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ツインレイ?の記録25

五月十日
その日は第一回目の学生の家庭教師の日だった。
それは彼の部下の日で、彼の家庭教師担当の学生は都合が悪いからできない。

当日、彼の部下に連絡をしたところ、そのタイミングで彼から連絡がきた。
先日もそうだったが、ちょうど思い出した時や彼に関わる何かについて別の人とチャットしている時など、同時に連絡がきたりする。

夕方さらに彼から連絡。

部下の授業をお願いしますということと、今日はホテルの会議室でおこなうので、改めて予約状況を確認したとのこと。
利用は問題ないとのことだった。
彼のことだから会議室の確認や部下の様子を見に来るなどで、一目でも会えるかと思ったけれど、その日は体調が悪いようで、胃腸薬を飲んで寝るということだった。
そしてまたいつもの
「体調回復が遅いです。ほんと歳です」
という言葉。

毎回思うけれど、私が年上だとはきっと思ってないのだろう。
年を取ったことへの嘆きが多い。

私はこれに対して、42は男の厄年だから体の変わり目なんですよ、そのうち落ち着きますよなどと適当なことを返したが、またしてもこれに返事はない。

そして部下担当の女子学生とその友達と一緒にホテルへ。

ホテルは思ったよりも豪華というわけではなく、それが私には意外だった。
まあ、それでも場所はどこに行くにも便利な場所にあり、田舎のホテルとしてはやはりいい方なのだと思う。

彼の部下はロビーで待っていたが、会議室が使えるようにはなっていないようだった。
この国ではよくあること。
彼は慎重に当日確認していたようだが、日本とはちがうので、その時になってみないとわからない。
そして部下は彼に電話をした。
私は具合が悪いと聞いていたので、「寝てるんじゃないですか?」と言ったが、部下は「こんな早くに寝ませんよ」と答える。
そして彼は電話に出て、私は受話器の向こうに彼がいると思うだけで、息をひそめて声だけでも聴けないかと思ったりもした。
でも彼が来るということもなく、私は学生にフロントに会議室を開けるように言わせ、なんとかなった。

そこには社長椅子のような椅子がいくつもあり、私はそれに座って子どものように遊んでいたのだが、壁にぶつかり、部下に壊さないよう注意される。
さらにお茶がわかせるようになっていたので、ペットボトルの水を入れてわかすと、水は自動で入るようで、あふれそうになりあわてた。

その間、部下と女子学生は二人で勉強を始めていた。
私は彼に口を挟まないよう事前に言われていたため、おとなしくしていたが、これがかなりストレスだった。

というのも、この部下もなかなか優秀で、発音に関しては私よりもいい。
事前準備もあったようで言語知識もあり、優秀な人との差が思い知らされた。一緒に練習したかったが、おとなしくしていた。

そしてこの部下以上に彼がすごいということを改めて知らされる。
彼は29歳ですでに管理職だったということで、人に教えるのが抜群に上手いのだという。容姿も優れているので、まさに完璧な人だと、私を紹介してくれた部下に続き、こちらの若い部下も彼を絶賛する。

そういうことを聞かされると、やはり自分とは世界がちがいすぎて、ツインレイと思ったのも何かの間違いだろうという気にもなってくる。

彼は私を優秀だとほめるが、私はそれほど優秀ではない。
学歴も経歴も何もかもちがうし、そもそも日本社会からとうにドロップアウトしているから、こんな異国の辺境の田舎にいる。

はっきりいって私は一流企業のエリートみたいな人たちが苦手だ。
私の友人知人はアカデミック関係者も多く、学者や博士が多いが、そういう人たちは男の場合、わりと奇人変人が多くて、なんとなく自分と親しみがあったりもする。

でも彼や部下のような人たちは、なんていうか、実は苦手だ。
向こうにとって私は珍種というか、この時も部下と女子学生が話している時、学生が自分が知っている日本人の中でも先生のような人はいないと言っているのに対して、部下が「そうですよね」と言っている。

まあそもそもこういう人たちと私は価値観も生き方も違うし、本当にこんな辺鄙な土地で日本人が三人しかいないという状況でもなければ、出会うことすらなかっただろう。

本当に価値観がちがいすぎる。

それを思い知らされたのが、その二日後の彼との会食だった。

この日、私がやらかしたことが、彼にとっては致命的な失態であることをこの時はまだ知らなかった。

最初から暗雲立ち込めた会食は、心に嵐を呼び起こし、それはまだなおおさまらず、今も苦しく胸が痛い。


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