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おとなの社交場

地元駅のちかくに、前々から気になっているカラオケスナックHKがある。コロナの流行でどこもかしこも自粛モードだった時期も、そのお店は堂々と営業していて、日頃のお客さんが離れていくような様子はなかった。息子調べでは、「HKはね、お店が入っているマンション自体がHKビルっていってHKの持ち物だから家賃の心配ないんだよ、コロナとかも関係ないの」ということらしい。お客さんの年齢層は高めで、わたしのような40代ぐらいの中年層はまず見ない。最低でも60歳以上のメンバーで、男性も女性も、みんなお洒落をして集まっている。着物姿や毛皮のコートを着た女性、つばのあるきちんとした帽子をかぶった男性が駅から出てくると、行き先はかならずHKだ。午後の早い時間から夜まで営業していてそれなりに人の出入りも頻繁だが、苦手な人同士がバッティングしないようママがとりはからっているらしい(「〇〇さん大丈夫よ、あの人は夜に来るから、かぶらないようにしといたから」とかなんとか、ママが入り口で説明しているのを何度か聞いた)。

わたしはシニアたちがどんなふうに遊んでいるのか興味津々だ。あんなふうに通い慣れた空間が、そして気の置けない交友関係があることがなんだか羨ましい。自分は果たしてあの年まで元気に生きて活動しているものだろうか。そのとき世の中に、自分のようなものを受け入れてくれる空間がまだ存在しているだろうか。

駅の反対側の出口には、ここらへんの雰囲気に似つかわしくないちょっとスノビッシュなスタンドバーができた。いまのところ、中で飲んでいる客をみたことがない。近くで働いているおっさんたちは、節約のためにコンビニで酎ハイを買い、あろうことかバーの前にたむろって外飲みをしている始末なのだ。わたしのようなのが飲んでいても外から丸見えなので「〇〇くんちのお母さんが酒飲んでる〜」と噂になってしまう可能性がある。お洒落だが、どうにも使えないバーなのだ。それと比べてHKはほんとうにうまいことやっている。自分が若輩者で入店できないのがほんとうにくやしい。今年はわたしもお気に入りのスナックを作りたい。そのためには、まず、気に入られるお客さんにならなければダメなのだが。


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