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葡萄の嫁入り

田んぼには水が張られ、きらめく水面で白鷺やウミネコが無邪気に小魚をついばむ。時折カラスの子供がぎこちない行水を披露し、それを高貴な紫のアヤメ達が田の縁で静かに見守っている。

私はそんな今の季節が大好きで、太陽の軌道のせいなのか、光の強さや色彩何もかもが完璧な美しさでただそこにある。
世界情勢がどんな様相を見せても、自然だけはいつも変わらず、むしろ以前よりも真実味を帯び、存在感が増してきているようにも思う。

そんな眩しい季節の今日この頃、うちの葡萄畑のデラウェアはだんだんと色づき始め嫁入り支度をはじめている。成長の早かった房は一足先に全身赤紫。黒々とした紫黒色になるまであと10日ほどだろう。
一粒一粒に水が回り始める為、粒間引きの作業も素早く優しくを心掛ける。

その粒間引きの作業を、摘粒(てきりゅう)と呼ぶ。
ギュウギュウに密着した粒を一列縦に間引いていったり、内側にある粒を取り去る作業を一房一房に施す。それが、実に瞑想的。 

『今』にいないと、雑念の波に取り込まれ、過去の人とのやりとりへの後悔や、人との約束(これからの予定であったり、果たせていないものであったり)に思いを馳せたりと、マインドと一体となってしまう。マインドさえ働かなければ、そこにあるのは、ただそこにぶら下がる葡萄と、作業をする手だけなのだ。

何の憂いも気負いも必要ない。
とは言え、作業の手を止めていては、デラウェアの嫁入りに追いつかないのである。ちゃんと旬のときに間に合わせたいからね。

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