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(5253)カバー・(5032)ANYCOLOR[エニーカラー] 二社の売上構成比較

 6月14日にANYCOLOR社の2023年4月期の決算が発表され、5月12日に発表されたカバー社の2023年3月期の決算と合わせて、Vtuber二大企業の決算が出揃いました。

 両社の決算資料は以下のページからダウンロードできます。

 両社とも、(1)配信・コンテンツ分野、(2)ライブ・イベント分野、(3)マーチャンダイズ・コマース分野、(4)タイアップ・プロモーション分野の4つに分けて売上高を公表しています。ANYCOLOR社は分野ごとの売上高の数値を公表していますが、にじさんじ・NIJISANJI ENと分かれており、カバー社はグラフのみで分野ごとの数値を公表していません。そこで、両社の比較のため、ANYCOLOR社は分野ごとに合算し、カバー社はグラフの長さから(拡大してピクセル数を測りました(笑))分野ごとの売上高を推定し、両社を同一上のグラフで比較して、両社の強み・弱みを分析しました。

 以下の比較においては、会計年度に1か月のずれがありますが、同一四半期の比較をしていきますのでご了承ください。なお、セクションの名称は両社で異なりますが、比較する場合は基本的にカバー社の呼称を使用します。

セクション別売上高比較(2022年3/4月期及び2023年3/4月期)

四半期別売上高

出典:カバー社 2023年3月期 決算説明資料
ANYCOLOR社 2023年4月期 決算説明資料(訂正版)

このグラフは、比較のために売上高を推測したものであり、両社が公表した売上高ではありませんのでご留意ください。

(全体の売上高)2023年Q1から大きく伸びたANYCOLOR、カバーは2023年Q4に急伸

四半期ごとの売上高を比較すると、2022年度(2021年4/5月〜2022年3/4月)では、両社の差はそれほど少ないことがわかります。しかし、2023年第1四半期以降、ANYCOLOR社の売上高が急激に伸び、カバー社を引き離していることが読み取れます。これは、NIJISANJI ENにおけるマーチャンダイジング(コマース)売上高の急増が要因と考えられます。

ANYCOLOR社 2023年4月期 決算説明資料より引用

 一方、カバー社は2023年第4四半期(2023年1〜3月)の売上高が急増し、四半期単位ではANYCOLOR社の売上高(2023年2~4月)を上回っています。
 決算説明資料によれば、受注販売グッズの出荷による収益計上、ライセンス/タイアップ案件の好調、そして3月18日と19日に幕張メッセで開催された4th Fes./EXPO(ライブ/イベントおよびマーチャンダイジングに影響すると思われる)が予想を上回る売上に寄与したとされています。
 また、3rd Fes./EXPO(2022年3月)に続けて2年連続で開催されたイベントであったことから、2024年度第4四半期(2024年1〜3月)にも同様のイベントが開催される可能性があります。

カバー社 2023年3月期 決算説明資料より引用

(カバー社の強み)配信/コンテンツ及びライブ/イベントはカバー社が上回る。しかしこの分野の売上原価率は高い

 次に、セクション別に比較していきます。カバー社は配信/コンテンツ分野およびライブ/イベント分野でANYCOLOR社を上回っています。

 配信/コンテンツ分野では、Youtubeなどの配信プラットフォームからの収益や楽曲のアルバム・ダウンロード売上が主な収入源と考えられます。両社を比較すると、Youtubeでのスーパーチャットではほぼ同等ですが、カバー社の方がYoutubeメンバーシップからの収益が多いと推測されます。カバー社の決算説明会では、「比率としてはメンバーシップの方が多い状況」との回答が公表されています。

 ライブ/イベント分野でもカバー社が強い傾向にあります。これはホロライブプロダクションがアイドル事務所であるという特性が大きな要因となっています。また、Youtubeチャンネルの登録者数からも、ホロライブ所属のタレントのソロイベントでも集客力が高いことがうかがえます。
 例えば、星街すいせいさんの2ndソロライブは東京ガーデンシアター(最大収容人数8,000人)で開催され、アリーナから5階席まで超満員の光景が見られました。

 しかしこの2つの分野では売上原価率が高くなると予想されます。配信/コンテンツ分野の主要要素であるYouTubeからの収益は、YouTube側に約30%の手数料が支払われ、残りは演者と分け合われるため、原価率は50〜70%と推定されます(一部では配信収益の演者報酬は「取り半」とも言われています)。
 また、ライブ/イベント分野ではリアルイベントとライブ配信の両方で収益が得られますが、会場使用料、機材や演出の費用、人件費などの経費が高く、原価率があまり下がらないと予想されます。ただし、変動費用が少ないライブ配信の比率が高まることで原価率は低下する可能性があります。そのため、多くの人にライブ配信を視聴してもらうことが原価率を抑える鍵となるでしょう。

(ANYCOLOR社の強み)マーチャンダイジング分野で大きな売上。デジタルコンテンツの充実により驚異的な利益率に

 ANYCOLOR社はマーチャンダイジング(コマース)分野でカバー社を上回っています。特筆すべきは、デジタルコンテンツの多様性と商品の共通化により、売上原価率を低く抑えていることです。

にじさんじオフィシャルストアより引用。デジタルグッズの豊富さが一目瞭然
にじさんじオフィシャルストアより引用。小ロットが想定される商品は共通化で原価を抑えている。

 にじさんじのライバーは所属人数が多いため、ホロライブと比較して一人あたりのファン数は多いとは言えません。しかし、商品規格の共通化によってコストを削減し、価格を抑えて購入しやすくしているようです。これはカバー社がメンバーの記念日ごとに限定商品を企画し、受注販売によって在庫リスクを抑える方針とは対照的です。
 カバー社でも主にホロスターズの記念商品を中心に、一部のグッズの共通化が採用され始めています。ファンからは「コピペ商品だ」という批判が出る可能性もあるかもしれませんが、コスト削減と同時に商品開発も容易にするための良い方法ではないでしょうか。

(タイアップ/プロモーション分野)カバー社はタイアップ商品に強く、ANYCOLOR社はプロモーション配信に強い

 タイアップ/プロモーション分野においては、ANYCOLOR社の方が売上高が高い傾向にありますが、両社の内容は異なるものと思われます。
 カバー社は女性ブランドのホロライブを中心に、他社とのタイアップ商品を企画し、食玩やプライズ景品、コンビニのキャンペーンなどで活用されています。店頭でよく見かけることから、一般の知名度ではホロライブが優れていると思われます。

BANDAI SPIRITSサイトより引用:ホロライブ #hololive IF -Relax time-大空スバル School style ver.

 一方、ANYCOLOR社はにじさんじの配信におけるプロモーションに重点を置いているようです。新作ゲームの紹介に限らず、化粧品やアパレル、デスクトップPCなど、幅広い商品を紹介しています。これによって、にじさんじのファンを対象としたアピールが行われています。タイアップ商品の数に関しては、カバー社のホロライブと比較すると少ないようです。

にじさんじ甲子園×ahamoキャンペーンサイトより引用。

まとめ:両社の強みは異なり、弱点は今後の成長余地となる

 以上、両社の売上高を比較してきました。同じVtuberを扱う企業であっても、その内容は異なり、それぞれに強い分野があるということが伺えます。
 拙作のVtuber統計サイト「VSTATS」の集計によると、Youtube LIVEにおける総視聴時間(ライブ配信が視聴された合計時間)は見事に拮抗しています。

VSTATS Blogより引用。2023年5月のYoutube LIVEにおける総視聴時間に基づくVtuber業界のシェア。観測対象はVtuberの主要1000チャンネルほど

 Vtuber業界における両社の競争は、業界全体の成長を促進していく要素となっています。相手が持つ強みは、同時に自社の成長余地でもあります。カバー社の配信/コンテンツ分野やライブ/イベント分野、ANYCOLOR社のマーチャンダイジング(コマース)分野など、それぞれの分野で競争を続けながら、新たな成長の機会を模索していくことでしょう。今後の両社の成長には注目が集まります。

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