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金夜、ハンバーグプレートで泣く



お久しぶりです。生きてます。
生きてる!!!!!!!!って感じの激動のひと月を過ごし、気づけば4月最後の金曜日。

怒涛の4月、激動の4月だった。
海の近くに暮らし、仕事終わりに夕焼け空と海を見ながら贅沢を満喫していた3月までの生活。港公園に行き柴犬を連れたおじいと日が暮れるまで話し込み、夜は近所の居酒屋や知り合いの家で数人で食卓を囲み美味しいご飯を食べる生活。そこから一転し全てが変わった。
ドラマにありがちなバリキャリアラサーOLが仕事に奮闘する第1話のような、フロアを早足で歩けば歩いただけあちこちから仕事が舞い込んでくるような。まるで別の人の人生を生きているかのような、忙しないひと月を過ごした。


とにもかくにも、疲労している。
でもそれ以上に、職場のチームワークの良さに嬉しい驚きを覚えている。
ここは仕事量が半端ない分、そっと手を差し伸べあって助け合っているんだ。と気づくのに時間はかからなかった。新参者の私にも優しい手がたくさん向けられる。ひい〜ありがたいです。良い職場に来たなぁ。

(良い職場なんだけど、私の担当する部屋がとんでもないことになっている。冷凍庫からいつのか分からない白い恋人が出てくるわ、棚を開ければコントみたいに雪崩が起きるわ、棚の奥底から「へび酒」と書かれたいにしえの小瓶が出てくるわ。そして必要な書類はどこにも見当たらなくて泣く)



気づけば19時、気づけば週末。そんな日々を過ごし、気づけば4月最後の金曜日。
あ〜もう今夜は。と18時くらいから企んでいた。
もう今夜は、美味しいご飯を食べに行こう。
新居のアパートの隣にはこぢんまりとしたレストランがある。越してきて1ヶ月、行こう行こうと力まずともいつか行く時が来るだろうと軽〜くマークをつけていたレストラン。今夜はここだ。あったかいご飯を静かに食べたい。今夜がその時だ。
歩いて帰路に着きながら、果たしてどんなお店なんだろう…と想像してみた。 イヤホンからは初めて聴く洋楽。最近、職場のアメリカ人からオススメされたロックバンドを聴き始めた。渋くてワイルドなバンドだなぁと思い、アメリカ人の彼に「イケオジって感じですね!あ、イケオジってわかる?」と尋ねたら「オゥ!イケオジ、知ってマス」と言われた。通じるんかい。


初めてのお店に1人で入るのはもう慣れっこ。
メニューを一通り眺めてハンバーグプレートを頼んだ。このお店の名前をそのまま使ったメニュー名だったから。はじめましての新参者が頼むのにちょうど良いから。
静かなBGMが流れる店内を見渡すと、暖色を基調とした洋風な店の雰囲気の中に、某炭治郎と某禰󠄀豆子、某ぶりぶりざえもんと某ネネちゃんに殴られるウサギのぬいぐるみを見つけた。正直ウケた。
席の壁には、ヴェネツィアの港の絵が収められた額縁。ヴェネツィアなんて教科書レベルの知識しかないけれど、とにかく絵の青さに引き込まれる。ヴェネツィアの海の青さを思う。でも頭の中に浮かぶ青色は、3月まで暮らした街のあの海の色だった。あの街が恋しい。

少し経つとコーンスープとパン、サラダに続いてアツアツのハンバーグが運ばれてきた。ジュージューいうけど野生らしさはなく、それよりもずっと上品な音。 付け合わせのふっくらしたマシュマロみたいなポテトにも、これまで食べた中で1番美味しい人参のグラッセにも感動した。

そしてふと、(1人でゆっくり時間をかけてご飯を食べるの、いつぶりだろう…)と気づく。
飲み会だとか外で誰かとご飯を食べることはまあまああったから、その分家ではシンプルに食事を済ませていた。 ササっと。それはもうササっと。たっぷりじっくり料理を味わうのっていつぶりだろう。
付け合わせの野菜に感動し、おそらく蒸したであろうほかほかでふわふわの白いフランスパンに感動した。 もちろんハンバーグも美味しい。「おいし〜」と小声で呟きながら、時間をかけてもぐもぐした。ハンバーグの肉らしさを感じながら、明日からの私の血肉になってくれる逞しい一皿よ、と思う。

これまでの私はこういう時間を大切にしていた。
仕事量に忙殺されて、すっかりそれを忘れていた。
本当だったら家でぐったりしていたであろう金夜に、(行くなら今夜だ)と確信めいた気持ちで向かった隣のレストランで、私のためにジュージューいうハンバーグを前にして、それを思い出せた。
気持ちも弱っていたからか、目の当たりが熱くなった。泣くかと思った。


お会計の時、仕事終わりのバッグのままの私を見たホールの女性に「家は近くなんですか?」と尋ねられた。
「近くに越してきました」と答えてお店を出た後、(まぁ隣なんですけどね)と隣の建物を見る。
数歩歩けば玄関!を踏みしめる。あら、とっても素敵じゃん。この距離に、私を救ってくれるハンバーグプレートが、というかそれを提供してくれる空間が、ある。頼もしい味方すぎる。

こうやって少しずつ、この街を開拓していきたい。
自分で出向くことで出会えるお店、見つける景色、出会える人の輪を少しずつ、少しずつ広げていきたい。
激動の4月をなんとか乗り越えた私だもん、仕事も徐々に慣れていくはずだ。
もう大丈夫、と思えた4月最後の金曜日。


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