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【10回連載小説】タケルとスミカ(9)

「タケル、食べながらでいいんだけど、ちょっと、聞いて欲しい事がある。」
「何だよ?聞くだけ?」
「そう、聞くだけでいい。あのね、私のカテキョーのバイト先で一緒で、この大学の子が二人いるって、前に話したじゃん。」
「ああ、聞いた事あるな。二人とも文系だろう?」
「そう、ユミちゃんとミクちゃんって言うんだけど。二人がね、タケルがカッコいいって言ってんだよ。」
「カッコいいって?ヤバいじゃん。二人とも、可愛いんかなあ?」
「ユミちゃんは、美人だけどケバい。ミクちゃんは、どこにでもいる感じ。」
「そうかあ、ユミちゃんって、会った事、あるっけ?」
「遠くでね、バイバイって、手を振った時に。」
「ああ、俺らが帰る時?」
「そう、私と一緒に校門出た時に、たまたま、二人が通りがかってね。」
「そうか、じゃあ、殆ど、会ってないに近いんだな。で、会わせてくれるの?」
「そう来ると思った。だから、聞くだけでいいって言ったのよ。私さあ、二人から、タケルに会わせてって、言われてるんだけど、正直、二人とも、タケルに会わせたくないんだなあ。」
「え?何で?会わせてくれたらいいじゃん。何で、会わせないの?」
「タケルが免疫がないからよ。ユミちゃんは、確かに美人だけど、スッゴイ性格悪いし、ミクちゃんは、お酒が好きで、ムッチャ飲む。で、酔っ払うと、スゴイ泣き上戸なんだよ。」
「泣くの?そんなの見た事ない。」
「ワンワン泣くの。それもずっと。長い時は1時間以上。」
「ヤバいね、それ。でも、ユミちゃんは、会ってみたいんだけど。」
「あれこそダメよ。アイツ、平気で二股とかするし、男の子に奢らせてばかりだし。あんなのタケルが引っかかったら、それこそ大変だよ。私、アンタのお母さんに叱られちゃうもん。」
「そうなの。まあ、仕方ないか。スミカがそう言うんじゃあ。でもさあ、スミカ、ちょっと、興奮しすぎだと思うよ。麺、食ってんのにさあ、箸、振っちゃって。服に汁、飛んでるぜ。」
「ええ!どこ?どこ、どこ、どこ?」
「左側。」
「あーーーー‼ヤバーい!この服、買ったばっかなのに。」
「俺のタオルハンカチ、濡らしてきてやるよ。すぐに拭かなきゃあ、しみになるぜ。」
「早く、早く、早く!お願い!これ、ちょっと、高いヤツなんだよ。」
「分かったよ。行ってくる。うわあ。」
「タケルも箸、飛ばしちゃって。あっ!タケルのシャツも汁、飛んだ!」
「うわあ、スプラッシュ柄だなあ。細かいけど。」
「早く、ハンカチ、濡らしてきて。」
「分かったよ。」
 
 
「やっぱ、完全にはとれねえなあ。」
「私、帰る。ねえ、タケル、一緒に帰ろう。」
「何で、帰るの?午後の講義、どうすんだよ?」
「心理学じゃん。松原先生、出席にそんなに厳しくないから、後で友達にノート借りて、レポート、ちゃんと出せば大丈夫だよ。」
「まあなあ。でも、何で、帰るの?」
「モチベーション、下がった。」
「スミカ、そういうとこ、あるよなあ。自分の思い通りにならない時に、必ず怒っちゃう。」
「ええ、そんな事ないよ。」
「でも、今、怒ってるだろう?」
「おこってない!」
「怒ってるよ。バレバレ。怒ってる目してる。」
「怒ってないって。」
「分かった、分かった。じゃあ、怒ってないでいいよ。まあ、いいか。いったん、帰ろう。俺も、ホントはこのパンツ、脱ぎたいんだよ。ふくらはぎの締め付けがきつくて。」
「よし、帰ろう。で、着替えて、二人で遊びに行こう!」
「遊びにって?」
「タケル、運転免許、取ったんでしょう?ドライブ、行こう。」
「ええ?ペーパードライバーなんですけど…」
「遠くじゃないよ。植物園まで。」
「えっ?家から歩いて行けんじゃん。」
「そこを、敢えて、車で。」
「まあ、いいけど。」
「じゃあ、早速、丼片してきて。」
「ええ?お前のも?」
「私、今、モチベーション、下げまくりだから。」
「ああん?まあ、いいや。片してくるよ。」

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