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【海外生活】子供が楽しくコミュニケーションを学べる新しい習い事。インプロ(即興演劇)とは?【カナダ】

第28回は、カナダのバンクーバーを拠点にインプロバイザーとして活躍されている下村理愛さんです。下村さんはバンクーバーで劇団に所属しインプロショーの舞台に立ち、またプレイヤーへのコーチングや一般参加者向けにワークショップも開催されています。東京では仲間とIMPRO KIDS TOKYOを立ち上げており、即興演劇を通して自分らしいコミュニケーション、表現の自由や気持ちの受け取り方を子供達が楽しく学べるように尽力している教育従事者でもあります。そんな下村さんの生き方や想いを少しおすそ分けしてもらった記事がこちらです。

さまざまなバックグラウンドやキャリアを持つ人々が集まる町、カナダ・バンクーバー。そこで活躍する日本人の方々とこれまでのステップや将来への展望を語り合う「カナダ・バンクーバーの今を生きる日本人」。それではどうぞ!

プロフィール
・IMPRO KIDS TOKYO共同設立者
・Tightrope Impro Theatre Assistant Education Director
筑波大学大学院教育研究科に在学中、東京学芸大学高尾隆研究室にて演劇教育・即興演劇を学びながら、舞台出演・カナダやアメリカへの留学など精力的に行い、キース・ジョンストン10days、BATS Improv等のワークショップに参加。
大学院卒業後は株式会社LITALICOにて約4年間、発達障害のあるお子さんのべ3000人のレッスン・インプロクラスの立ち上げ・親御様向けレッスン等幅広く担当しながら、IMPRO KIDS TOKYOを立ち上げる。
2021年9月よりバンクーバーへ移住し、キース・ジョンストンの哲学を大切にしたインプロシアターであるTightrope impro theatreのキャスト・講師として活動している。


演出+演技を即興で全部やっちゃうインプロバイザー

写真提供@下村さん

——インプロはセリフがあらかじめ決まっていない中で、どうやって即興でシーンを作っていくんですか?

舞台上でセリフや設定が決まっていない中で、お互いのセリフやアクションを受け入れ合いながらシーンを作っていきます。キャラクターも自分の人生経験や想像から引っ張り出してその場で1から作っていきます。

——舞台に立っていらっしゃるときの理愛さんは、何をどのくらい意識してますか?例えば、プレイヤーとしての自分、演出家としての自分など。

観客でいる自分が30%・・・いや半分くらいかな。観客でいる自分が50%、演出家でいる自分が15%、プレーヤーとしての自分が15%ですかね。まず観客でいるというのは、今のシーンをお客さんは楽しんでるかどうか、特に舞台脇で見ている時はお客さんの表情や夢中になれているかなどを気にしています。

演出家としては、今お話に変化が必要だなとか、ただ喋ってるだけになってしまっていて関係性がクリアになっているかどうかなどに気を配っています。お話に必要な場所、キャラクターの関係性と目的が明確になってを見たりですね。一つ一つのシーンを作っていきながらその日のショー全体の構成も考えてシーンを即興で演出していきます。

——舞台ではどの瞬間が一番楽しいですか。いろんな視点をお持ちでいらっしゃるからこそお聞きしてみたくて。

私は観客のみんなと何か共感できてる感じがあると嬉しくなります。お客様から終演後に感想をいただく機会もあるんですが、皆さんからこの劇を見て自分の人生を振り返るきっかけになったり、シーンの題材がコメディやファンタジーだったとしても自分を投影してちょっと胸がキュッとなる瞬間というか、私もそんな時あったなぁと言っていただける時にはインプロをやっていて良かったなと思います。

実際、過去にショーで妊婦の役を演じましたが、楽しい瞬間だけじゃなくて例えば妊娠中はお腹も重たいし匂いに酔ってしまって外出できない、食の好みも毎秒変わって食べたいものも食べられない。こういった光が当たらないような細かな感情を舞台で表現しました。こんな風にインプロは即興でやることで実際に経験した人たちの思いに心を馳せたりとか、私たちが日頃目を背けがちなことにアプローチできるのかなと思います。そういう日常の一コマを演劇風にして共感できる人に共感してもらって、その感覚を知らない人にはこんなこともあるんだと知ってもらえるようなシーンが作れたら、インプロバイザーとしても嬉しいです。

——理愛さんが立つ舞台では楽しさだけじゃなくメッセージを感じるのですが。

はい、実は舞台上ではすごく敏感にやっています。例えば、女性プレイヤーの扱われ方です。医者と患者のシーンなら、私はなるべく医者として出るようにしたりですね。もし男性が社会的に優位であることが当たり前みたいな部分がもし現実世界にあるのであれば、そんなことないよというメッセージになりますし、男性プレーヤー2人が舞台にいてカップルのシーンをやるからといって、片方のプレイヤーをわざわざ女性に変えたりはせずにそのまま進めていきたい。実際にそういうカップルの形もあるわけですから。

即興でやるということは、自分の中で「当たり前」に思っていることが瞬間的に出るからこそ、何をどのように舞台で表現するか私たちのチームはとても気をつけていますね。

インプロは「演劇」の枠を超えてコミュニケーションのメソッドとして成立する

写真提供@下村さん

——下村さんはパフォーマーでもあり、同時に子供達にインプロを通してコミュニケーションの方法を教える教育者なのかなと思うのですが、ご自身ではどう思われますか?

私は自分のことをパフォーマー4割、教育者が6割という感じで考えています。なぜかというと、私はインプロを通じて、もしくは自分の活動を通じて自分らしく生きる人のサポートをしたいなという気持ちがあるんですよね。子供達のその瞬間の学びに柔軟に寄り添い続けるためには、ショーでやっている予想外を楽しむ感覚や些細な瞬間を見逃さないセンスがとても重要になってくると思います。

私がパフォーマンスをし続けている理由の1つは、教育者としてのこれらの感覚を身体に落とし込み続けるためでもあります。

——そもそも、理愛さんの中でインプロと教育が繋がるきっかけは何だったのでしょうか?

私は大学で教育を学んでいたのですが、大学4年時に学校訪問のタイミングでとある授業を参観したことがきっかけでした。その授業では国語の先生1名と現役の俳優さんが進行の下、20名ほどの学生たちが椅子や机のない空間で、自分の思う動きや表現をしていました。そこで学生達がその課題に取り組む姿を見ながら”自分が試したい表現を自分で選んでその瞬間にやってみれば、それを無条件で受け入れてくれる相手がいる”ということは実行決定や自己表現の核だなと思ったタイミングがありました。それで、そういうことを学べる機会を作れる先生になりたいと思ったのがきっかけです。そこから演劇教育を見つけて、のめり込んでいきましたね。

また、大学で出会った先生がすごく素敵な方で大学教授のイメージを覆してくれたんです。権威というものに縛られていた大学教授のイメージがそこで崩れて、私は教育に携わりたいけど、その先生のように格式ばらない、怖くない、安全な場を作る先生でいようという気持ちになったのを覚えていますね。

——今のお話の中で「安全」というキーワードが出ていましたが、それは何でしょうか?

安全という表現はインプロに影響を受けているんですけど、インプロには「Yes, and…」という考え方があって、相手が言ったことをまず一度「Yes」と受け入れる。そしてそれからandでシーンを作っていく。まず相手が受け取ってくれるっていうことを感じられることが大切です。あとは「Yes」だけでなく、遊び心を持って「No」も言える関係であることです。

私はインプロを通じて、学校では学んでこなかったコミュニケーションを学んでいると思っています。そもそもコミュニケーションを学ぶ機会って子どもの頃にあまりなかったと思います。インプロでは、コミュニケーションに関して自分で疑問に思うことを安全に実験できる場だと思います。

演劇という現実の関係性が崩れない中で実験できる事がいいなと思っていて、ここでNoって言ったらどうなるんだろう、企画のフィードバックに関してチームにNoって言ってみた方がより良いものが作れるなとか実験や演習ができるんですよね。Noと相手に伝えることが、相手との関係性を崩すことではないですから。

——ワークショップやショーの終演後、幕間には振り返りの機会があるそうですが、そこでも気をつけていることがあるんですよね?

私が振り返りの場で気をつけているのは、「あなたが〇〇したことがダメだった」ではなく、「あなたが〇〇した時に私はこう思った、嬉しかった、困った」と自分の気持ちを言うようにしています。また、自分の嬉しかったことや困ったことをフィードバックする機会を持つことも、特にインプロのチームメイトとは大切にしています。例えば、初対面の仲間と急遽ステージに立つ機会もたまにあるんですね。そういう時は、相手に良い時間を与えることをとても意識してコミュニケーションします。もちろんショーを重ねるごとに信頼関係は作れるんだけど、その信頼関係はショーの振り返りで自分はこう思った、というのをしっかり伝えることで積み上がっているように感じます。

——インプロは相手とのコミュニケーションを化学反応させて表現することが醍醐味ではあるけど、人間関係の構築ではショーが終わった後の振り返りがすごく重要なパートなんですね。

大事ですね。終わった後にはまず一緒にやってくれたことに対して感謝しますし、この場面はすごく面白かったとか、あそこでは私は居心地が良くなかったということも伝え合えば、次にまた良い時間を過ごすことに繋がりますから。

子供達が言葉に縛られないコミュニケーションを楽しく学ぶ機会が、より身近になることを願って

写真提供@下村さん

——その他にインプロを通して伝わったらいいなと思っていることは何かありますか。

あります!まずは私自身がESL(英語が第二言語)でしかも英語あまり喋れない系ESLなので、言語を超えてコミュニケーションを楽しくできる関係性が作れるんだよっていうのを伝えたいです。

——それ、まさに理愛さんの舞台を見て感じました!人見知りの私でもインプロをやればコミュニケーション取れるかもしれない、相手にNoと言われるのを怖がらなくてもいいんじゃないかなと思いました。

それ!そういうことです!私がうまく英語ができないけど一生懸命伝えようとしていることが相手やお客さんにとって楽しい気持ちに繋がるんだとひしひし感じます。笑

——私もカナダに5年もいるにも拘らず、英語は全く得意じゃないんですけど、でもそれでも伝わればいいのかもしれないって思ったんですよね。「上手に」はいらないかもしれないなって。

伝わらなくても体、感情、動きなど使えるもの全てを駆使してとりあえずやってみると、意外と相手にも伝わります。コミュニケーションは言葉だけじゃないことを日本人プレイヤーとして、勝手に使命感を感じてやっています。

——そのメッセージ、観客の私には届いていました!1人でも多くの日本の子供達にもその想いが届くと良いですね。

IMPRO KIDS TOKYOっていう、子供向けのコミュニケーションの習い事を日本で4年くらいやっていて、日本の子供達で留学希望の子達向けに一緒にオンラインでワークショップしたんですよ。言葉じゃなく動きや表情でも気持ちは伝わるよっていうことをインプロを通して体験してほしいなと思ってやっていますね。

——私は実家が島根なんですけど、つい先日中学時代の恩師と都市部と田舎では教育格差、さらにはそれが将来的に子供達の可能性格差に繋がるよね、というお話をしたばっかりで。まだインプロを通してコミュニケーションを学ぶ方法もあると知らない方たちもいるからこそ「インプロ✖️教育」には無限の広がりと可能性があるのかなと思います。

そうですね。実際に自分や自分の子供に必要だと気がついてない、むしろそういう選択肢があるんだと気がついてもらうという段階なんじゃないかなと思います。水泳やピアノを習い事にしているご家庭はよく聞くんですけど、インプロもそのくらいになってほしいですね。楽しくコミュニケーション学べるんだよっていうことがもっとたくさんの方に伝えられたらいいなと思います。今はオンラインクラスを毎週火曜日にやっていますが、関東以外にも広島から参加してくれている方もいて、それは親御さんが意識して私たちを見つけてくれたんですよね。

夏休みにはカナダの子供達とオンラインで繋いで文化交流を兼ねたワークショップをしてみたり。そういうこともやりながら、今後は日本とバンクーバーをインプロバイザーとして行き来しながら仕事をしていきたい。やっぱりIMPRO KIDS TOKYOの仲間や子供たちが恋しいというのもありますし、バンクーバーには素敵なプレイヤーがいっぱいいるので、逆に子供たちがこっちに来てクラスや舞台に立ったりという機会も作れたらいいなっていうのは考えています。

——最後に、理愛さんは今後関わっていく人たちにとってどのような存在でありたいですか?

皆さんにとってリラックスできる存在でありたいなと思っています。下村理愛がいるから上手にやらないと、ではなくて下村さんは英語はできなくても楽しそうにコミュニケーション出来ているから私にもできるかもなって思ってもらえるような存在でいたい。頑張りすぎずに肩の力を抜いたり、リラックスして挑戦できるなと思ってもらえる人であることですね。

——わかりました。またワークショップにも参加させていただきます!今日はありがとうございました!

ありがとうございました!

▼下村さんのSNS、IMPRO KIDS TOKYOのWebsiteはこちら▼
IMPRO KIDS TOKYO
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編集後記

インプロってなんだろう?翻訳すると即興劇だけど、日本語に直したところでそれがどんなものなのかは実際に見てみるまで全く想像できませんでした。下村さんにインタビューする前に友人と一緒に劇場へ足を運び、観劇させていただいたのですが、これがとっても面白い!(笑)全てがコミカルなわけではなくシリアスなシーンもあるはずなんですけど、でも気がついたら笑顔になっている自分がいて、とても不思議な体験でした。顔面筋肉痛になるくらい終始笑いっぱなしでした。

私は演劇やミュージカルを観劇するのも好きなのですが、それは作り手の方達が長い時間をかけて入念に準備していてやはり「演じる」ことに重きを置いた作品だという認識です。ですから、舞台の上にいるのは同じ人間というよりもアーティストであってすごく遠い存在のように感じますし、非現実的な部分を楽しみに私はいつも観劇しています。インプロの場合は、即興劇のトピックやディレクターからの指示に思わず演者さんも「なんだそりゃ(笑)」という感じで笑っていて、少し困惑したような表情もあったりするのが人間味があってとても面白いんです。それでもステージ上の演者、客席の温度をその瞬間に感じながら一つのシーンとして作り上げていくのがプロだなぁと感じます。

実はインプロを観劇した後に、人見知りで社会性の低い私の中の何かが触発されてワークショップにも勢いで参加してしまいました(笑)今考えてもあの時の私はどうかしていたと思います。元来そんなタイプじゃないんです(笑)
正直、日程が近づくにつれて「即興劇なんてやったこともないのになぜ申し込んでしまったんだ」という後悔に苛まれました(笑)
でも実際に参加してみると私のクラスは初心者向けだったため、参加者の皆さんも未経験者の方が多く、何より即興劇や技術的なことを学ぶというよりもコミュニケーションは本来楽しいものであることを再確認するワークショップだったように感じました。人との会話や動きのキャッチボールを恥ずかしがらずに練習できますし、こうすると人は気持ちよく怖がらずに自分の気持ちをシェアして、また人の気持ちも尊重できるというのを練習できる場でした。

私たちにとって学校で教わる知識や勉強が大事なのと同じように、コミュニケーションの練習や成功体験を小さい頃から経験するのは、その子の自己肯定感や物事の捉え方、伝え方にとても良い影響があるだろうなぁとしみじみ感じた体験でした。

末筆ではありますが、この度インタビューを快諾してくださった下村さん、本当にありがとうございました。

最後まで読んでいただきありがとうございます!!
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