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オペラを中心に、クラシック音楽界隈で仕事をさせていただいています。どうぞよろしくお願い…

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オペラを中心に、クラシック音楽界隈で仕事をさせていただいています。どうぞよろしくお願いします。

最近の記事

120%のラブストーリー〜METライブビューイング「ロメオとジュリエット」

「世界の誰もが知っているストーリーであること」 この3月、ニューヨークのメトロポリタンオペラで、グノーのオペラ「ロメオとジュリエット」のロメオを歌ったフランスのテノール、ベンジャマン・ベルナイムに、このオペラの魅力を尋ねたところ、まず返ってきた答えがそれでした。  「たとえば『トゥーランドット』にしたって、タイトルは有名かもしれなけれどみんなストーリーは知らないですよね。『ロメジュリ』はみんな知っている。それは強い」   ふーん、そういうものか。なるほど。 その場では、そ

    • 甦りの朝

      叔父が逝きました。 95歳。二年前に98歳で逝った父もそうでしたが、大往生だったと思います。そして、人生を生ききった、とも思うのです。 叔父は牧師でした。東大を出てから神学大学で学び直し、鎌倉の雪の下教会などいくつかの教会で牧師をし、合間にはハイデルベルクへ留学、その後もドイツの大学で短期間たびたび教鞭をとっていたようです。本もたくさん出し、説教もうまく、たびたびラジオなどもにも出ていました。最晩年、家から出られなくなっても、教会のお仲間に支えられてオンラインで講義をし、本

      • 五十人の壁

         久しぶりに、ニューヨークに行ってきました。  アメリカ第一のオペラハウス、メトロポリタンオペラで、「運命の力」(新制作)、「ロミオとジュリエット」というオペラを見るのが第一の目的です。公演のレポートなどは、「モーストリークラシック」という媒体に書く予定です。  劇場まん前のホテルをとり、ほぼ劇場とホテルの往復しかしない日々でしたが(歌手へのインタビューも劇場内のプレスルームだったりしたので)、貴重な、何物にも代え難い日々でした。  基本的に怠慢なので、多くの友人知人のように

        • 20世紀イタリア・オペラの最後の大歌手〜レオ・ヌッチ バリトンリサイタル

           今年82歳のイタリアのバリトン歌手、レオ・ヌッチは、間違いなく、20世紀のイタリア・オペラの偉大な時代の最後を飾る歌手、だと思います。昨年末、イタリア・オペラがユネスコの「無形文化遺産」に登録されたというニュースがありましたが、「無形文化遺産」の表現にもっとも相応しい現役の歌手はヌッチでしょう。  20世紀の半ばから後半にかけて、イタリア・オペラは名歌手をたくさん産み、世界を席巻していました。デル=モナコ、パヴァロッティ、テバルディ、、、かのマリア・カラスはギリシャ人では

        120%のラブストーリー〜METライブビューイング「ロメオとジュリエット」

          バリトン・フリーク〜最後の大歌手、レオ・ヌッチ

          男性のオペラ歌手で人気の声域といえば、なんと言っても「テノール」でしょう。通常の人間の声とかけ離れた高音は、それだけで魅力的です。   けれど個人的に好きな声域は「バリトン」です。高い「テノール」と低い「バス」の中間(バスも好きなんですが)。バリトンは一番人間の声に近い、自然な声域だと言われています。だから心地よい、というのもありますし、役柄としても幅が広いのです。テノールは恋する青年役が多いですが、バリトンは悪人から父親、権力者まで、いろいろな人間タイプを演じられる声域です

          バリトン・フリーク〜最後の大歌手、レオ・ヌッチ

          魂に手のひらをべったりつけられる名作〜METライブビューイング「デッドマン・ウォーキング」

           これは、本当にすごい作品です。  鑑賞中、一瞬も目が離せませんでした。  METライブビューイング、シーズンオプニング(現地でも)を飾ったオペラ「デッドマン・ウォーキング」。アメリカの作曲家ジェイク・ヘギーの作品で、サンフランシスコオペラの委嘱で作曲、2000年に初演。以来、世界中で70プロダクション!上演されているという。現代オペラで最も上演回数が多い、というのも頷けます。  「デッドマン・ウォーキング」は、もともと、死刑囚と交流して、無罪を主張していた彼が処刑前に告

          魂に手のひらをべったりつけられる名作〜METライブビューイング「デッドマン・ウォーキング」

          18世紀パリの最高のエンタメ!ラモー最後のオペラ《レ・ボレアード》全曲日本初演の快挙

           ジャン・フィリップ・ラモー(1683-1764)は、フランス・バロックを代表する作曲家で、50歳を過ぎてオペラ作曲家として大活躍しました。  昨夜、そのラモーの最後のオペラである《レ・ボレアード》が、北とぴあ国際音楽祭で日本初演される快挙がありました。指揮はバロック・ヴァイオリンの大家としても有名な寺神戸亮さん、オーケストラと合唱は、北とぴあ国際音楽祭でのバロックや古典派オペラの上演のために結成されている「レ・ボレアード」(作品と同じ名前)です。  ラモーの《レ・ボレアー

          18世紀パリの最高のエンタメ!ラモー最後のオペラ《レ・ボレアード》全曲日本初演の快挙

          これは事件だ!〜全国共同制作オペラ「こうもり」

           野村萬斎は天才だ!  ただただ唸り続けた3時間。これほど「あっという間」だったオペラ公演も稀でした。    ヨハン・シュトラウス2世の大傑作オペレッタ「こうもり」。これが今回、全国の複数のオペラハウスが共同で制作する「共同制作オペラ」として取り上げられました。今回参加したのはびわ湖ホール、「共同制作オペラ」の発信元の東京芸術劇場、そして本公演を指揮する阪哲郎マエストロが山形交響楽団の音楽監督を務めている山形交響楽団が、山形のやまぎん県民ホールで上演する、合計3回です。  初

          これは事件だ!〜全国共同制作オペラ「こうもり」

          「コンセプトを持ち込むのではなく、シンプルな言語で語りたい」〜演出のピエール・オーディが語る、新国立劇劇場「シモン・ボッカネグラ」オペラトーク

           やれオペラハウスの引越公演だ、ウィーンフィルだベルリンフィルだとやかましい11月ですが、個人的にイッチバン楽しみなのは新国立劇場の「シモン・ボッカネグラ」です。ヴェルディのオペラの中でも3本の指に入るくらい好きなオペラ。それが新制作で新国立劇場初演、キャストもとびきりなら指揮は大野さん、そして演出は世界的に有名なピエール・オーディなんですから。期待するなという方が無理なのです。  昨日3日、新国立劇場のホワイエで「オペラトーク」が開催されたので行ってきました。これまた、大野

          「コンセプトを持ち込むのではなく、シンプルな言語で語りたい」〜演出のピエール・オーディが語る、新国立劇劇場「シモン・ボッカネグラ」オペラトーク

          「母と子の愛」で結ばれた対照的な世界〜新国立劇場「修道女アンジェリカ」「子供と魔法」

           新シーズンが開幕した新国立劇場。ちょっと前ですが、オープニング演目のプッチーニ「修道女アンジェリカ」、ラヴェル「子供と魔法」のゲネプロに行ってきました。大野和士芸術監督が情熱を注ぐ「ダブルビル」(2作を一度に上演)です。  2本立ての「ダブルビル」の狙いは、「一回で二度美味しい」。今回の2作は内容も音楽も対照的で、「二度美味しい」コンセプトにぴったりでした。成立時期は近いですが(両方とも20世紀前半)、オペラとしてのタイプも味わいも全然違う。そして舞台も!「母と子」の愛、と

          「母と子の愛」で結ばれた対照的な世界〜新国立劇場「修道女アンジェリカ」「子供と魔法」

          「ヴェルディの父」の刻印〜「二人のフォスカリ」「ルイザ・ミラー」、日本での稀な上演で考えたこと

          「ヴェルディの父」の刻印〜ヴェルディ初期2作、「二人のフォスカリ」「ルイザ・ミラー」、日本での稀な上演で考えたこと  ヴェルディの「初期」オペラは、不当に冷遇されていると思っています。  まず、どこまでが「初期」なのかという問題もあるのですが、私は初期は「レニャーノの戦い」まで、「ルイザ・ミラー」(1849)から「椿姫」(1853)までが「中期」だと思っています。いわゆる愛国的(本当はそうでもないんですが)な合唱が中心の勇ましいオペラ(全部がそうでもないんですが)とは一線

          「ヴェルディの父」の刻印〜「二人のフォスカリ」「ルイザ・ミラー」、日本での稀な上演で考えたこと

          「ドン・ジョヴァンニ」とは何者か

          数日前に、モーツアルトのオペラ「魔笛」について投稿しましたが、今日は同じモーツァルトのオペラ「ドン・ジョヴァンニ」について書いてみたいと思います。  1787年にプラハで初演された「ドン・ジョヴァンニ」は、1791年に初演された「魔笛」、1786年に初演された「フィガロの結婚」と並んで、モーツアルトの「三大オペラ」などと呼ばれ、共に絶大な人気を誇っています。    が、3作の性格は全く違います。「魔笛」は、モーツァルトも加入していたフリーメーソンの儀式と、流行のメルヘンを掛

          「ドン・ジョヴァンニ」とは何者か

          「2幕の大オペラ」の無限の可能性を引き出した名プロダクション〜METライブビューイング「魔笛」

           NY のメトロポリタンオペラの最新の舞台を映画館で見られる「METライブビューイング」。  2022−23シーズン10演目の最後を飾る、モーツアルトの「魔笛」(新制作)を見てきました。    素晴らしかった。今シーズンのライブビューイングのなかで文句なしにトップです。特にサイモン・マクバニーの演出は最高でした。これまで見た「魔笛」のプロダクションの中で一番です。    「一番」の理由は、やはり、作品の凄さをとことん分からせてくれたこと。これにつきます。    マクバニーは演

          「2幕の大オペラ」の無限の可能性を引き出した名プロダクション〜METライブビューイング「魔笛」

          台本を知るとオペラの見方が変わる!〜日本ヴェルディ協会主催 演出家岩田達宗講演会より

           所属している日本ヴェルディ協会の主催で、人気オペラ演出家、、岩田達宗さんの講演会を行いました。  題して「オペラ 台本の妙」。  むちゃくちゃ面白く、勉強になる講演会でした。目から鱗、の1時間半。  まず、日本人とヨーロッパ人の芝居には、根本的な違いがある。ヨーロッパの芝居の作り方は「行為」の積み重ねであり、油絵に似ているが、日本の芝居は「筋」が大事で、書道に似ている。ここがどうしようもなく違う!  「あらすじじゃないんです シノプシスなんです」  「幕、じゃないんです、

          台本を知るとオペラの見方が変わる!〜日本ヴェルディ協会主催 演出家岩田達宗講演会より

          半世紀の自叙伝〜池田卓夫「天国からの演奏家たち」

           今のクラシック音楽界でもっとも活躍しているジャーナリストのお一人、池田卓夫さんが、初のご著書を出されました。題して「天国からの演奏家たち」(青林堂)。博覧強記で社交家、原稿依頼が殺到している人気ジャーナリスト、音楽について書き始めて半世紀近く、というプロ中のプロの方が初のご著書、というのはちょっと意外です。    タイトル通り、もう旅立ってしまった名演奏家30名との交流を綴ったご本。著者は日本経済新聞の記者として長く活躍されたこともあり、インタビューの機会は多かったとは思い

          半世紀の自叙伝〜池田卓夫「天国からの演奏家たち」

          こわもてファルスタッフ・ファミリーはみんな食いしん坊!

           日曜日の夜はMETライブビューイングで「ファルスタッフ」。  いや、最高でした。演出も指揮も歌手も揃っています。歌手は個性的でチャーミングな面々が揃いました。    まずロバート・カーセンの演出。これはスカラ座などとの共同制作で、日本でもスカラ座の来日公演で披露されましたが、実におしゃれで気が利いていて洗練されています。設定を1950年代に変え、テーマは「食」。みんないつも何か飲んだり食べたりしているんですね。第1幕第2場はレストラン。フェントンはレストランの給仕をしていま

          こわもてファルスタッフ・ファミリーはみんな食いしん坊!