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ニート生活1日目

12月の頭から会社に行かなくなった。
晴れて私はニートになった。

そろそろかなという感覚は、漠然とだが少し前からあった。この日のためにプロジェクトにはあらかた片をつけて、どうしても無理なものは後輩に引き継ぎを済ませている。立つ鳥跡を濁さず、というやつだ。
部署の面々はどこか少し悲しそうな顔をしている。申し訳ない気持ちを押し殺して、最後の退勤を済ませた。


ニートになっても朝は早く起きた。
仕事の癖が染み付いている。とりあえず顔を洗って歯を磨いて、庭先の木に水をやる。平日の朝、あまりにも遅い時間に家の周りをうろついていると仕事に行ってないことを勘づかれて気まずいので、なるべくこそこそ動く。
ひどく疲れた。こんなことをこれから毎日やるのだろうか。

朝食をとり、特にやることもないので洗濯と掃除を済ませた。体力はある方だと自負していたが、家事の動きには慣れていなかったので想像以上にまた疲れた。ただその甲斐あって、隅々まで部屋を綺麗にできたのは大きな成果と言っていい。

休む間もなく昼食を作る。これまで「作ってもらう」という概念しかなかった。つくづく情けない。
「りゅうじのバズレシピ」でいい肉料理が見つかったので味の素を買い足して作ったら上手くいった。
ちなみにラブ川食堂もたまに見る。

そこからはしばらくアニメを見た。今季はハーレムラブコメと百合モノが両方揃っていて当たりのクール。百合の波動を感じてニヤけていたら、不意に画面が暗くなって自分の顔が映った。現実に引き戻された気がして興ざめした。

17時。そろそろ夕食を作らないといけない。今日はニート生活1日目なので、思いきってビーフシチューを作ってみる。食費はけっこうはたいたがしかたない。モチベーションを上げるためにも、食事は第一に重要な要素なのだ。




しばらくして妻が降りてきた。2年ほど前からずっと工芸品だかなんだかの内職をしている。1つ作って10円らしい。そんなことをよく続けてられると思う。自分なら努力に対して得られる成果が小さすぎて、すぐに萎えて辞めてしまうと思う。
こういうお互いの精神性の肯定のし合いが、夫婦円満の秘訣なのだろう。私は妻に肯定してもらえるような生き方ができているだろうか。現状、そうとは言い切れないのは間違いない。

作ったビーフシチューを「おいしい、味もいい感じ」と全肯定してくれる妻は、まさしく私の癒しでありいちばんの理解者である。彼女がいないと私が定義されないと言っていいくらい、依存している自覚があった。それでもよかった。だから今、こんなふうになっている。

美味しそうにビーフシチューを頬張る彼女をみながら、私は一人洗い物に徹する。そして冗談まじりにニートになった話をした。向こうも冗談めかして答えてくれるかと思ったら、思っていたのとは違う反応が返ってきた。

いやそれただの産休と育休でしょ?
心配しなくていいって、私を理由にニートに成り下がらないでよ〜

妻はたまに私の冗談を間に受ける。自分が原因のことだと尚更その気が強い。
それでも言葉の裏に見える優しさが好きだ。責めているようで責めていない絶妙な言葉選びが、彼女にはある。
一人適当なことを言って誤魔化していた自分が情けなくなった。


妻と自分の洗い物を済ませて、その日のニート生活は終わりを告げる。
ニートといっても、世間的には休業中というだけなのかもしれないが、自分としては何もしていないのが居た堪れなくて動いてしまう。私のニート生活を妨げる一番のものが自分の行動力であるというのも情けない。

明日は何をするべきか。
とりあえず明日の昼食と夕食の献立、買い出しの内容を決めて、眠りにつく。
明日は音声配信も始められるようにしなくては。お金を稼いでこそ、私がここにいていい理由になる。
明日もニート生活は続く。息子の名前は何にしようか。

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