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横須賀ブックミュージアム2024で出会った書籍たち

 横須賀市に立地する二つの博物館とともに開催される一箱古本市『横須賀ブックミュージアム』をのぞいてきました。今年出会って連れ帰った本をいくつかここに紹介します。

『鰰 本体接岸 ハタハタフィーバーの謎を追う』新装増補版 yukariRo編集部

 こちらはタイトルにあるとおり魚の「鰰」についての小冊子です。本書は2013-2014年に「取材した私たちでは5分と立っていられないような寒さと強風のなか」(本文より)秋田県男鹿の漁港で水揚げされる鰰にまつわるあれこれを写真と文章で綴った一冊。30ページ程の紙面に、寒風の荒れた海へ出港する漁師さん、季節の到来を待ち侘び鰰を食す文化を伝える人々などをつぶさに取材。鰰まわりのあれこれを深く掘り下げた構成です。
 写真たっぷりなのはもちろん、イラストも素敵。そして鰰の発音方法から捌き方(骨抜きの仕方)、料理の種類、禁漁のことなど、読後には鰰とその文化について俄然興味の増す一冊です。ハタハタずしってなんだ?食べてみたいぞ。

(yukariRo編集部 https://yukariro.jimdofree.com)



『ニセアカシア 九 草迷宮』ニセアカシカ発行所

 泉鏡花が横須賀の西、秋谷の地で編んだ『草迷宮』を題材に、五人の写真家によって重ねられた写真集。泉鏡花の言葉、貼りついた写真、紙質、そして製本の組み方により一種独特の雰囲気が醸造され目をひきます。
 今回でNo.9となるニセアカシアのメンバーによる写真集。横須賀で開催されるブックミュージアムに合わせて作られたというのも感慨深い。休憩室では既刊を二冊ほど置かせていただいてますので是非ご覧ください。

”これは「草迷宮」に
あこがれながら
さまよった 五人の
物語を束ねた写真集”
(本書帯文より)




『一色海岸書店』 小栗誠史著 書肆ウサギノフクシュウ発行


 鎌倉の線路沿い、細い階段の建物へのぼっていくとウサギノフクシュウという古書店がありました。店名から察するとおりブローティガンの著作がいくつも置かれ、絶版となっているゲンズブールの『スカトロジーダンディズム』が棚にささっているのを目撃した本屋さんでもありました。
 この本『一色海岸書店』は店主さんが永井宏さんとの出会いから一色海岸で永井さんが開く予定の書店準備を任された経緯を、写真を織り交ぜ綴る本です。

 実は『休憩室』を始めるよりだいぶ前のこと、横須賀で廃業された銭湯を舞台に古本市を企画したことがありました。そのときは鎌倉からブックスモブロさんや映画酒場さんが出店して下さったのですが、実は古書ウサギノフクシュウさんにも声をかけたのでした。といってもたまたまみつけて選書の良さに興奮、勢いあまってしまい、会計時に唐突に声をかけてしまったのです・・(もちろん出店は実現はしませんでしたが、『芝生の逆襲』はこのとき購入したのではなかったかな)

 こちらはブックミュージアムに出店されていた圏外書房さんで購入。古書ウサギノフクシュウ店主さんの著作であることを教えて頂きました。

”人が集まることで刺激をし合いながら生まれるものがある”

 そう信じていたという永井宏さんの言葉や人柄を通し、彼が準備しながらみることの叶わなかった一色海岸書店設立までの経緯など、文章の間に静かにながれる時間が染み入る一冊です。



『おだわら 暗渠散歩 猫のまにまに』


著者:阿部裕二郎/斉藤猫綱/干場安曇 企画・発行 干場安曇

 『横浜暗渠散歩』(星羊社)の猫綱氏と、フリーペーパー『猫のまにまに』を発行している干場氏の二人が小田原を歩きます。干場氏は江ノ浦測候所を猫綱氏は小田原の暗渠をそれぞれがガイド(?)する道程を収録。二人の掛け合いが目に浮かぶようで、なんとも慈悲深い微笑がこぼれます。とはいえ内容はしっかりと充実。地名や橋跡、あるいは道の角度から暗渠の合流やサインをくみとる面白さ。
”曼荼羅の絵解きを試みているかのような”杉本博司氏の測候所と、かたや風で吹き飛びそうな掘立て小屋で執筆した私小説家・川崎長太郎を取り上げた項目との対比の妙。小田原のディープな魅力に溢れたZINEであることに疑いはありません。
 個人的にはいつか浦賀や横須賀の暗渠を編纂してほしいところ。そういえば最近出版された横須賀本『ヨソモノ』の表紙の場所もやたらにくねった道なのだけど、もしかして暗渠だったり?などと楽しく考えさせる本でした。

 ちなみにこの『おだわら 暗渠散歩 猫のまにまに』と『サイパンと呼ばれた男 横須賀物語』川崎洋 著 新潮社 の二冊を当日の横須賀ブックミュージアムで猫綱氏にご寄贈頂きました。この場をかりて御礼申し上げます。(忙しい中、受け渡してくださったO氏にも感謝いたします。)




『サイパンと呼ばれた男』は町の先輩方から実際の話を聞き齧っていただけに、これから読むのが楽しみです。いずれ休憩室へ持っていきますのでご興味のある方はお手に取ってみてください。

以上、2024年の横須賀ブックミュージアムで出会った本の紹介でした。

休憩室 管理人N

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