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【海外生活】海外で料理だけが自分の生きる術だった【カナダ】

第30回目は、カナダ、バンクーバーのJam Cafeでシェフとして活躍されているバルステロズ麻子さんにお話を伺いました。バルステロズさんは10代の時に飲食業界へ足を踏み入れてから今に至るまで、料理の世界で生きていらっしゃいます。料理人になった当時は女性のシェフもあまりおらず厳しい下積み時代も経験されて、今ではカナダのカフェレストランでマネジメントにも携わっていますが、そこで感じた働き方の違いや20年以上のキャリアがあっても謙虚に学び続けるバルステロズさんの生き方や想いを少しおすそ分けしてもらった記事がこちらです。

さまざまなバックグラウンドやキャリアを持つ人々が集まる町、カナダ・バンクーバー。そこで活躍する日本人の方々とこれまでのステップや将来への展望を語り合う「カナダ・バンクーバーの今を生きる日本人」。それではどうぞ!

プロフィール
東京都出身。19歳から日本でシェフとして働き、オーストラリアを経て29歳でカナダでの暮らしを始める。食べることや大切な人や大好きな友達と美味しい食事をしながら過ごす時間が大好き。今は子育てをしながら離乳食という新たなジャンルの料理を開拓中。


バンクーバーで超繁忙店のシェフのお仕事

写真提供@バレステロズさん

——バンクーバーで大人気のJam Cafe。あそこはいつみても大盛況ですよね。私は土曜日の昼間にダウンタウン店の横を通ることが多いんですが、若者がすごい行列を作っていますね。

おかげさまでありがとうございます。1時間〜1時間半待ちは結構ありますね。

——麻子さんは別の店舗でシェフをしていらっしゃるんですよね?

そうです。Jam Cafeでシェフをやっていて、店舗がオープンした時から働き始めたのでオープニングスタッフでもあります。私はキッチンのマネジメント全般を管理していて、オープン当時はシェフもみんな男性だったんですけど、男性、というか若い男の子になると片付けや在庫管理も結構ゆるかったんです。そんな時にオーナーからそういう管理や教育もやってくれないかというお話をいただきました。ヘッドシェフやスーシェフとは別に私はキッチン内のマネジメント管轄で全てのオーダーと在庫、あと仕込み管理を任されています。もう4年程になりますね。

——キッチンにも入っていらっしゃるんですよね?

はい、キッチンにも入っています。でもカナダの場合は、仕込みするところとオーダーを作るところが分かれているんですよね。だから日本みたいに自分の調理台でオーダーしながら仕込みも同時に、ではなく基本的には仕込み全般に携わっていてヘルプでラインに入ることがあるという感じです。

——営業日の仕込みって何時からですか?

Jam Cafeはオープンが朝8時なんです。うちは朝ご飯とランチをやっているんですが、キッチンは7時に出勤して3時にお店を閉めて、そこから片付けをして3時半には職場を出ますね。食材を持ってくる業者さんは朝早くにいらっしゃるので、私は6時半にはお店に入って業者さんへの注文や食材を確認して、シェフがキッチンに入ってすぐに仕事が始められるように準備します。

——マネジメントする立場でいらっしゃるわけですが、麻子さんの中でもやっぱりキッチンの中を管理するにあたって、理想の動き方があると思うんです。それってカナダのシェフ達には伝わるんですか。

伝わるか否かと言うより、文化的な違いを感じます。私は日本でも飲食を経験していますが日本の場合は細かなお店のルールがあって、例えば玉ねぎ一個でも「これはこの切り方で」のようにルールが細かくありますし、そのお店もしくはレシピに従うことに慣れています。でもカナダの人と働いてみると、「味がおいしければ、別にそこに行くまでのプロセスは全然自由でしょ。」という感覚の方も多い。そうすると人によっては味がぶれることもあるので、マネジメントする私としては調理工程やプロセスもしっかり統一したいんですけど、個人のやりたいようにやらせてみる、もしくはゴールさえ決めればあとは多少ずれても大丈夫のような雰囲気はありました。それでも私はそこにもこだわりたくて、決められたレシピと味があってそれがぶれたらJam Cafeじゃなくなってしまうのになと思いますが、ヘッドシェフに「いや少しぐらい大丈夫だよ、働きやすさ重視でやろう」って言われたりします(笑)

——「少しくらい」も人によって裁量が全然違いませんか?

私からしたら全然「少し」じゃないんです。(笑)そうすると日本人のシェフが1人ですごくカリカリしてるという風に見られるのでそこが結構やりづらいなと思う反面、でもこれは私達が学んでいかなきゃいけない部分なのかなとも思っているんです。私のやり方とは違うからといって、頭ごなしに「その人は仕事できない」というジャッジをするべきではないのかなと思います。昔、日本で働いていた時はそういうジャッジをしていた時期もあったけれど、この子にはこの子なりのやり方があるんだなと否定より理解しようとするようになったので、それは4年をかけて私の中でも視野が広がったかなと思います。
そういったことをきっかけに、多分子育ても同じなのかなと思ったんですよね。そのときはまだ子供はいませんでしたが、例えば子供ってやっぱり思い通りにはならないじゃないですか。でもそこで親が「これはこうじゃなきゃ駄目だからこうしなさい!」というのは良くないなと思って、シェフ達はみんな25歳以上なんですけど子供を見守る感覚で否定せずに伸ばしていくというのを学びました。ストレスになることもありますけどね(笑)

——私も不動産会社で管理する役職を任されていたので共感できるのですが、マネージャーは社員を信じて挑戦させてということが求められますよね

わかります。上司からすると失敗する前に防ぎたいんだけど、文化として失敗からじゃないと学べないという考えを持っているから失敗させてあげることが求められるんですよね。

——あとはカナダはしっかり分業が進んでいるので、例えば日本の感覚で「あなたは今忙しそうだからあなたのタスクをついでに1つやっておいたよ」となると人によっては仕事をとられたと思う方もいるわけです。その場合は、事前に確認せずにコミュニケーションをスキップしたことが問題なんですけど、要はあなたの仕事は他にちゃんとあるよねという考え方もあるので、国が違えば働き方や上司の考え方も違いますよね。

日本にいたら感じなかったこのちょっとしたストレスももちろんありますし、反対に良い時やカナダのこういう感じが好きだなと思うときもあります。これはやっぱり移民して感じることですよね。


料理のきっかけは失恋?

写真提供@バレステロズさん


——料理の道にはどういったきっかけで?

料理は高校生の時にすごく好きだった彼に振られて、それをおばあちゃんに言ったら「そういうこともあるよ。でも一つだけ料理を頑張りなさい。家庭で美味しいご飯が出てくると、男の人は絶対に家に帰ってくるから」とアドバイスをもらって(笑)そのときは傷心しているからこれは料理しかないと思ったんです(笑)なんて事ないおばあちゃんの一言と料理が元々好きだったこともあって、料理もっと頑張ってみようかなって思ったんですよね。それでお金も稼げて男も捕まえられたら一石二鳥だと10代の時に思いました。最初はサーバーとかアルバイトで働いてたんですけど、キッチンの仕事がかっこいいなと思いましたし、当時の地元には女性シェフがいなかったのでフライパンを女の人が振っていたらかっこいいよなぁっていうのが10代の時ですね。

——そのほっそりとした腕で大きな中華鍋を振るんですよね。
力だけではなくコツもあります。もうこの業界に入って気がついたら20年ぐらい経っています。

——きっかけは何にせよ、20年近く料理人を続けてこられた理由って何だと思いますか?

私が初めて社員として就職したレストランはすごく忙しくて、その当時ってモラハラ、パワハラもまだ全然騒がれていない時期だったし、シェフも「俺は殴られて育った」みたいなタイプの方が多かったです。その時代に入った私も案の定すごくコテンパンにやられたし、ついさっきまで学生で好きだけでやっていた料理がいざプロの世界に入ったら全然通用しなかったんですよね。あとは私生活でも色々と重なって具合が悪くなってしまったんです。病院の先生にも、今の環境にいると悪化しちゃうからもうやめた方がいいよって言われたけど私は結構負けず嫌いで、これで料理を諦めてそれで男も諦めたら幸せな将来設計がダメになっちゃうと思ったんですよ(笑)そこで料理はサンドイッチを作るとかそんなに大変じゃないレストランから復帰し始めたんですけど、それ以外にもいろんな要因が重なって最終的には日本から出たいなと思って海外に行くことを決めたんです。
そうして海外に出てみて、一番何が通用するかというと料理だったんです。料理ってどこでも通用するでしょう?海外で一番最初にお金を簡単に稼げたのが料理で、自分が負けず嫌いだったこともありますけど、でもたぶん料理しかなかったんだと思います。海外で自分の力で生きていくために必死で、お金を稼ぐにもパソコンは苦手だったし、他の業界に入るのが怖かったんだと思います。また1から違う業界に入って、最初のレストランみたいに怒られて自分を否定されたらどうしようっていうのも怖かったですし、料理にしがみついていたとも言えるかもしれません。

——おばあさまの教えもしっかり守っていますね。

うちのおばあちゃんは今の歳になっても孫たちが喜ぶように飽きないようにいろんな料理にチャレンジしていて、日本でアボガドが出始めたときに真っ先に手を出したのもおばあちゃんでした。私も食べたことがないような創作料理で生春巻きのアボガドが衝撃だったんです!いろんな食材にチャレンジしていてイタリアンやってみたいとも言っていたりとか。

——おばあさまも料理人ですか?

違うんです。でも料理が上手だったんですよ。昔から料理が上手だったし好きだったんです。そんなおばあちゃんの一言だったから私も信じてみようかなと思ったんですよね(笑)だから私自身も未だにいろんなレストラン行くようにしてるのは、やっぱり知らない料理を学びたいという気持ちがベースにあるからですね。

——先ほど「料理が上手」というキーワードが出てきたんですけど、麻子さんが思う料理上手とはどんなことでしょうか?

なんだろう、味や盛り付けが綺麗っていうのが一番最初に浮かんで、その後に手際の良さとかも入ってくるんだと思うんですよね。だけどやっぱり、お客様の元に料理が運ばれてきてテーブルに並んだ瞬間、その料理を見て美味しそうかどうかの第1印象が一番大きいんじゃないかなと思います。だから味と見た目はすごく重要な要素だと私は思います。

いろんなシェフがいる

写真提供@バレステロズさん

——料理に関わる中で麻子さんが一番楽しいなと思う瞬間は何ですか?

作るのはもちろん楽しいんだけど、何か食べてもらったときに「これすごく美味しいからレシピを教えて」って言われるのがすごく好きです。あと、野菜を切るのが好きなんですよね。作業としてはすごく地味なんだけど(笑)ただ黙々と野菜を切るのが好きだったり手作業が好きなんですよね。ただ、私は味付けに才能がないと思いますね。

——そうなんですか?

これを入れるとこういう味になるっていうあの感覚がね、一番シェフに大事な感覚があまりないと思ってるんです。だから味付けに関してはレシピを叩き込んで100%忠実に再現できますけど、例えば自分の店を出して創作料理を作りましょうというのは無理だと思います。そこに憧れはありますけどね。他のシェフが手元にあるものでパパッと美味しいスープをまかないで作ったりすると真っ先にレシピを聞いちゃうんですけど、大体のシェフが適当なんでレシピはないですからね。だから、料理が苦手な人がよく言う「適当に入れてと言われても何をどんなバランスで入れていいかわからない」っていう感覚が私はわかるんですよね。自分のお店を開いたらいいじゃんとか小さいカフェならいけるんじゃない?とかって言われるんですけど、メニュー開発はできないと思っています。

——それに気がついたのはいつぐらいですか?

Jam Cafeに入ってからだと思います。もっと前から薄々は気づいていたんだけど、認めたくなかったんですよ、シェフだから。今の職場でみんながオリジナルのレシピに沿わなくなったときに、もちろんみんな腕はあるし大まかにはレシピに沿って作っているんだけど味の足し算・引き算や自分のスキルに自信があるからオリジナリティも少し加えていたりしているのを見て、レシピに沿って作るだけじゃ駄目なのかもしれないって思ったときに、私にはこの才能がないなと思ったんですよね。

あとはシェフと言っても、味付けがどんなに上手くても要領が悪かったりスピードが遅いと駄目だし、やっぱマルチタスクがかなり必要な職業なんじゃないかなって私は思うんですよね。

——自分の料理だけじゃなくキッチン全体も見なきゃいけないですよね。

はい、足並み揃えてお料理を出さなきゃいけないとこもありますし、だから結構シェフって大変な仕事なんじゃないのかなって私は思ってます。でもチームの中に要領が良い人がいて、味付けできる人がいて、そのチームでバランスが取れてればいいのかなとも思いますし、もちろんそれ全部が1人でできたら完璧だけど、チームで補っていければいいのかなって最近は思ってますかね。1人1人のスキルも大切でそれを磨くのはもちろんですけど、お客様に満足していただくためにはチームワークも大事だなと最近はより強く思います。

心から満たされる時間をもっと大切に

写真提供@バレステロズさん

——麻子さんはカナダにいらっしゃる前にオーストラリアにも2年程暮らしていらっしゃいますよね?

そうですね。

——それぞれの国の印象をちょっと教えていただけますか?

オーストラリアはやっぱり綺麗で気候も暑く、ワーホリの子はギャル、バックパッカーやヒッピーで陽気な子が多かった印象があるかなぁ。あとオーストラリアだと1ヶ所に留まる子が本当に少なくて、みんな移動しちゃうからとても密に友達になるというよりは出会って仲良くなって見送ってというのが多かった気がしますね。
逆にカナダに来ている子は、ずっとバンクーバーにいたり真面目で人見知りな子が多いというイメージはありました。あくまで印象ですけどね。それがすごく面白いと思って、オーストラリアはすごく楽しかったんだけど毎日パーティーしながら一生は過ごせないんですよ。カナダの方がちょっと堅実というか地に足がついてるタイプの子が多い気がして、自分ももうちょっと勉強頑張ろうかな思いました。気候はオーストラリアの方が良くてとても住みやすかったんですけど、でもなぜか私はカナダの方が好きだったんですよね。

写真提供@バレステロズさん

——そこは本当に人それぞれ相性がありますからね。

昔はそれこそクラブも好きだったし賑やかに集まるのも好きだったんですけど、インドアで手作りやものづくりをするっていうのも好きなんです。それを考えると、昔は周りの友達に合わせようとしていたんだろうなとも思うんです。だからオーストラリアにもすごく楽しい思い出がたくさんあるけど、カナダに来てからとても居心地の良さを感じました。あと、バンクーバーは雨が多いから家で料理を一緒に作ったり、ボードゲームやアートを描いたり作ったりしている子も多くて、「私はお酒を飲みながら絵を描くのが好きだから、今日は友達と会わない。」って遊びに誘ったときに断られたのがすごく衝撃でした。

——やんわり断るでもなく、私はしたいことがあるからってはっきり言うんですね。

感動したんですよ。その断り方も堂々とかっこいい感じで「今日は無理よ。私は私の時間を大切にしたいから。」ってカナダ人の子に言われて、自分らしく人生を楽しんでるんだな、きっと私もこうなりたかったんだなと思いました。30歳手前までは周りに合わせてパーティーに行って、楽しいけど疲れるしきついと思い始めたタイミングでカナダに来たので、暮らし方を変える良いきっかけになりました。

——最後に、3年後はどうなっていたいですか?

3年後ね、私は子供が生まれるまではすぐに仕事に戻りたかったんです。ずっと仕事一筋で生きてきた仕事人間だったんだけど、でも子供が生まれてから幼稚園に入るまでの数年ってこの一瞬しかないから、子育てに専念したいなと思ってます。それで私は物作りが得意だから、ベビー用品のビジネスを3年かけて細々とでも形にできたらいいかなと思っています。ゆくゆくは家で仕事ができて、子供となるべく長い時間を一緒にいられるのが理想です。もちろんキッチンにも戻りたいとも思うけど、正直体力的にもきつくなるタイミングが絶対に来ると思っていますから。それまでに自分のビジネスを拡大できたらちょっと嬉しいかなと思って、まず最優先は子育て、その後はデイケアを活用して自由な時間も持ちながら新しいことに挑戦したいなというのが今の目標ですね。

編集後記

バレステロズさんとは私が初めてカナダへ来てアルバイトをしていたレストランで大変お世話になり、今でも連絡を取る数少ない先輩の一人です。快活な声はよく通り、彼女がキッチンにいるととても雰囲気が明るくなります。働いていれば嫌なことの1つや2つあると思いますが、そういうのを全く表に出さずに積極的に声をかけてくださり面倒見も良く、賄いも美味しくて、もちろん厳しさはありましたが上司として一緒に働いて楽しいと思える方でした。
例えば「この人は何か嫌なことがあってすごく当たりがきつい」、つまり理不尽な対応をされると部下もその人についていきたいとは思わなくなります。でも自分のために言ってくれたんだなと思うと厳しいことを言ってくださる方の存在はすごくありがたいですし、この人についていきたい、もっと役に立ちたいと思うものではないでしょうか。若い時は上司の言うことに苛立ちを感じることもあったかもしれませんが、歳を重ねて自分がチームをリードする立場になって今までの先輩の厳しさやありがたみが改めてわかります。この場を借りて、バレステロズさんにも感謝を伝えたいと思います。

末筆ではありますが、この度インタビューを快諾してくださったバレステロズさん、本当にありがとうございました。

最後まで読んでいただきありがとうございます!!

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