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魔除けと馬と百鬼夜行

 一月末日。横浜にある馬の博物館が改修のために一時休館することになった。
去年の夏に岩手県遠野を旅行した時からじんわりと「馬…いいわあ…」と馬好きになっていた私は、休館前のすべりこみで横浜に行くことにした。
 コンタクトを切らしていたので眼鏡で黒いダウンジャケットを着こんで鏡の前に立つと、肥満体系とも相まってバキバキ童貞ことぐんぴぃ氏にしか見えなかった。
 バキ童を体現してもしょうがないので、ウール素材のロングコートに変えて東京に行ったのだが結論としてクソほど寒かった。
 なんでちょっとおしゃれ心だしちゃったんだよ誠に遺憾。

 地元駅についてまずは「休日おでかけパス」2720円を購入します。東京中心に関東近郊のJRの駅が乗り放題になるチケットです。
 例外的に東京モノレールとりんかい線も使用できるので、普段はビックサイトで同人誌を売りに行ったり買いに行ったりするのに使ってました。

 電車に乗り込み、まずは新宿を目指します。
 湘南新宿ラインを使いたかったのと、文化学園服飾博物館で行われている「魔除け」の展示を見たかったからです。
 行く前から新宿駅の甲州街道口が分からす彷徨う羽目になり早速時間を30分ロスした。新宿駅で迷子になるのはメガテンやってる時だけでいいんだよ。


中は撮影禁止

 展示室は照明が落とされた空間が広がっていた。入ってまず目に入るのはインドの結婚衣装。
 カラフルな刺繍は吉兆や魔除けのモチーフがびっしり。特に目を引いたのは小さな鏡片をがスカートを一周、二周、と飾られてる様だ。
 鏡片の他に銀貨などの光を放つ素材は「邪眼」といって嫉妬ややっかみをの込められた視線から身を守る性質があると考えられていたのだそうだ。
 …まあ、そういった視線を怖がっていたということは、権力のために他人を蹴落としてきた自覚はあるってことだよね。
 財の限りを尽くしたゴテゴテのドレスは綺麗だな~とは思うけど、背景にあるのは美しさだけではない。

 入口にあったのは結婚式の装束だが、展示室は赤ん坊や子供を対象とした衣装が多数を占めていた。
魔除けの対象も一気に病気やケガなどをしないように、という祈りや子供が健やかに育つように、という願掛けのモチーフが増えてくる。
 展示の中頃まではインドやアフリカ系のものが多かったが、ここにきて日本の子供に対して施していた魔除けが登場する。
 「背守り」といった着物の背中に縫い付けたお守りなのだが、パッと見はしつけ糸を抜き忘れたようにしか見えなかった。
 昔の人は「目」に魔を退ける効果があると信じていて、着物を作る時の「縫い目」と魔物を監視するための「目」を掛けたらしい。
 ダジャレかよ!となるが、入口で見てきたゴテゴテの魔除けはいわば権力者が親族のためにほどこしたものだ。
 こちらは庶民ならではの魔除けの知恵だろう。きっと私の先祖もこういったものを子供の着物にほどこしていたのかもしれない。

 展示の後半に差し掛かると、魔を退けるものから魔を纏う装束へと形を変えていく。
 魔を纏うことによって魔を制す、という考え方らしい。勇ましい虎や蛇、龍などの意匠が増えていく。
 特に多かったのだが百歩蛇という名の毒蛇。その名の通り凄まじい毒性を持ち、百歩歩くうちに死んでしまうほどらしい。
 そんな蛇を取り入れたかと思えば、毒性をものともせずに毒蛇を食べてしまう孔雀をモチーフにした衣装もあったりして滅茶苦茶だった。
 文化学園服飾博物館は初めて訪れたのだが、バキ童ファッションで歩き回っているくらいにファッションに疎い私にもとても興味深い展示だった。
 迷子にさえならなければ新宿駅からすぐの所にあるし、また面白い展示をしていたら見に行ってみたい。


おみやげに買ったポストカード、刺繍が細かい

 新宿駅から湘南新宿ラインに乗って横浜へ。30分くらい乗車した後に今度はバスに乗って根岸の馬の博物館へ。
 バスでの道のりは坂がやたらと多く少しばかり車酔いをしたが、降りてすぐに快晴の空と降り注ぐ冬の柔らかい日差しに迎えられた。
 門を潜ると博物館とポニーセンターの分かれ道が出現。ポニーの放牧は15時半までなので、先にポニーセンターに行く。


ご長寿ポニーはポカポカの冬日を浴びて微睡んでいるようだ。


 元気に草を食み、馬場を駆け回る与那国馬。
 隣で一眼レフを構えた女性がいたせいか、係員のお兄さんが人参を持ってベストショットを撮るために誘導してくれた。
 おこぼれに預かり与那国馬撮りまくり見学しまくり。馬が良かったのは勿論だが、近所の人たちが犬を散歩をいたので犬も沢山見ることができた。

 次は待望の博物館へ。日本初の競馬場があった縁でつくられた博物館だから、競馬関連の資料が中心なんだろうな~と思っていたがとんでもなかった。
 確かに一階は西郷隆盛の弟が馬主を務めていた「みかん号」が優勝した時のエピソードや競馬場関連の展示が多いのだが、地下一階に降りると馬の博物館の名にふさわしい馬ならなんでもアリのコーナーが広がっていた。

 狩野派が手掛けた金屏風から巨大な馬の埴輪、象牙で作られた馬の根付、ドッチボール大のクソデカ胆石などが目白押しだ。
 写真撮影禁止の展示会なので写真などの証拠は何も持っておらず、夢なのかもしれない。
 原寸大の騎馬と跨る武者の模型、岩手県遠野から移築した曲がり屋。普通の展覧会ならメインになるような品々が所せましと並んでいて、情報量の多さにクラクラした。

 入場料が普段の倍とるだけあって(と、いっても200円)めちゃくちゃ豪華な展覧会だった。
 改修工事が終わった際にはまた是非見学しにいきたいと思った。


 休館二日前とあって入ってくるときには在庫があったおみやげがほとんど完売していた。
 図録一冊とポニーたちへの募金だけして博物館を後にする。バスに揺られて再び横浜駅へ。
 水木しげるの百鬼夜行展を見に来たのだが、百鬼夜行展はそごう横浜の開店時間に合わせて営業しているので20時まで見ることができる。
の、で。
ここで昼飯兼夕飯を摂ることにした。


 杵屋のざるうどんと鯖寿司のセット。
 ノートを書くために杵屋のHPを見たら鯖寿司乗ってなかった。横浜店の限定鯖寿司なんだろうか。
見ての通りだが鯖寿司が食べたくて頼んだんだけど、鯖寿司六貫のセットにすると好みじゃない鯖寿司だった時に困るからうどんも付けた。
 結果的にはこれは良い選択だった、こんなに肉厚で脂ののった鯖寿司なのに自分の好みじゃなかったからだ。
 私が好きなのはバイトをしていた事がある「はま寿司」の焼き鯖寿司なんだけど、現在は提供されていないのよ。
刻んだガリの入った酢飯で握った鯖寿司が好きなんだけど、今回食べた鯖寿司はそれがなくてプレーンの酢飯だったのだ。
 それが普通だと判ってはいるんだけど、私はあの薬味ゴリゴリの鯖寿司が好きだったんだなあ、と再認識した。
せめて醤油とワサビがあればよかったんだけど、それがなかったからなあ。

 うどんはつきたてのおもちのような、もちもちふわふわとした食感だった。
 ごまだれと牛のしぐれ煮?が付いてきて味変し放題。しぐれ煮が美味しくて一緒に頼んだレモンサワーが進みました。

 食事を済ませて、百鬼夜行展へ。
 ほとんどが撮影禁止のスポットなのだが、中は子なき爺や砂掛け婆といった鬼太郎レギュラーの等身大の像が沢山並んでいる。この二人は思ったよりも小さい。
 先日水木しげるのお弟子さんこと村澤昌夫の「水木先生とぼく」というタイトルのエッセイコミックを読んだのだが、その中に延々と点描を描かされたというエピソードがある。
 その点描を初めカケアミや、笹の葉っぱ一枚一枚を繊細なタッチで描いた原稿を目の当たりにすると感嘆のため息とも作業量の多さに対する悲鳴とも付かない声が出てしまう。
 周りの似たようなオタクと思わしき人たちが「これトーンだろ?」「いや手描きだよ…」と畏怖の声をあげていた。わかる。
お化けが怖いと泣く子供たちとは違う意味でオタクは怖いよな、これ。


ぬりかべの目が動くたびに子供が泣いてた

 お土産にコミック柄の手ぬぐいと透明ポーチを買い、かしゃどくろの限定紙袋をゲット。
 帰りに家族へのお土産に売上金が能登地震の義援金になると書かれた横濱ハーバーを買って帰る。
 名前は聞いていたけど、初めて食べる横濱ハーバーは栗のペーストが入っていておいしかった。


横浜駅ビルで買った台湾胡椒餅とうずまきクロワッサン

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