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テツガクの小部屋7 ゼノン②

ゼノンのパラドックスその他(多の否定・場所の否定)は
「テツガクの小部屋6」を参照ください。



運動の否定
(1)分割の問題
全コースを走ってゴールに達するまでには人はまずその半分を走らねばならない。この半分を走るにはさらにその半分を走らねばならない。さらにその半分を走るにはその半分というように、このことは無限に繰り返される。それゆえゴールに達するには人は無限の点を通過しなければならない。だが有限の時間内に無限数の点を通過することは不可能である。それゆえ人は決してゴールに達することはできない。

(2)アキレスと亀
アキレスが亀を追い抜くには、まず亀の出発した点まで走らねばならない。だがそのときには亀は若干前進している。したがってアキレスはさらに亀の前進した点まで走らねばならない。だがまたそのときには亀はさらに前進している。このことは無限に繰り返される。それゆえアキレスは亀に無限に接近しはするが、亀を追い抜くことは決してできない。

(3)飛矢の問題
飛んでいる矢は飛んでいない。なぜなら同一の場所を占めてるいる限り、物は静止している。飛矢も各瞬間には同一の場所を占めている。したがって各瞬間には矢は静止しているわけであり、それゆえ全体としても静止している。

(4)並動の問題
平行する三つの列があり、第一の列は静止し、第二・第三の列は互いに等しい速度で逆方向に運動しているとする。そうすると第二の列が第一の列のn個の点を通過する時間に、第三の列は第二の列の2n個の点を通過することになる。ところで速度が等しい場合には、運動に要する時間は通過した距離に比例しなければならない。ところが第二の列がn個通過した時間に、第三の列は2n個通過したのである。それゆえ2倍の時間がその半分の時間と等しいことになり、これは矛盾である。

これらの議論は決してまやかしと考えるべきものではなく、きわめて深刻な問題を含んでいる。前回書いたように、ゼノンの提出した議論はのちに、ベルクソン、アインシュタイン、ラッセルを巻き込んだ一大論争に発展した。

参考文献『西洋哲学史―理性の運命と可能性―』岡崎文明ほか 昭和堂

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