが、彼の残したプラカードが、結びの一番で場内を舞った座布団の嵐にまぎれて横綱の側頭部を強打した。一命はとりとめたものの、横綱は物心ついて以降の記憶を一切失って、心は4歳の幼児のまま、渡辺電機(株)さんに会いたいと日々泣きじゃくっているという。

2018-10-28 起業チャレンジ成功の秘訣
人魚を食べて不老不死となった八百比丘尼の話をどう勘違いしたのか、カッパの肉を食べて不老不死に!と宣言して、カッパ狩りのため長良川をカヌーで上って行った渡辺電機(株)さんが消息を絶って、3ヶ月。社会からつまはじきにされた落ちこぼれゆえ、捜索願いが出されることもなく忘れられたが、カッパの国で興したネットワークビジネスが大当たり、巨万の富を得て時代の寵児となった。だが有名人の哀しさ、常に注目を浴び、街に出ればサインを求められ、ガードマンに守られる日々に忙殺され、念願のカッパの肉を食する機会についに恵まれないまま、失意の内にカッパの国に別れを告げ、凱旋帰国した。カッパの国の通貨は日本では何の価値もなく大便の山として処理され、その莫大な費用を支払うためにユーチューバーとして昼夜を問わず働き続け、過労のため若くして死んだ。まだ97歳だったという。

座敷童子(牝14)子鬼(牝10)妖怪(牡5)と3人育てているので、ご支援いただけると非常に助かります。