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考えない日記

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疫病の蔓延に心まで奪われまいと、身近な日々の生活を特に考えもせずメモ的に記し始めたのです。
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【考えない日記】 インディアナ、インディアナと書店の窓辺

【考えない日記】 インディアナ、インディアナと書店の窓辺

Premiereと壁に掲げられた雑居ビルのとなり、二階建ての二階部分の窓の向こうで、コックが二人楽しそうに料理をしている。愉快に見えるのは、昼の盛りを過ぎた14時46分が理由かもしれないし、あるいはその店が東南アジアの料理店だからかも知れなかった。
向かいのビルの三階にある書店の、窓際の席に座り、ミルク抜きのチャイを啜りながら暫く眺めた。スパイス香る湯気の向こう、ガラス窓と鉄柵の隙間に、てきぱきと

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【読書中座記】人の夢 バリー・ユアグロー

【読書中座記】人の夢 バリー・ユアグロー

 その夜に光ると聞いていた流れ星が見えるのではないかと、消した暖房の残り香で暖まった部屋の窓を開けた午前二時。ガラス戸は冷たく、夜の風が強く吹いていた。隣家の屋根越しに空を見上げると、冬の澄んだ天空に見慣れた星々。数十秒眺め、昔だったらこのまま車に乗って何処か暗がりを探しにいっただろうな、途中で誰かにメールして、返事が来る間も移動を続けて、結局誰も捕まらなかったとしても一人で佇む場所を見つけたはず

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そこにいたこと

そこにいたこと

 日曜の午後、写真を撮りながら公園を歩いていると音楽が聞こえてきた。ステージはもう少し先なのだけど、海の見える芝生へ腰掛け、流れる音楽を聴くでもなく風にまかせる。カメラの設定を色々と試しながら空や行き交う人々を眺める。コスプレをして写真を撮る小グループがいたり、芝犬を連れた散歩者がいたり、歩けるようになった息子とサッカーまがいの球遊びに興ずる親子がいた。
 最後の曲ですというアナウンスの後で流れた

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考えない日記:いちめんクリア 04.02.2023

考えない日記:いちめんクリア 04.02.2023

 横須賀の富士見町という古い町を歩いた。谷戸に入り組んだ小路が絡まり迷路の様相をみせる地域。Googleマップがあればそこまで迷うことはないまでも、高低差のある細道や狭い階段道の多さは毛細血管を思わせる。あるお店の主人は「横須賀ダンジョン」と表現していた。

 彼は城下町から移住してきたそうで、その目線で見ると横須賀の複雑に入り組んだ街並みは「何がどこにあるか分からず、ダンジョンのよう」に感じると

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考えない日記:桃色の夜道で 04.01.2023

考えない日記:桃色の夜道で 04.01.2023

 紙にペンで殴り書きした人生の映画リストを友人が見せてくれた夜に、楽しかった余韻の寂しさを引き連れてゆっくりと一人ナメクジみたいに歩いていた。土曜の深夜を終わらせまいと粘る米兵で、横須賀のドブ板目貫通りは賑わいをみせていた。シャッターのおりた三笠商店街の先、駅下にある公衆便所へ寄り道した。右手の交番の中にピンクの服を着たおばちゃんが一人で座り、携帯電話を眺めていた。

 友達の書いた映画リストを眺

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考えない日記:電波1の岩がちな海辺で2023.03.28

考えない日記:電波1の岩がちな海辺で2023.03.28

 数ヶ月考えを巡らせていた行事が終わり、漁師町にある10席程度の小さな定食屋さんで昼食とっていた。楽しくも苦しい行事の束縛から解放された午後。窓の外には漁船が何艘も停泊し、漁の後片付けをする男たち。

 携帯電話のメールが着信し、友人から悲しいお知らせが届く。食事を済ませてから車を少し走らせ、海岸線の突き当たりにある公園の駐車場へ停めた。普段は人のまばらな磯辺に旅行者らしき人々が春の行楽に訪れてい

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良い映画を観た後のこと【考えない日記】2022/12/17

良い映画を観た後のこと【考えない日記】2022/12/17

 海の見える地元のパン屋さんへ行き、りんごを買いました。

 映画のことを心地よく思い出し、反芻しながら帰路の海辺を歩きました。

 地の見知らぬおっちゃんが、「静かでいい港だよ」と声をかけてくれました。

 用水路が見えていました。あっという間に油断していると失われていくものたち。 

  小学生が、子供しか入ることを許されない場所で隠れてフェンスに寄りかかり、密談している声だけが聞こえてきまし

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 考えない日記:壁沿いに歩くと 2022.10.25

 考えない日記:壁沿いに歩くと 2022.10.25

 寒風が山肌を撫でる。ぐるりとトンビが旋回していく。軒先の植物が弱った色をみせている。携帯電話が一時間前に降ると予告した雨はまだ落ちてこない。カップの底に少しだけ残ったコーヒーを支えに文字を少し読む。更迭された政治家、性犯罪の法律、汚れた爆弾、ガス代が一年で十倍になった国、ミャンマー軍がコンサート会場を爆撃、湘南のバンクシー、ジブリパーク、高木ブーさん、初回限定、お急ぎください!ご注文はコチラ!

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考えない日記:緑のジャケット 2022.10.24

考えない日記:緑のジャケット 2022.10.24

 祖父を思い出した。朝、窓を開けて汚れてしまった座布団をはたいていると冬の香りがした。それは一年振りの香りで、例えば数日前に食べた早生の蜜柑の香りと同じ種類の感情を連れてくる。あるとき家族と帰省した祖父の家で「冬の匂いがするね」というと、彼はセーターの袖口からはみ出したシャツの袖を正しながら「苦手かね?」といった。「好きだよ」と答えると、「それなら良い香りといった方がいい。匂いは好ましくないものに

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考えない日記:雲の下、海辺のまち 2022.10.18

考えない日記:雲の下、海辺のまち 2022.10.18

降らなかったので 予報されていた雨が一向に落ちる気配を見せないので二輪車に跨り三崎方面へ走り出した。久里浜から海岸沿いに野比という町へ出ると、柵の向こうへ海が広がる。景色が進むと砂浜は黒から薄茶、ベージュなどへと変化を見せる。少し沖に鵜やカモメの休息する防波ブロックがあるが、なぜか誰一人休んでいないテトラポットもある。

 野比の街道沿いの人家の前で犬が欠伸をしていた。道路標識の上にはカラスがとま

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考えない日記:2022.10.19 数日のメモ

考えない日記:2022.10.19 数日のメモ

 日付の変わった夜更けにこれを書く。外はまだちろりんりんと小雨が降っている。とはいうものの、実際にはイヤフォンをして音楽を聴いているので本当に雨がまだ降っているのか分からない。ここから見える台所には斑点の浮き出たバナナが器をはみ出している。部屋の机にはまだ片付けていない冷房のリモコンが居残り学生のようにじっとしている。背もたれにシャツのかかった椅子がある。ついている電灯と消されている電灯がある。背

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考えない日記:古井由吉に出会った日【読書】

考えない日記:古井由吉に出会った日【読書】

 上町休憩室へいつものように彼がやってきた。数年前のことだ。彼は着席するが早いか鞄を広げ、五、六冊の本を引っ張り出しこちらへ押してよこした。私は目の前に積まれたそれを受け取ると、表紙や作者を確認しながら背の低いテーブルへ広げていく。慣れたものだ。というのも彼は毎回、ほとんど必ず数冊の書籍を抱えて休憩室へ到着する。それは近所かあるいは遠出して買い求めたばかりの彼の蔵書なのだ。本日の収穫を拝見する。知

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考えない日記20220414

考えない日記20220414

0414の日記(2022)
昨日のことだ。庭を見ていると踏みつぶされた花韮の草の下をトカゲが進んでいく。ここ数日続いた晴天は半袖の肌が汗ばむほどの陽気だが、彼の表面は濡れ、曲面が鈍く輝いていた。腹に昨晩の暗闇をいまだに抱えたまま。

土の地面に空いた3mmほどの小さな穴へ蜂が入っていく。入り口の手前で着物をそろえるように羽根を素早くたたみ、その小さな穴蔵へ消えていく。
少し離れたところにある雑木林

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20220330の考えない日記

20220330の考えない日記

暗闇で思ったより飛び出し手についた残り少ない歯磨き粉を、蜂蜜を掬うみたいに唇へ移して磨き始めた。いつもより辛く感じる口内に今日の出来事を書いておきたくなった。

一本の桜が農道の小道に生えている。その名もなき一本の桜を見にいく畑道の手前に、ごく小さな沼がある。数年前に訪れたときはおたまじゃくしがいたが、今日はロープみたいにうねった長い長い卵があった。今年はカエルより開花が早かったということのようだ

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