見出し画像

未来への一打


私はグループDで登場した新榮有理のかわいらしさに一目で魅せられた。

フォロワーさんから名前だけは聞いていたが、こんな選手が最高位戦にいるなんて知らなかった。私はさっそくXをフォローした。

新榮さんは結構、面白い人だった。


新榮選手はグループDを通過しているが、DAY8の#2のオーラスでは脱落まであと300点というところまで接近している。緊迫した戦いではあった。しかし私は緊迫をあまり実感できなかった。それには理由がある。

危険牌を通すときの判断の早さと涼しげな表情。そしてどこか楽しげな雰囲気。

その辺りかなと思う。さらっと打ってしまうので「えっ?今の危険牌だったの?」と後になって気づく。

新榮選手はその後順調に勝ち進みFINALを決めた。

その中のセミファイナルでの一打。緊迫感をうっかり見逃す私でも、流石にこの一打には気づいた。南2局、渾身のリーチを入れたラス目の廣岡選手。

そのリーチに対し、2着目の新榮選手もリーチで追いかけた。めくり合いに勝てばトップ抜けが見える。だが、負けたら脱落争いに巻き込まれる。リスクは少なくなかった。

両者、山2枚同士のめくり合いは、ほどなく決着。どこか当然のように新榮選手がこの勝負を制した。

強ぇぇ

私は驚愕した。そして試合後にもう一度驚愕する。

かわえぇ

実況席から「東海一の押し麻雀って言われてましたよ」と言われた新榮選手は「押し麻雀がんばりましたっ!」という回答をアクションつきで応じた。

可愛くて、強くて、おもしろい。

とんでもない雀士が出てきた。私でも分かった。

でも、FINALに向けて少し心配なポストもあった。


この際このおもしろい内容は置いておくとして、新榮選手は体調がどうも万全ではないらしかった。大丈夫だろうか。


FINAL当日

ルールは2試合合計の短期決戦。1試合目に新榮選手は積極策を採って主導権を握りトップを獲得する。

2試合目も序盤から優位に立ち、東2局。私は新榮選手の勝利はほぼ決まったと思った。

順調に辿り着いたテンパイをいったん崩し、高打点のメンホンをテンパイ。先制リーチの松田選手に続いて自らもリーチを宣言する。ここで引き勝てば勝負は決まる。これまでの流れを見れば流れは新榮選手。そう思った。

だがしかし、その直後にもう一人リーチで追いかける選手がいた。

木下 遥選手だ。

新榮選手がリーチを打ったわずか数秒後だ。木下選手が3人目のリーチで追いかけた。そして数巡後、2人を追い抜いて上がりきってしまう。

勝負所と踏んで手を組み直した新榮選手。しかし、木下選手も野生の勘とも言えるオリジナルな手順でテンパイに辿り着いていた。

その勢いは止まらない。直後に木下選手は親の役満をテンパイする松田選手に構わずリーチを宣言。それをも上がりきってしまい、とうとう新榮選手を逆転する。

新榮選手は続く親番でも危険牌を握らされる。しかし何とか踏みとどまった。

体調は大丈夫なのか。そんな心配もすっかり忘れてしまっていた。

逆転に次ぐ逆転。それを繰り返すほどに2人の戦いということが鮮明になってきた。

絶対に負けたくない

ここまできたらあと少し。そこにシンデレラの座は待っている。



そしてついに試合は決着する。

オーラス。親の新榮選手が4巡目にテンパイ。形も良くて打点もある。ダマで張って、出てきた牌を上がれば試合は終わる。そう思ったが、

新榮選手がとったのは最強の選択だった。

リーチ

新榮選手の打った牌は横に曲げられた。

その一打は厳しくもあり、非情でもあった。

私はその一打に今までの新榮選手とは違う何かを感じた。

簡単に引き下がれない木下選手から当たり牌は打ち出され、18000点の直撃。劇的な幕切れとなった。

ついに2年目の新榮選手が優勝をつかみ取った。


大会後も、新榮さんは最高位戦の実況やら雀荘のゲストやら、忙しい日々を送っている。

その笑顔に私たちファンはいつも癒やされている。



大会が終わって数日が経ったある日。私はいつもどおり、仙台の片隅で働いたいた。職場である夜の厨房でぼんやりと、最後のリーチのことを思い出していた。

試合を決める為だが、厳しくもあった。

まぁ、そういう一面もないと優勝できないよなぁ。

それはそうだ。

でも、もう一つ、その勝負に徹した理由を自分なりに考えていた。

木下選手は1試合目の東場に大きく失点しながら、最後には追いついた。そして新榮選手はその強さを認めていた。だから最大限の敬意を払い、リーチという形をとった。

そんなライバルストーリーを思い描いていた。

同じプロ2年目。最高位戦と連盟。違う個性と雀風を持ち、違う光を放つが、いずれの光も強い。

きっとこの2人はまたぶつかる。

それはどの舞台なのだろうか。私のような一ファンは、Mリーグの舞台を思い描いてしまう。

まだ見ぬ未来のライバルに向けて、自分というものを相手の心に焼き付けた。そう思えた新榮選手の最強の一打だった。



★最後までお読みいただき ありがとうございました★


文  のりべん
協力 まとや・さぬきち・たか



シンデレラファイト シーズン2 決勝4部作 完


木下 遥 選手

長谷川栞 選手

松田彩花 選手

新榮有理 選手 (本作)

よろしければサポートお願いします!