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伝えたいのは「愛」 -イラストレーター マサキヒトミ-

vision trackでは昨年、見る人の「心を動かすイラストレーター」との新たな出会いを求めて、「vision track所属イラストレーター / 公募プログラム」を実施しました。選考基準は「自分にしかない『らしさ』を起点にしながら、多くの人の『好き』に応えられること」。300名以上の応募者の中から7名のイラストレーターが所属に至りました。
より多くの方に7名の魅力をお伝えするため、1名ずつインタビューをお届けしています。
第2回目にご紹介するのは、人や自然をナチュラルに描き出し、溶け合うような満たされる気持ちを表現するマサキヒトミさん。イラストレーターとして、働くママとして、今の率直な思いや「描く前に言葉やストーリーから考える」という独自の制作スタイルまで、今回も興味深いお話をたくさん伺うことができました。
ぜひ最後までお楽しみください🌿


自分の「本当に好きなこと」を追ってイラストの道へ

ー絵を描き始めたきっかけは覚えていますか?

父が映像系の仕事をしていたので、自宅に企画書や絵コンテなど膨大な量の紙があって、その裏紙に黙々と描き続けてるっていう幼少期だったので、多分それがきっかけです。子どもの頃から夏休みに新聞を作ったり、詩を書いたり、漫画を描いたり、ストーリーや言葉も含めて「描く」のが好きでした。習うわけではなく、ただ楽しくて気付くと描いている感じでしたね。
小さい頃から人や動物が共存した世界をいつも描いていたみたいで、今とあんまり変わらないねって親に言われました。昔から海や自然が好きで、犬も飼っていたり、そういうピースフルな世界が好きというのは今のイラストの世界観にも通じているかなと思います。

ーその頃からイラストを仕事にしたいと思っていましたか?

一般の大学に進学していましたし、そういう風には考えていなかったのですが、大学2年の時に3.11や祖父との別れといった経験が重なって、自分の本当に好きなことをしようと思うようになって。思い切って桑沢デザイン研究所に入り、本格的に絵やデザインを学ぶようになったところからです。
桑沢の卒業制作の時に大人になってから初めてしっかり絵を評価してもらえたっていう経験ができたこともそうですし、絵を描いていく中で自分も幸せになっていくみたいな感覚があって、これを超えるものはないなと思うようになりました。

ーマサキさんのイラストを見ていると、そういった多幸感のようなものをすごく感じます。そういう気持ちを持ってから、実際にイラストレーターとして活動するようになるまでは?

卒業後はデザイン事務所に就職して、デザイナーとして働いていました。得るものは多かったのですがとにかく毎日が本当に忙しくて。
そんな時にランチ後フラッと入ったお店で、norahiさんが展示をされていたんです。その時ご本人ともお話ししたら桑沢の先輩だと分かって。どれも自分の世界観を表現していてすごく好みな作品ばかりだし、これを仕事に繋げている姿っていうのがすごく「いいな」と思ったんですよね。忙しさでものづくりの楽しさを感じる余裕もなくなっていたような時期のこの出会いが、本気でイラストレーターになりたいと思った結構大きなきっかけになっていると思います。
それから転職したことを機に、転職先の会社で仕事としてイラストを描かせてもらったりもするようになり、徐々にイラストのお仕事をいただけるようになっていきました。

密かな憧れだったvision trackへの所属

ーマサキさんとは公募プログラムに応募いただく前からお仕事させていただいていましたが、プログラムを経て所属になっていかがですか?

最初はバレンタインのショッピングバッグの案件でご一緒したんですよね。vision trackのことを知ってからはずっと所属イラストレーターになりたいと密かな目標を持っていたので、公募の情報を見たときにこれだ!って。
vision track所属の方がたくさん素敵なお仕事をされているのを見て「私もこうなりたい」という思いがあったので、自分で大丈夫かなと不安もあったんですけど、説明会を聞いてやっぱりトライしないで終わるよりは1回トライしてちょっとでも前に進もう!と応募しました。躊躇はなかったです。
プログラムから所属にあたって、自分だけでは気付けない部分を気付くきっかけがたくさんあり、視界が開けていく感覚でした。
井手さん(インタビュアーでありマサキさんの担当エージェント)と話している中で「溶け合って満たされるような雰囲気が魅力」だと言ってもらったことが印象に残っています。今まで自分の作風がどういうものか言葉では表しきれてなかった部分を言語化していただいたことで、より自分でもイメージしやすくなった感じがしています。

責任感と達成感を味わったルミネのニューイヤービジュアル

イラストだけでなく、コピーライティングやウィンドウ内のカラーなどディレクション部分も担当

ー転機だったり印象に残っているお仕事はありますか?

vision trackと取り組んだ2024年のルミネのニューイヤービジュアルはかなり大きな出来事でした。ルミネ全館のショーウィンドウなどで展開されるというお仕事で、最初は責任重大で胃が痛かったです。(笑)
でも実際に出来上がった時は家族や友人が本当に喜んでくれて嬉しかったですし、大学を中退して今まで苦悩したり頑張ってきたことが実った気がしました。

ーイラストだけでなく、コピーを書いたりショーウィンドウのカーペットの色も併せて考えるなど、アートディレクターのような立ち回りのお仕事でしたが、そこに関してはいかがでしたか?

私はいつも最初にショートストーリーから考えてイラストを構成していくスタイルで、絵としてのラフの前に言葉が存在しているんです。イラストとコピーをどちらも担当して、誰かの真似にならず、自分ならではのメッセージや世界観を出せたと思っています。
カーペットや壁面の色合わせが大変だったり反省点もあり、たくさん試行錯誤しましたが、今できるすべてを出して全力投球できたと思えたし、とても楽しかったです。

制作の流れやクライアントワークの進め方

自宅での作業風景

ー使っている機材やラフから完成まではどんなイメージですか?

先ほど話したように、まずは描く絵のストーリーを言葉とイラストで描き起こすイメージで、ノートにボールペンで大まかに描いていきます。良いものがあればiPadでProcreateに取り込んで、そこからはデジタルということが多いですね。
日々の生活や旅行の時に見た忘れたくない景色や感情をたくさんスケッチしていて、そこから制作のアイデアが出てくることも多いです。そういったことが背景にあるから、ストーリーのようなものが先に出てくるのかもしれません。

普段から書き溜めているスケッチ(写真:本人提供)

ークライアントワークで気を付けていることはありますか?

もちろん要望に応えるという部分は意識しますし、その中で色味や丸みを帯びた線だったり、どこか物語を感じられるような雰囲気など、自分らしさを織り交ぜたいと思っています。そして、見た人がちょっと幸せを感じてくれるようなイラストになるようにと、いつも考えていますね。

ママになって感じるのは「描くもの」よりも「描く視点」の変化

旅先では写真を撮ることも楽しみの1つ(写真:本人提供)

ーイラスト以外に好きなものはありますか?

ウクレレを弾いたり、ピアノも長くやっていたので音楽は好きですね。色々聴きますが、制作中は結構影響されちゃうので聴くのはアイデア出しの時くらいで、しっかり制作してる間は聴かないようにしています。(笑)
あとは旅に行って写真を撮って、帰ってきてそれを元に絵を描いてっていうのが本当に幸せを感じますね。写真を撮るのも好きですし、違う世界に行って解放される感覚だったり、海外だと価値観を覆されることも多いですし。日本にいたら絶対できない経験や見られない景色はやっぱり楽しいです。
例えばロサンゼルスは街並みから自然の色、生えている植物まで絵に描けるなって思うようなモチーフだらけで、また行きたいなと思っています。
最近はコロナと出産で行けていませんが、ゆくゆくは親子留学みたいなこともしてみたいです!

ーお子さんも絵を描くのが好きだとお聞きしました。お子さんが生まれてからご自身の制作にも変化があったりするのでしょうか?

お子さんの作品(写真:本人提供)

子どもも描くのが大好きで、家の壁には子どもの作品を貼るスペースを作っています。子どもの描く絵って本当に自由でストレートで、思いもよらないものを描いていたり、いつもピュアな刺激をもらっています。
自分の作品も自分の経験という視点から描くことが多かったですが、ママになってからは子どもに伝えたいことや、この子たちの未来がこうなっていたら良いなとか、今までは考えなかった視点や着想で描くことが多くなったように思います。

ーその視点や見ている先の違いってすごく大きな変化ではないかと思います。マサキさんのイラストの「溶け合う感じ」に、より深みが増して「愛」のような部分を感じると言うか…

そうですね、全然意識していなかったけど、私がイラストで伝えたいものは「愛」なのかもしれません。

イラストを通じて世界や人と繋がりたい

ー今後チャレンジしてみたいお仕事はありますか?

ずっと大好きな雑誌「TRANSIT」や、UNIQLOの「LifeWear magazine」の表紙はいつかやってみたいと思っています!
実は去年、アメリカの本屋さんで販売しつつ投票してもらうような形のポストカードコンテストに出させていただいて、大賞をいただいたんです。元々旅や海外が好きだし、英語はあまり話せないけれど、国を問わず違う価値観や考えを共有したり仲良くなれたらという思いがあったので、こうしてイラストを通じて海外の方と交流できるのって素敵だなと思って。
グローバルで多様性のある企業さんとお仕事をすることで、イラストを通じてもっと世界中の色々な人と繋がれたら嬉しいなと思っています。

大賞を受賞したポストカードコンテストの様子(写真:本人提供)

ー最後に、3年後の自分へ一言お願いします!

子どもも成長しているでしょうし、今よりバリバリ働いていてほしいですね。それこそ、子どもと一緒に海外に行って展示をやったり、もっと世界が広がっていたら良いなと思います。
そのために今は頑張るから、3年後の自分も頑張っていてね!と伝えたいです。

インタビュー後記

見る人を温かい気持ちにするイラストの奥には、クリエイティブに真摯に向き合う姿勢があるのを再確認しました。
言葉から生まれたイラストレーションが「愛」という言葉に還っていくのが興味深かったです。
色んな愛を伝えてくれるマサキさんの作品を、さらにたくさんの人に届けていきたいと思います。ご期待ください。


【マサキヒトミ プロフィール】
桑沢デザイン研究所総合デザイン科卒。デザイン事務所を経て、フリーのイラストレーターに。
寄り添い満たされる気持ちを心地よいフォルムとカラーで豊かに表現することを得意とする。また、旅を愛し、そこで開放された感情を大切に作品を作り続けている。
デザイナーの経験を活かしてコンセプトコピーやアートディレクションの領域でもクリエイティビティを発揮し活躍中。

<マサキヒトミに関するお問い合わせはこちらまで💁‍♀️

写真: きるけ。
インタビュー:井手美沙音(vision track)
編集:増山郁(vision track)


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