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自分の把握していない動きがたくさんある状態が、マネジメントの理想像。

マネージャーの思想

みなさんは、マネージャーの仕事って、何だと思いますか?

僕は、チームの能力を最大化するためリソースを効率的に動かすこと あるいは色んなことをどうにか解決すること だと思っていました。

ビジネスコミュニティ「田端大学」を運営する田端信太郎さんも以前、R25のインタビューにて似たことを仰っています。

日本語だとマネージャーを「管理職」とかいうからそういう誤解をしやすいんだけど、英語で一般的にいう「Manage」って「あちらを立てればこちらが立たずの状況を“何とかやりくりする”」っていう意味が強いんですよ。── 「マネージの意味が“管理”? ハズレです」田端信太郎が語るマネジメントの本質

ですが、最近は違うことを思っています。

マネージャーのキャパシティとスループット

マネージャーが効率的に物事を運んだりどうにか「解決」しようとすると、チームのタスクの優先順位を細かく管理し、今やるべき仕事に集中してもらうような管理が必要になりがちです。

チーム内の仕事すべて──内容や進捗、アサインや関係者──を、出来るだけマネージャーが把握するアプローチです。

しかし、マネージャーが把握できている状態を前提に進行するということは、マネージャーのキャパシティがそのままスループットのキャップになることを意味します。

メンバー間のコミュニケーション不足

キャパシティの問題は特に、チームの人数が多ければ多いほど顕著になります。

例えば業務上行われるべきメンバー間の連携やMTGの数を考えてみると、あるべきコミュニケーションの数は人数に比例して増えていきます。しかもそれは線形ではなく、指数関数的に増えていきます。その数はX(人数)C2という式で表されるためです。

人数が2倍になれば、あるべきコミュニケーションの量は倍どころではなく増えるということです。

上記の計算上、5人いれば20人分、6人いれば30人分のタスク管理をするようなものです。たった1人増えただけなのに、あるべきコミュニケーション量が人数比で2倍(10人分増)になったのが分かります。

これだけの量全てを管理することは、現実的ではありません。やろうと思えば必ずキャパシティから溢れ、コミュニケーション不足が起きます。

しかも更に悪いことに、マネージャーはこの時、コミュニケーション不足の原因が自分のチームビルディングやキャパシティが原因にあることをなかなか自覚できません。

👔 マネージャーの不満
この仕事には明らかにAさんとBさんの連携が必要なはずなのに、なぜ2人は私が言うまでミーティングすらしないのだろう?

よく見るシーンですが、この不満への答えは明確です。マネージャーのキャパシティがチームのキャップになっているからです。

機会損失

こまごまと把握・管理する手法と、人間がマネジメントする体制の相性は非常に悪く、欠如しているタスクやコミュニケーションに毎回即座に気づき指示をすることは、とても高いコストを要します。

ちょっと役割を兼任したり、プレイングマネージャーだったり、人数が10人のチームになったりすると、人間がそのマネジメントを完遂することは出来なくなります。

そしてこのはみ出した分が、機会損失になるのです。

👔 マネージャーのペイン
人数が増えたことでこなせる仕事の絶対量は増えた。けど、この人数増えたならもっとスピード上がるはずなんだけどなあ。

把握・管理したい欲に抗う。

正味な話、マネージャーが色々と把握しておく必要はありません。

チームにおいては、その成果が上がるかどうかが問題で、その障害となる何かしらがある時にさえアラートが上がれば、それで充分マネジメントでき、かつ機会損失が小さくなるからです。

管理しない。システム化し、キャッチアップする。

起こっていることを逐一把握することには、上記のような悪い面もありますが、良い面もあります。

それは、早く意思決定できることです。

これは大きな価値です。が、別にすべて把握していなくても実現可能です。把握すべきものを任意のタイミングで拾えれば、同じことを達成できます。任意のタイミングで非同期的にキャッチアップできる仕組みや文化を作っておくのです。

例えば進捗管理なら、毎回マネージャーが出席する代わりにTODO表に記載しておくようにする。

あるいはアイデア出しミーティングなら、出席してアイデアの1つ1つを監督するのではなく、議事録をとる文化を作る。

日々のコミュニケーションなら、DMやメールなどクローズドな場所で話すのではなく、オープンな場所で会話する文化を作る。

トラブルへの器

この運用では、自分がキャッチアップするまでの間、色々と把握していない状態になります。この期間、マネージャーにとっては不安なものがあります。

把握できていないところでトラブルや意図しない露出が行われる潜在的なリスクを感じるからです。

ですが、マネージャーたる者、それを許容できる器を持つべきです。リスクと価値を天秤にかけてみてください。

チームでの仕事に起きる問題の8割はコミュニケーションに起因するもので、その大半がコミュニケーション不足(認識違い, 仕様漏れ, レビュー漏れ, etc....)によるもの。

単純に考えて、チームの問題の4〜6割が解決できることになるのですから、クリティカルでない多少のリスクは受け入れる価値があるでしょう。(他にこんなにインパクトある問題解決があるでしょうか。)

リスク以上に価値が生まれれば、マネージャーにとってこんなに嬉しいことはありません。

マネージャーに依存するのが良い場合もある

リーダーやマネージャーがこまごまと把握し、その指示が無いとメンバー同士の連携やMTGが開始されないのは「理想的なチーム」とは遠い像かなと思います。

メンバーが自律して動いたり、メンバー同士が補完・連携しあうのが良いチームだというのは、論を俟たない話です。

ですが、そんな正論はさておいて、マネージャーに依存しなければならないシーンや、マネージャーに依存した方が上手くいくケース、その方が合理的なシーンというのも存在します。

チームのスパゲッティコードを許容する時期

例えば立ち上げ期がそうです。

スピード優先で色んなものを切り捨てながら、あえてスケールしないことをやることがあります。

初歩的な障害を突破してとにかく前に突き進むためには、個々がバラバラに頑張るよりも、ワンマン・独裁で進むのが効率的です。そのため、リーダーやマネージャーが優先順位を打ち出し、全員がそれを遂行するのが向いているのです。

(細かな部分では至るところに綻びが出るので、その分、あとあとチームがスパゲッティコード状態になっているのを解く時間を必要とする傾向があります。)

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参考文献
Teal is the New Agile
過剰管理の処方箋

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