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二度目の挑戦で、目指していた厚労省に。「転職で入省してよかった」と思う理由とは

厚労省で働く上野さんは、実は学生時代にも国家公務員を目指していた。当時は「就職活動に失敗した」と感じたそうだが、振り返ると民間就職を経て入省したことがアドバンテージにもなっているという。一貫して社会のセーフティネット作りに取り組む上野さんのお話は“制度のあるべき姿”の示唆にも溢れていた。

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<プロフィール>
上野 格嗣さん
2017年に公共政策大学院卒業後、同年に日本生命へ総合職として入社し、支社での個人向け保険営業・営業支援、人事部での新卒採用担当、商品開発部にて商品の募集文書作成等に従事し、その後、社会保障など公的なセーフティーネットの環境整備に取り組みたいとの思いから、係長級の経験者採用試験を経て2020年4月に厚生労働省へ入省。厚労省では国民健康保険、コロナ対策、年金の分野において政策の企画、法令改正、国会対応や課内の取りまとめなどを担当。
※記事内容は取材当時のものです。


困窮によって道を狭められる子どもたちを救いたい

ーご経歴を教えてください。
法学部と公共政策大学院を出て、新卒では生命保険会社に入社しました。今は厚労省の事務系の総合職として働いています。
学生時代から公務員、特に国家公務員の総合職を目指していました。当時も厚労省が第一志望だったのですが、官庁訪問で落ちてしまいました。社会保障、人が困ったときのセーフティネットに関わる仕事に就きたいと思っていたので、「民間企業であれば生命保険だろう」ということで、日本生命に入社しました。
生命保険以外にはソーシャルベンチャーなどの社会課題系の新興企業なども受けていました。セーフティネットの中にも、普通の生活を送れている人が転落しないためのものと、元々社会的に脆弱な人たちをサポートするものがあります。私はなるべく後者に近い方を選びたいと思っていました。生命保険は金融資産としての側面もありますが、何か困ったことがあった際にそれ以上困らないようにするという、サポート的な側面があると思いました。

ーセーフティネットを仕事にしたいと思ったきっかけは。
ひとつは親の仕事の影響です。両親とも公務員で、親の仕事の関係で、犯罪者の更生保護関係の話をよく聞かされました。様々な話を聞く中で、犯罪を犯した方々も、生活困窮などの生活の困りごとから犯罪に関わることになるなど、様々な事情の人がいることを知りました。「その人たちは本当にそこが辿るべき道だったんだろうか、もっと手前でできることはなかったんだろうか」と考えるようになっていきました。
もうひとつの背景として、大学院生の時にしていた生活保護世帯の学習支援のアルバイトの経験があります。接している子供たちはやる気も能力もあるのに、たまたま生まれた家が貧しいことで将来の選択肢が狭まっていました。「それは本当にこの子や家の責任なのだろうか、もっと第三者ができることはないのだろうか」と感じていました。
支援の現場を経験して私が制度を作る側を選んだのは、アルバイトでNPOの専門支援者の仕事を横で見ていた時に、自分の性格上、属性が異なる人たちに踏み込んでいって関係性を作るような現場支援は難しいと感じたことや、ケアをしている人たちが生活に困らないように給与や働き方を整えることも必要なんじゃないかと思ったからです。ケア自体も欠かせませんが、ケアの基盤を作ることも重要だと気づいたんです。

ーニッセイではどのようなお仕事をされていたのですか。
3年間所属して、1年ごとに所属部署が違いました。日本生命の一年目職員は営業を経験するのですが、私も大阪の支社での営業からキャリアがスタートしました。自分自身の営業活動に加え、営業所のプロパーの営業職員のマネジメントやサポートをしていました。営業職員のサポートをしながら自身も知識を得ていく、という期間でした。
2年目は人事部で総合職の採用業務を担当しました。採用イベントの運営、面接、内定者のフォローなど採用のフロント業務のほか、新卒採用メディアの記事を書くようなバックオフィス業務も兼任していました。人事部も楽しかったのですが、コーポレート部門より実際に保険に関わる業務がしたいと希望し、3年目には商品開発部で商品に関わることが叶いました。
商品開発部には保険商品のコンセプト設計をする部署と約款を作成する部署があり、後者に所属していました。今思えばこの経験が厚労省での業務に大いに役立っていました。例えば新旧約款の対応表を作るなど、法令の作り方に似ている作業があるんです。約款や募集文書(パンフレットやホームページに掲載する言葉のこと)には保険の仕組みや疾病の知識などについて正確な記載が求められ、商品をわかりやすくかつ正確に伝える文章力が必要となります。過去の募集文書と今の募集文書で内容がずれていないことを確認するなど、役所の文書作成につながる基礎をこの時学ぶことができました。

ー生保会社でもセーフティネット作りの仕事ができていたと感じますか。
そうですね。自分のように社会課題解決を目指す人も一定数いたと思います。人事部に所属していた際に社員向けセミナーを企画できる機会があり、NPO代表の方を呼んで“社会課題と民間企業“というようなテーマで講演をしていただきました。ビジネスとの直接的な関わりが薄いテーマだったためか、最初は社内での広報も苦労したのですが、蓋を開けてみたら数十人の参加がありました。ビジネスだけじゃない分野にも興味を持つ人も社内に多くいるのだと気づくことができました。
そうしてやりたかったことに間接的に関われていると感じる反面、もどかしさもありました。例えば商品開発をしていた時なのですが、保険事故(病気など)があった際のお金のサポートだけじゃなく、居場所づくりや健康管理といった未然にリスクを予防するための現物のサービスなどのセーフティネットが必要だと考えていました。当時の商品開発部門のトップが開明的な方だったこともあり、若手とのフリーディスカッションの機会でそういった“現物“のサポートが保険商品の価値を高めるのではと提案したこともあったのですが、「それは民間企業だけでは難しく、行政にも対応してもらうことが必要なんじゃないかな」という指摘を受けました。「なるほど、民間では企業価値の向上を同時に追わないといけないので、出来ないこともあるんだ。お金、利益じゃなく社会課題の解決を正面から考えられるのはやはり行政やNPOなんじゃないか」とその時に思いました。組織によって目的が異なるということを思い出せてくれました。

民間企業、NPOボランティアを経たからこそ見えた「霞が関じゃなきゃいけない理由」

ー転職を考えたのはどのようなタイミングだったのですか。
金融機関の中で人事と商品企画という主要な部署を経験させてもらい、力がついたと感じたタイミングで、たまたま厚労省の係長級の経験者採用の募集を知りました。
その頃は同時にNPOへの転職も検討していて、大学院時代のアルバイトと同様の学習支援の活動を仕事終わりの夜や土日にやり始めていました。学生時代には気付けませんでしたが、NPOでも政策提言などを行なっているんですよね。社会人になってからボランティアとして参加した際には、データや資料集めなど、政策提言側の仕事にも力を入れました。
しかしその時に気づいたのは、現場の人たちの働き方がハードワークだということです。支援の現場で働いた後にデータ収集や行政関係の手続きなどのデスクワークを行う多忙な日常でした。その方々の給与は寄付金等で賄われていて、決して多いとは言えません。「社会的に意義のある働きをしている人たちの待遇を改善したい」また「彼らのリソースをもっと効率的に活動に回せたらいいのに」と思うようになっていきました。現場の人たちの苦労を一緒に経験したからこそ、その環境を改善してあげられるような基盤を作りたいという思いに至ったんです。やっぱり行政機関の中で制度を改善できる立場になることが重要だと考えました。 

ー一度は落ちた厚労省ですが、二度目のチャレンジではどのような部分が評価されたのでしょうか。
ボランティアなどを通して現場を回った上で「行政機関でなければできない仕事がしたい」ということを伝えました。「環境整備ができる霞が関だからこそ働きたい」とちゃんと伝えることができました。
学生時代になぜ落ちたのか、ということも再度分析しました。その時は思いが先行していたんです。思いは大事だけど、「この人たちが可哀想だから助けたい」ということではなく、「こういう制度の隙間に陥ってしまう人たちがいて、全員をいっぺんに救うのは難しいけど、現実的にこういうアプローチで助けていくべきだ」というような考え方に変わってきたんですよね。ちゃんと現状を分析して制度に繋げていく思考の過程を説明できるようになりました。社会人を経験したことで、課題解決へのアプローチをしっかり説明できるようになり、説得力を持てたと思います。
また、保険の約款や募集文書の作成を経験したことで、厚労省の業務でも即戦力になれる部分があるとアピールすることができました。

ー入省後のお仕事を教えてください。
3つの部署を経験しました。事務系総合職の係長級の職員としては、課の窓口として、課に依頼のある仕事全体の把握・確認、段取り・調整を行ったり、政策を進めるに当たって法令改正が必要な場合に、改正内容を正確に条文化するための各種検討・調整、資料作成等の作業を行ったり、課の所掌事務に関して国会質問のあった場合には、答弁案を作成したりといった業務を担当します。
1年目には保険局という医療保険制度などを所管する部門で国民健康保険を担当しました。2年目から一年半は厚労省内に臨時に設置されていた新型コロナウイルス感染症対策本部という部署でコロナ対応の全体の方針の検討や感染症法の運用などに従事していました。そのあと年金局の事業企画課に移り、年金の事業部門の総括、日本年金機構の監督などを行なっています。
入省して当初は、ボランティアでやっていたような児童福祉関係の部署に関心があったのですが、入省後に関わった医療・公共衛生にも興味をひかれてきたところです。例えば国民健康保険に、自営業や無職の人が加入しているのですが、会社員と違って健診を定期的に受ける機会づくりが難しく、加入者の健康の維持に課題があります。疾病の要因はいろいろありますが、健康じゃないと働き続けたり自己実現をすることも大変なので、全ての活動の基盤である健康を守るためにヘルスケア分野もやってみたいと思うようになりました。
そもそも厚労省に転職を決めたのも、「どこに配属されても興味が持てるだろうな」と思ったからです。厚労省の中では医療保険、年金、児童福祉、働き方改革など労働系の部署や障害者支援の部署など、どこの部署でも何かしら社会保障やセーフティーネットにつながると思ったんです。
 
実際に、自分たちが一所懸命検討したことが国民の生活に反映されたり、困った人たちをサポートできていると実感できるので、やりがいがあります。
思い出深いのは、コロナ禍の一年目に国民健康保険課にいたときです。コロナの影響で収入が下がった方の保険料減免の対応などをしていました。当時、例えば給与明細などの各種種類をすぐに揃えることができず、収入が下がったという証明が難しい人もいました。困っている人を迅速に助けるために、収入が下がるという見込みで判断することや、書類も帳簿のような参考資料であっても軽減措置を受けられるようにしました。制度があるというだけでなく、ちゃんと必要な人に届くように、事務まで内容を詰めて自治体に広げていきました。入省前には、制度さえあれば人を救うことができるイメージを持っていましたが、実際には相談・申請のための窓口、具体的な事務手続等の現場での運用もきちんと揃って初めて人を救うことができるんだと学びました。それ以降は様々な政策を行う際に、事務連絡に詳細なQ&Aを追加するなど、現場で運用しやすいようにということを心がけていましたね。

コロナ関連では思い出深い仕事がもう一つあります。今となっては懐かしいのですが、2021年の冬頃、濃厚接触者の待機期間を10日間取るという当初のルールを、エッセンシャルワーカー向けに緩和する変更を検討していました。待機期間を緩和するのに必要な公衆衛生上の根拠を国立感染症研究所などから集めつつ省内の関係部署の意見を聞きながら検討しました。医療関係者は濃厚接触者であっても毎日コロナの検査をすれば働いていただけることがすぐに決まったものの、救急車に乗車している救急隊員のルールが定まっておらず、政策の隙間に落ちてしまっていました。その時には救急対応を所管する消防庁と直接調整して、救急隊員も濃厚接触者であっても働けるように取扱いを変更しました。医療の逼迫を防ぐために医療従事者の人繰りをサポートし、結果的に現場が助かり、そうした取扱変更の先例を作ることで感染症対策と両立した社会活動を再開するきっかけになったという思い出があります。決して華々しい活躍ばかりではないですが、制度を作る以外にも具体的な事務を詰めたり、現場の環境整備をしたり、まさに入省時にやりたいと思っていたことができました。
細かな事項まで詰めて検討を行ったり、いろんな関係者と話すことは大変ですし、正直辛いこともあります。でも、制度がきちんと機能するように調整することが役人の本分だと思っています。

「嵐のよう」だったコロナ本部の離任時

制度を活かして人を救えるような仕事を追い求め続けたい

ーそのようなお仕事の中で、過去のご経験がいきていると感じる部分はありますか?
保険の営業経験は確実に生きていますね。元々あまり人と打ち解けることが得意な性格ではなかったのですが、保険の営業は、お客様と打ち解けながら、複雑なものをわかりやすく説明する必要がありました。この経験はそのまま国会議員への政策説明の機会に役立っています。国会議員から様々な説明の依頼がある中、素朴な疑問に対しても、わかりやすく説明することができました。担当とは違うことでも『担当へきちんと伝えます。』と取次をしたり、難しい質問でも『すぐには回答は難しいですが、きちんと課内で相談して検討します。』とお伝えするなど、柔軟で、杓子定規じゃない対応を取ることで、議員と役所との関係を取り持ったりしています。

ー逆に、入省後にご苦労されていることはありますか。
省内の打ち合わせだけでなく、他省庁や議員など外部へ政策を説明する機会が想像以上に多いことに驚きました(笑)。最初の1ヶ月では、「こんなに口が痛くなるほど喋ったのは初めてだ!」と思いました。入省したての時には説明する順番のメモをカンペとして隠し持っていましたね。でもたくさん説明するうちに説明能力が伸びたと思います。頭の中で前提、現状、課題、解決策といった流れで説明する型を自然に整理できるようになりました。
苦労でいうと、手続き物が多いことでしょうか。法令文書の作法で「ここは改行、ここは何ポイント」というようなルールが細かく決まっているんです。
フォーマットだけでなくもちろん中身も大変です。例えば質問主意書という制度があります。国会議員から文書で質問が寄せられ、それに文書で回答するものです。これは役所の一職員だけで回答するものではなく、閣議決定までして回答する重い文書です。言一句、役所内で審査し、その後内閣法制局という“法の番人“にも見てもらわないといけないのですが、なんとその期間が5日間しかありません。手続きだけでも大変ですが、当然答弁の中身もきちんと考えつつやらないといけません。当初は段取りだけでも頭がいっぱいで中身を検討する時間が短くなってしまうなど苦労したこともありましたね。
コロナ対策本部にいた時にはコロナに関して質問主意書が多く出されていたため、毎週のように対応していました…。同じ部署で協力してもらえる資源は全て活用し、医療の専門的な内容の質問であれば、答弁は医系技官(医師・看護師出身の専門職)の人にも並行で考えてもらい、手続きを法令担当で回すなど、分業スタイルが身につきました。
 
コロナ対策本部にいた一年半は嵐のような状況で、当時はとにかく大変で毎日怒涛のように過ぎていきました。でも振り返ってみると霞が関での国会対応や法令作業の作法などが一気に吸収できたすごく良い経験で、役人としての基礎能力がしっかり身についた期間でした。霞が関でも中々多く経験することはない総理答弁の作成の機会がたくさんあり、新卒で入省している同期を追い抜けるくらいの経験をすることができ、コロナ対策本部では自分の所属する班内だけでなく他の班の人からも頼っていただける存在になりました。
また当時のコロナ対策は国の最重要課題、まさに国難という状況でした。それに対して世間がどう考えているかとか、ワクチンを打つべきかどうかなど、いろんな情報が飛び交っていました。国内の意見が割れる状況、「国難に対してどういう説明を国民にすべきか」、「どういう対応をしていくべきか」というような、スケールの大きなことも考えられる経験でした。
そう思えば、嵐の中で頑張ってよかったですかね…(笑)。

ーこれまでのキャリアを振り返って、また今後を見据えて、ご自身のお仕事をどのように考えますか。
新卒で民間企業に入った時には、正直「失敗した」と思っていましたが、振り返れば良いスタートだったと思います。新卒ですぐに役所に入るよりも、民間企業でどう社会保障にアプローチできるかを知ったうえで霞が関に来れたのがよかったですね。社会人ボランティアでの経験から現場のことも制度のこともNPOのことも知ることができましたが、最初から霞が関に閉じこもっていたらきっとできなかった経験だと思います。なので、このような道筋になったことにはとても満足しています。
 
今後しばらくは役所の中で、環境整備や制度設計を頑張っていきたいです。ずっと興味関心がある生活困窮者支援や若者向けの雇用施策、新たに興味を持ったヘルスケアの分野などでもっと活躍していきたいです。
中長期的には、社会課題解決にチャレンジしていけたらと思っています。“制度を駆使してセーフティーネットづくりのアプローチをしたり、支援の現場の方をサポートする人“になりたいですね。様々な制度がありますが、まだサポートできていない部分もあります。フリーランスや新しい働き方の選択に対応できていない部分もありますし、現場の方々への制度の浸透もまだ余地があります。制度の間にいる人たちを、制度を知る人間としてサポートしていくような生き方ができたら、と思っています。


【編・写:大屋佳世子】


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