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17.「すみませ~ん!」は、Sorryか?

先日、クライエントと2人で1泊2日女子旅行に行きました。
日本語強化合宿として、平日にこんな旅行を組むことができるのも、フリーランス日本語教師ならでは…でしょうか。Wi-Fiとパソコンさえあれば、朝イチや夜の他のクライエントのレッスンもできてしまいますしね。

さて、宿に行こうと路線バスに乗ったときのことです。
その日は平日だったのですが、なんと乗客は外国人観光客ばかりでした。彼らは観光用の周遊きっぷを使っていたのですが、その使い方をよくわかっていない人も多かったようです。周遊きっぷの適用範囲外のところからバスに乗ってきたそんな観光客の一人が、降車時に周遊きっぷを使ってバスを降りようとして、若い運転士さんに呼び止められました。

問題はその運転士さんの呼び止めかたです。
「ソーリー!ソーリー!ソーリー!」

運転士さんが言いたかったのは、日本語の「すみません!」です。もちろん。彼は観光客の足を止めて、その人が支払うべき乗車賃を確認したかった。
でもね、その観光客は運転士さんを無視してバスから降りようとしました。自分が呼び止められているとは全く思わなかったんです。

日本語の「すみません」って色々と意味がありますよね。
今ぱっと思いつくだけでも3つ。
①自分が間違えたり、失敗したとき。
②他者に注意を喚起するとき。
③他者に質問や頼みごとをするとき。

運転士さんは②と③の意味で「ソーリー、ソーリー!」と言ったのでしょう。
道で人にぶつかったりして、英語で「すみません」って言いたいとき、「ソーリー」って言えばいいから、人を呼び止めるのも「ソーリー」でいい…とでも思って言ったんでしょうかね。

でもある言語のある単語と、別の言語の同じ意味と思われる単語がそれぞれもつ「意味の範囲」って、違うことが多いです。日本語の「すみません」と英語の「ソーリー」も、その意味が完全に同じなわけではない。

英語の「Sorry」って、話者が他の人に不便をかけたり、傷つけたり、がっかりさせたことを理解し、反省していることを表現することばです。自分に注意を向けてもらうために人に呼びかるための言葉ではありません。
謝るためにしか使わなくて、注意喚起には使わない…はず。

運転士さんは「エクスキューズ・ミー!」とか「ヘイ、ユー!」とか「ウェイト!」とかいうべきでした。呼び止められていた観光客は、運転士さんが別の乗客に大きな声で謝っていると思っていたのです。

外国語の意味を知るために辞書を調べると、その単語1つ1つに訳がついています。でも辞書って、見るべきなのは単語の訳以上に例文なんです。
単語を調べるときには、その単語がどのような文脈で使われているのかを必ず確認しなければなりません。そうでないと、先のバスの運転手さんのように、その単語を適切に使えないことがあります。

辞書なんて使い方を教えなくったって、誰でも言葉くらい調べられるでしょ?なんて思っていませんか。…いえいえ、辞書がどのように使えるかを学習者に考えさせることも、言葉を扱う教師の仕事です。忘れちゃいけない。

で、結局この観光客の問題はどうなったかって?
はい、私が通訳として運転手さんの横にしゃしゃり出ましたさ。
ボランティアで。


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