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僕は家族の数だけひたすら鍋をあおった

昨日は久しぶりに中華鍋をあおった。

このところ、そんな余裕が正直言ってなかった。
父の旅立ちにまつわるもろもろに頭と時間を使うことが多かったし、少し落ち着いたと思ったら出張もあったりして。

昨夜、急に思い立って焼きめしを作りたくなった。
焼きめし。
東でいうところの炒飯。

鍋を振るたび、高温で熱せられた油と卵をまとった米が飛び散る。
焼きめしが動の料理の代表格であることに異論のある人はいまい。
たゆまず鍋を降り続ける左手に、間髪入れず鍋肌を玉杓子で打つ右手。
ザッザッ——カンカン——

炊いただけで食べられる米に、さらに手間をかけるのが焼きめし。
息つく間もない、わずか1分の激闘。
鬼気迫る熱々の鍋にいったん投入すれば後戻りは許されない。
昨夜はその激しさを心身が欲していたのかもしれない。

僕は家族の数だけひたすら鍋をあおった。
あまり焼きめしを好まなかった父のことを少し思い出しながら。

立ちのぼる湯気、鼻腔をくすぐる焦げ醤油の香り。
塩と醤油だけでこの旨み。

熱々の焼きめしを平らげ、ようやく少し肩の荷が下りた気がした。

(2024/5/2記)

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