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それは予備校に定価で行くようなものだ

家の近所に激安のドラッグストアがある。
規模はそれほど大きくないが、大阪資本のチェーンだ。
付近には全国規模のドラッグストアがいくつかあって、商品はまったくもって競合しているが、それらのどこよりも安い。
しかし今どき珍しいことに、支払は現金のみでポイントカードもない。

その店を初めて利用したとき、カード使えますか? 電子マネーは?とレジで訊いてみたのだが、そのいずれも答えはNo!でびっくりした。
しかしその後に続いた店員の言葉に納得した。
「その分、うちはどこよりも安くしてますんで」

そして僕は、高校の卒業式の日を思い出した。

式がお開きになった後、学年主任がこう言った。
「入試が振るわず浪人する者は、予備校に定価では行くな」と。

予備校は、次年度の合格実績をあげるため優秀な浪人生を集めようとする。
その手段のひとつが授業料免除。
優秀な者は特待生となり、授業料免除がプレゼントされるのだ。
特待生は1年間、1円も払わず人気講師の講義を受け、希望する難関大学へと巣立っていく。
当然、特待生の授業料は他の生徒が支払う授業料からまかなわれる。

高難度の予備校にギリギリで入って他人の授業料を負担するほどバカな話はない、それならランクを下げて自分が免除される側になれ、ということだ。
費用面だけでなく学力的にもそれが適正であり、長い目で見てそのほうがよい結果を生むと学年主任は伝えたかったのだろう。
特待生ってえぇよなぁくらいにしか考えていなかった高3の僕にとっては、社会の成り立ちを考えるひとつのきっかけになった。

30年もの時を経て、ドラッグストアでその話を思い出した。

カードやQRなどのキャッシュレス払いには数%の手数料がかかるが、これは原則として客に転嫁できず店が負担する。
そらそうだ、カードで払うと高くなるなら誰だって現金にするし、それではカード会社は商売あがったりなので、手数料は店負担と決まっている。
そうであっても、店としては支払方法を複数用意することで客の利便性を高めることを優先せざるを得ない。

しかしそれで店が潰れては意味がないので、販売価格を数%高くする。
つまり、キャッシュレスの客のために発生する店の手数料を、現金払いの客も間接的に負担していることになるのだ。
ポイントカードでたまる1%も、結局のところ販売価格に転嫁されている。

キャッシュレスが可能な店で現金払いにすること、ポイントがつく店でポイントカードを出さないこと、それは予備校に定価で行くようなものだ。
冒頭に書いた、現金オンリーの昭和なドラッグストアが最も公平かつ安価であることは疑いようもない。

(2023/3/15記)

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