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「百合好きは平和な人が多い」百合カフェanchor店長さんに聞く!「新宿二丁目に百合カフェが生まれた理由」とは【インタビュー企画 #3】

取材:うどん脳、銀糸鳥
構成:銀糸鳥

新宿二丁目。時刻は午前10時。まだ目覚めを待つこの街で、営業をはじめるお店がある。

午前10時ごろの店内/会員撮影

雑居ビルの階段を上がり、スライド式のドアを開けると、アニメソングの華やかな音響が出迎える。木組みの内装に、百合漫画の背表紙がズラリ。まだ午前中ということもあり、カウンターには常連と見られるお客さんが一人と、接客中の店員さんが一人いるのみだ。

日本有数のLGBTタウンとして知られるこの街に、なぜ「百合カフェanchor」は生まれたのか。店長の高山さんにお伺いした。

百合カフェanchor(写真=店長の高山さん)

高山さんご提供

「百合は世界平和」を合言葉に、2020年6月3日から営業中のコンセプトカフェ。2000冊を超える百合漫画の蔵書と、リニューアル前から変わらぬ料理が魅力。サイン会・オフ会・コラボメニューなど、定期的に開催されるイベントも話題を集める。名物メニューは特製のスパイシーキーマカレー。


百合カフェanchorが開店するまで

―― まずは、このお店を始められた経緯を教えてください。

高山 もともと、今とは違う場所で「初代ANCHOR」が2005年に誕生し、2010年に現在の場所に移転し、「2代目夜カフェanchor」という名前で営業していました。その時からGAY MIX BAR。どなたさまでもお気軽にをコンセプトに夜7時~朝7時まで営業している飲食店でした。店名には「船のアンカー(錨)を下してゆっくり休んでいってね」という意味を込めています。

夜カフェ時代/公式FANBOXより

―― お店自体は昔から営業されていたのですね。

高山 そうなんです。最初の初代ANCHORではアルバイトとして土日だけ働いていましたが、その後、姉妹店「艶櫻」というショットバーで1年間働きました。2010年の店舗移転と共に、2代目夜カフェanchorに戻り、2016年には夜カフェ3代目店長になりました。フードの見直し、内装のリニューアルなど、いろいろやっていましたね。

―― そこから「百合カフェ」に至るまでにはどういう経緯があったのでしょうか?

高山 もともと夜カフェ時代から、アイドル雑誌や百合漫画をこっそり置いていたんですよ。森永みるく先生の『くちびるためいきさくらいろ』とか、犬井あゆ先生の『定時にあがれたら』とか。あとは『citrus』。まだ3巻くらいだったかなぁ。犬井先生からは恵贈して頂きました。

―― その頃は、高山さんのご趣味で置かれていた。

高山 そうですね。当時は2丁目にも飲食店が増えてきまして。店長4年目を迎え、飲食だけではパンチが足りなく悩んでいました。そんな時に社長から「ちびこ(編注:高山さんの愛称)がやりたい事、お客様はもちろん、働いて楽しい場所じゃないと続かない。百合が好きならいろいろ調べてみたら?」と。その言葉ですぐに調べました。漫画が置いてあるBLカフェはあるけど、百合漫画を沢山置いている百合カフェはない!

―― なるほど。

高山 プレゼンを考えていた時、シンガポールで藤代あゆみ先生と会っていた社長からラインが届いたのです。「今、百合がアツいよ。イベントも盛況で海外でも百合漫画の人気が高まっているし」と。そのとき、あゆみ先生が叫んだ言葉が「百合は世界平和」でした。詳しくはFANBOXの日記を見てね(笑)

店内装飾は彩り豊か/会員撮影

―― 記念すべきオープン日は2020年6月3日となりました。

高山 4月中旬にオープンする予定でしたが、コロナの影響で思っていたよりも時間がかかってしまいました。でも、その分、じっくり本を集めたり、栞やロゴ、キャッチコピーをみんなで考えたり、しっかりと準備をすることができました。


常連さんには百合漫画家の先生たちも

―― 百合カフェといえば、ズラリと並んだ百合漫画の本棚。何冊くらいあるのでしょうか。

高山 もう2000冊を超えていますね。百合姫が月刊になって、それにあわせて単行本も増えて。昔と比べて、百合を出す出版社は増えていると思います。

百合漫画の背表紙がズラリ/会員撮影

―― お店を開くのに合わせて揃えられた。

高山 SNSの情報や百合ナビさんのランキングなどを参考に揃えました。そこから、先生やお客様から寄贈や献本して頂いたのも多く、あっという間に増えていきました。

―― 先生ご本人からの寄贈も多いのですね。

高山 先生たちがお店に来てくださることが増えましたね。百合カフェ準備の時に、犬井あゆ先生とはるしおん先生に店内に飾る百合の絵を依頼しました。犬井先生には夜カフェ時代から猛烈にお願いしていました。はるしおん先生は初めましてでしたが快く引き受けて下さり嬉しかったですね。

犬井あゆ先生(左)とはるしおん先生(右)/会員撮影

―― 先生たちとの関わりは、百合カフェを始めてからの方が多いですか?

高山 そうですね。もともと常連の先生たちもいましたけど、お客様として来店していただいて、お話をして。1年目に「百合カフェアンカー新聞」というフリーペーパーを出したときに、まだお会いしていない先生たちにもオファーをしたので、そこでの繋がりもありますね。いのり。先生には最初の頃から応援していただいています。ありがたいことに、生肉先生とのコラボは、もう第4弾になりました。

―― 初期の頃には『夜、灯す』とのコラボもありました。

高山 そうなんです。ホラーゲーム百合のコラボをしてみませんか、と日本一ソフトウェアさんがメールを下さり。担当者の方と直接お話をしました。あとは百合姫さんからも、巻末の「百合好きの本屋さん」というコーナーにコラムを書かせていただいて。それまで百合というジャンルのお店が無かったので、1年目はいきなりDMが来て、という感じの依頼が多かったですね。


目指すのは「いろんな繋がりが生まれる場所」

―― 当初はどのようなお店を目指していたのでしょうか?

高山 キャッチコピーの「百合を愛するすべての人へ。美味しいと、お茶と、お酒と、たくさんの本と。」という想いを大切にし続けています。いろんな繋がりが生まれる場所ですね。先生とお客様との繋がりも、百合好きの人、興味ある人、カフェが好きな人、まだ、恥ずかしくて堂々と言えない人たちも。百合カフェに来たら趣味全開で好きな事を好きと言える場所に、沢山の出会いのきっかけになれる場所になれたらいいなって。

店内にはコミュニケーションノートが常設されている/公式X(Twitter)より

―― 最近ではオフ会なども開かれています。

高山 そうですね。場所が新宿2丁目だと、夜の街・賑やかな街のイメージがあると思うんですよ。若い子たちは特に。百合カフェは土日10時から開いているので、明るい時間帯で未成年の方も安心。それでも不安だなって方に来てもらうきっかけとして、オフ会やイベントを開いています。一度来て頂けたらイメージが変わるので。

―― まずは来てもらうきっかけを作る。

高山 そうですね。お店の前の階段を登れずに、躊躇して帰っちゃう方もいるので、最初の一歩も大事だなと思って。先日、高校生のオフ会を開催したときも、不安だなって問い合わせがあり、お店に直接ではなく、ある場所で待ち合わせてから皆で行きました。百合カフェの場所が分かりづらく、迷子になる方もいらっしゃるようなので、SNSで百合カフェanochorまでの道のりも載せました!

―― お客様は何を見て来られる方が多いですか?

高山 百合カフェanchorは、X(Twitter)InstagramTikTokFacebookを使用して宣伝をしています。海外からのお客様も多いですね。

―― 海外からのお客様。

高山 そうですね。アメリカからのお客様もいるけど、比較的アジアからのお客様が多いかな。韓国、台湾、中国、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシアなどなど、来てくれた方がSNSにシェアしてくれて、また広がっていく。フィリピンの方は百合カフェでプロポーズしたいと連絡がきて、プロポーズ大作戦して大成功しましたよ。それに、お店には海外の本もあるんです。お客様の寄贈や先生からの恵贈で、ドイツ語、タイ語、韓国語、あとはスペイン語かな。英語の小説はあるけど、漫画はないんですよね…。


今の二丁目は「女性が一人でも安心して来られる場所」

―― ところで、高山さんはいつから新宿二丁目に来られたのでしょうか?

高山 新宿二丁目は、20歳から遊びに来ているんですよ。もう25年かぁ(笑) チャットで知り合ったみんなでオフ会をしたのが、行くようになったきっかけです。その頃は遅くまで営業している飲食店や、女の子のお店が少なくて行く場所が限られていましたね。

―― 25年前と比べて、変化を感じることはありますか?

高山 変化はものすごく感じますね。当時、女の子のお店は3‐4軒くらいしかなくて。一人だと不安なので、皆で集合して二丁目に行っていました。女の子のお店も増えて、今は30軒くらいあるのかな? 女の子一人でも気軽に来られる場所になったので、そのへんは凄く変わったなぁと思います。自分でいられる安心、自由な街。好きなことを好きと言える。酔っ払いもいてひやひやする事もあるけど、夜の街なのでご愛敬ってことで(笑) 歌舞伎町とはまた違う夜の街ですね。

―― 昔と今、高山さんはどちらの街がお好きでしたか?

高山 昔は昔で良いところがいっぱいあるんですけど、今はLGBTQって言葉も当たり前になってきて、男性が多い街のイメージも変わり、レズビアンBARのお店が増えてきたのもあり、女性が一人でも安心して来られる場所になってきたなーって。どの時代も好きですね、二丁目(笑)

―― しばらく二丁目に通ってから、上京してこられた。

高山 そうですね。その当時は地元のカフェで働いていたんですけど、田舎にレズビアンBARなどなく、夜はお店も早く閉まるし、朝まで賑やかな二丁目は憧れがありましたね。アジト(編注:anchorの系列店)をホームにしていて。いつか東京行きたいな~って話していいたら、姉妹店にANCHORってカフェがあるよと社長から誘われて。30歳のときに上京したので、出てきたのは遅かったですね。


百合との出会いはチャットサイト?

―― 高山さんが百合に出会ったのはいつですか?

高山 本屋さんが無いので…。ケータイサイトでCHI-RAN先生の『少女美学』を見つけて、そこから読みはじめたと思います。

CHI-RAN『少女美学』

―― なるほど。百合漫画だけが置いてあるサイト、という感じですか?

高山 すごい昔だからなぁ…。「アジアレズビアンウェーブ」っていうチャットサイトだったんですけど。当時は出会いの場所が二丁目かサイトしかなくて。そこでたまたま見つけたのかな?

―― その頃読まれていた漫画は、2000年代後半くらいの作品ですよね。

高山 そうそう。2006年くらいもあるんじゃないかな。百合姫っていうのもそのときは知らなかったですし、お客様が『つぼみ』とか『ひらり、』とか持ってきてくださるのを見てすごいなと思って。どこで情報を得てたんだろう、みたいな。百合漫画よりリアルの方を頑張っていたんでね(笑)

蔵書の中には寄贈された本も/公式X(Twitter)より

―― その時はどういう漫画がお好きでしたか?

高山 えーと……。けど、その当時は学生百合が多かったので。今は社会人百合もすごいけど。ほとんど学生だからなあ。皆、学生百合が好きですよね。

―― 当時、二丁目コミュニティでは百合が流行していたのでしょうか?

高山 うーん。どうなんだろうね。

(高山さんが呼びかけると、スタッフさんも一時的に加わる)

スタッフ 私はマリみて(編注:マリア様がみてる)が……。

高山 それで、あれだ。ウテナ(編注:少女革命ウテナ)とか、アニメは見ていたから。ストロベリー・パニックとか。ストパニは「艶櫻」のときにBOXで買っているから。あと当時、マリみての話はね、ガールズバーで出ていました。

ストロベリー・パニック DVD BOX(Amazon商品ページより)

―― アニメ第一期は2004年くらいですよね。

スタッフ 小説がたぶん2003-4年とかで、アニメが2005-6年で。

高山 そのくらいだよね。アジトで話してたから。

スタッフ 百合ブームで盛り上がって。お嬢様ことばとかね。良かったよね(笑)

高山 そうそうそう! そうそう、そうそう。

スタッフ お姉様っていう響きが良いから。

高山 「タイが曲がっていてよ!」とか、お姉様ごっことかね(笑) 住んでたのが田舎で、漫画が簡単には手に入らなかったから、アニメの頃から流行りはじめたのかな。アンカーで働きだしてから、携帯がスマホになり、百合も身近になり…。良い時代になりましたよね。


悲恋よりはハッピーエンドが好き

―― 今はどういった作品を読んでいるんですか?

高山 今は、ファンタジー系に沼ってしまったので。最近だと『ヴァンピアーズ』とか『シャドーハウス』とか。あとアニメでもやっていた転天(編注:転生王女と天才令嬢の魔法革命)かな。百合姫も、最近はファンタジー系が増えてきてますよね。

鴉ぴえろ・きさらぎゆり『転生王女と天才令嬢の魔法革命』1巻

―― 百合姫も読まれている。

高山 単行本も楽しみにしているので、じっくりではないですけどね。社会人百合だと瀬田せた先生とか、ああいうコメディ系も好きなんです。映画は悲しい結末が多いけど、漫画とか、アニメの世界はちょっとハッピーなところがあるじゃないですか。きたかわ(編注:きたない君がいちばんかわいい)みたいに悲しい結末で終わるのもあるけど、そういう作品は元気な時じゃないと読めないので、自然とコメディやハッピーエンドに手を伸ばしています。毎日、一生懸命働いていて、一日の終わりにはバタンキューなんです(笑)

―― 悲恋よりはハッピーエンドを読みたい。

高山 だから、考え方がちょっと違うかもしれない。百合好きのノンケさんが見る百合とは、また違うかも(笑) ウチのお店もそうだけど、百合男子の人も多いので。

―― たとえばどういうところで感じますか?

高山 そうだな~。私は女性が恋愛対象なので、重ね合わせて読むこともあるんですけど。学生時代にこんなことあったらいいな、お姉様と女子校とか行きたかったな、みたいな。実際の女子高はよくわからないですけど(笑) イメージがね。

―― なるほど。

高山 女性の恋愛って、カラダだけじゃなくて感情とか、心の動きが大切みたいなところがあって。もちろんカラダの相性もありますけど、百合男子は自分とは違う心の動きが好きなのかなって…。こういう話題って、話していると途中からよくわからなくなるので、最終的には「好きは好きでいい!」ってなるんですけどね。


いろんな理由があっていい

―― 最近のアニメだと、リコリコとか人気ですよね。

高山 ああいうバディ関係? 何ていうんだろうな。シスターフッドも百合だと思っているので。『マイ・ブロークン・マリコ』とか『ハコヅメ』も。『四角い恋愛関係』っていうイギリスの映画があるんですけど、それもハッピーエンドで。

『リコリス・リコイル』Blu-ray 第1巻(Amazon商品ページより)

―― やはり明るい話がお好き。

高山 お店には、高校生の子たちも来るのですが、その時代ってめっちゃ悩んだりするじゃないですか。だから、明るい話も読んで、元気を出してくれたらいいな、とおばちゃんは思います(笑)

―― 高山さんが読みはじめた頃から、百合男子は増えていますか?

高山 増えてます、増えてます。あと、他のジャンルを描いてた先生が、百合漫画を描くようになったりしていますよね。逆もしかりで、昔は百合を描いていたけど、今は別のジャンルを描いている先生とかもいますし。だからたぶん、百合だから好きな人も、恋愛の話だから好きな人も、いろんな理由でいいんだろうな。


あなたにとって百合とは?

―― 最後に、恒例の質問をお聞きしたいと思います。高山さんにとって、百合とは何ですか?

高山 出た(笑)

―― 出ました(笑) 一応、他の方からは一言で答えていただいています。

高山 あ、本当(笑) じゃあ、「百合は世界平和」で。あゆみちゃんが言ってたけど(笑)

―― その心は?

高山 たぶん、皆が思うことはそれぞれ違うかもしれないですけど、ウチに来てくれる百合好きの人には平和な人が多くて。だから、百合が世界を救うんじゃないかな(笑)

百合は世界平和/公式X(Twitter)より

―― 百合は世界を救う。

高山 そうそう。百合好きには平和な人が多い。お店でやんちゃする人もいないし。それって、好きな空間で、好きな本や好きな話で、好きが溢れているからかなって。

―― 百合カフェには好きが溢れている。

高山 お店にコミュニケーションノートがあるんですが、感想がもう平和な言葉しかないんです。そういう言葉があると、みんな幸せになれますよね。百合は世界平和。百合は、世界に広がっているから…。


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